04
昨夜の出来事がすべて質の悪いドッキリであってほしかったと思うカズヤ。
そう願いながらリビングのドアを開けたカズヤだったが、視界に飛び込んできた光景に絶句した。
キッチンには、昨日と同じ銀髪を揺らし、フリルのついたエプロンを身につけたレナが立っていた。
「あ、カズヤ。おはよう! レナちゃん、お料理の手際も凄いのよ」
母親がはしゃぎながら見せた味噌汁の豆腐は、一辺10ミリの完璧な立方体に切り揃えられていた。
「……おはようございます兄さん。低知能な……失礼、睡眠不足な個体は朝に適切な糖分を摂取しないと脳の処理速度が低下します。速やかにこの最適化された燃料を補充して下さい」
レナは一ミリの狂いもなく箸をセットした。
カズヤはレナの横を通り過ぎる際、母親に聞こえないようレナの耳元で小さくツッコミを入れた。
「お前、そのエプロンどこから持ってきたんだ? あと『燃料』って言うな、朝飯だ」
レナは無表情のまま見つめ返してくる。
「エプロンは、この居住区の空気中から炭素素子を抽出し、分子構造を再構築して生成しました……兄さん、私は兄さんのパフォーマンスを最大化するためにここにいます。それ以外のノイズ(母さん)の調理法は、非効率的すぎて見ていられませんでした」
「分子構造……? お前、さっきから何のSFごっこだよ! あと母さんをノイズって言うな!」
カズヤはそう言い終えると着席し恐る恐る完璧すぎる豆腐を口に運んだ。
だがそれは悔しいことに温度も味付けも細胞の隅々に染み渡るほど完璧だった。
「味は……ま、まあ、普通だな」
「嘘おっしゃい、カズヤ。さっきから手が止まってないじゃない」
母親の笑い声が響く中、レナだけが食事を摂るカズヤを、無機質な瞳で見つめ続けていた。
暫くしてカズヤが食事を終えるとレナが口を開いた。
「兄さん。今日のスケジュールを確認します。兄さんの通う学校とやらには私も同行します」
「はぁ!? 何言ってんだお前! 手続きとかどうすんだよ!」
カズヤの問いに対しレナは当たり前のように答える。
「関係者の脳内データは既に最適化が完了しています……問題はありません」
「は? の、脳内データ? 最適化?」
カズヤはレナが差し出した、完璧に畳まれた制服を見つめながら、背筋に冷たいものを感じていたのだった。




