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02

翌日、バイトの帰り道、カズヤは自宅の玄関で足を止めた。

昨夜、海に飛び込んでずぶ濡れになったはずのスニーカーが、汚れひとつなく綺麗に乾いて並んでいた。

あまりに不自然なその状態に、カズヤは言いようのない違和感を覚えた。


「……ただいま」


ドアを開け、家の中に入る。

いつも通りの光景が広がっているはずだった。


「お帰りなさい、兄さん。今日は少し遅かったですね」


リビングの入り口に、一人の少女が立っていた。

昨夜、海岸で動けなくなっていた、あの少女だ。

白いブラウスにスカートを合わせ、透き通るような銀髪を背中に流している。

見惚れるほど整った顔立ちだが、その瞳にはどこか現実味がない。


「……は?」


カズヤは絶句した。


「なっ、なんで、お前がここに……どうやって入ったんだよ!」


混乱するカズヤをよそに、キッチンから母親がのんびりとした声を上げた。


「カズヤ、お兄ちゃんなんだからそんな言い方しないの。レナちゃん、ずっと待ってたのよ?」


「……お兄ちゃん?」


カズヤは自分の耳を疑った。

母親は、レナを再婚相手の連れ子である「義理の妹」として、何一つ疑わずに受け入れている。

リビングの棚に目をやると、家族写真が飾られていた。

そこにはカズヤと両親、そして幼い頃のレナが並んで笑っている姿が、昔からそこにあったかのように収まっている。


カズヤはレナを廊下へ連れ出すと、声を潜めて問い詰めた。


「おい、一体何をした。俺の親に……いや、この状況、全部お前が仕組んだのか?」


レナは表情を変えず、ただカズヤを見つめた。そして、何やら呟いた。


「……周囲の低知能個体への認識改変、および履歴の定着は完了しています。この星の原生生物は脳の構造が単純なので履歴を最適化するのは容易でした」


「は? 原生生物? お前、さっきから何のSFごっこを……」


カズヤは呆れと恐怖が脳裏によぎる。


(原生生物とか言葉がいちいち不気味すぎるだろ…どっかのカルト教団にでも洗脳されてんのか、こいつ…)


「周辺への認識、および履歴の定着を確認……継続します」


彼女の胸元の奥に潜んでいるデバイスが、その声に反応した。

ボタンも画面も存在しない、ただ彼女の声という認証のみで動作する。

それが周囲の物質や、人の脳に刻まれた記憶を一瞬で組み替えていく。


その瞬間、カズヤは奇妙な感覚に襲われた。

「レナは昔から俺の妹だ」という考えが、ごく自然に、音もなく頭の中に滑り込んでくる。

問い詰めようとしていた言葉が、なぜかひどく場違いなものに思えてくる。


「兄さん、そんなに怖い顔をしないでください。私はただ、借りをお返しに来ただけですから」


レナはそう言うと、カズヤの横を通り抜けてリビングへ戻っていった。

廊下に取り残されたカズヤは、昨日海で彼女を助けた明確な記憶と、目の前にある「妹」という現実の矛盾を抱えたまま、立ち尽くした。


「どうなってるんだよこれ…」


昨日まで存在しなかったはずの銀髪の妹。

周囲が彼女を家族だと信じ込む異常な状況の中でカズヤは釈然としない思いを抱えながらも、彼女との共同生活を受け入れざるを得なくなっていた。

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