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数日後の夜。
カズヤは、一度は棚上げしたはずの「レナ宇宙人疑惑」が気になって仕方がなかった。
脳の片隅には、彼女が人間離れした何かをしでかしたような、断片的な記憶の火花が散っている。
だが、それが決定的な確信に変わろうとする直前で、いつも霧がかったように霧散してしまうのだ。
それは、レナがカズヤへの「借り」を返すため、彼への脳内干渉を極限まで抑制している結果なのだが……今のカズヤにそれを知る術はない。
結局、カズヤなりに一日かけてレナを観察してみたものの、決定打は得られなかった。
(……おかしいと言えば、おかしいんだよな)
重い荷物を持たせても呼吸一つ乱さず平然としているし、適当に振った難解な話題にも、検索エンジンより正確に答えてくる。
だが、それは「凄まじくハイスペックな妹」という強引な理屈で片付けられなくもない範囲だった。
(他に……もっとこう、宇宙人特有の何かはないのか……?)
カズヤが悶々としながら、次なる検証プランを脳内で練っていた、その時だった。
「……兄さん。本日の観察行動についてですが、いくつか非効率な点が見受けられました」
レナが感情の起伏がない声で不意に口を開く。
「は?」
カズヤの思考が停止した。
そんなカズヤをよそに、レナはいつもの無表情のまま、淡々と続ける。
「重量確認、反応速度測定、知識照合……それぞれの手法に、改善の余地があります」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
心臓が一気に跳ね上がった。
必死にとぼけようとするカズヤだったが、レナは逃げ場を塞ぐように、今日彼が実施した「検証」の内容を次々と読み上げていく。
「ひょっ、ひょっとして、全部……分かってたのか?」
レナは小さく頷き、「はい」と短く返した。
最初から、手の内はすべて透けて見えていたらしい。
「じゃあ、なんで黙ってたんだよ……」
半ばやけになって問い詰めると、レナはほんのわずかだけ間を置いて答えた。
「……兄さんが納得するまで、観察を継続する必要があると判断しました」
いつも通りの、あまりに真っ当で、あまりにズレた回答だった。
カズヤはしばらく黙り込み、やがて敗北感を認めるように小さく息を吐いた。
「そ、そうか……、んで、お前の結論は?」
レナは一瞬だけカズヤを見つめ、静かに告げる。
「……現時点において、兄さんの立てた仮説は『未確定』です」
否定も肯定もしない。
だが、その瞳の奥にはカズヤを見透かすような冷徹な知性が宿っている。
レナはさらに畳み掛けた。
「再検証を行うのであれば、より効率的な手法を提案可能です」
「ごめんなさい、もうしません……っ!」
カズヤは両手で顔を覆った。
妹を調べていたつもりが、その実、自分の方が実験動物のように観察されていたのだ。
その気恥ずかしさに耐えきれず、カズヤは逃げるように自室へ向かった。




