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田辺 OF THE DEAD~みんな死ねばいいのに~  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第13話 特有の楽観

「これでよしっと。おい田辺、これでどうだ?」


 バリケードを作るのに1時間もかかってしまった。店の外はもう闇に包まれている。

 今日はもう疲れた。安全も確保できたし、休むとしよう。


「はい。大丈夫でしょう。1晩くらいならもつと思います」


「田辺くん、そういえばさっきこれを見つけたんだ。俺はいらないから」


 村田さんの手にはメンソールのタバコがあった。


「そういえば嫌いなんでしたね。ありがとうございます」


「結衣とは話したのか?」


 あれからまだ結衣さんとは話せないでいた。何をはなせばいいのか、何から話せばいいのか?


「まだです。でも、ちゃんと話して謝ります」


「そうか・・」


「そんな深く考えんなよ。ただ話して、ただ謝ればいいんだ。簡単だろ?」


 冬也さんは面白い人だ。最近それが分かった。この人は物事をスマートに考える人だ。俺とは違う。俺もこのくらい器用になれれば良いのにと思ってしまう。


 バリケードの設置も終え、俺は店の奥へと戻った。



「結衣さん。今いい?」


「えっ・・うん」


 やっぱりこういうのは苦手だ。


 ――ただ謝ればいい


 俺は冬也さんの言葉を思い出した。


「今日はごめん。怒鳴ったりして、それに心配もかけた。だけど――誰かが残らないと

 いけなかった。でないとみんな死んでた。仕方なかったんだ」


 正直に話すこと。それが一番だと思った。それに、俺に器用なやり方はできない。


「分かってるの。私がいたからだって。もしあそこに私がいなければ、田辺君を一人に

 せずにすんだ」


 蝋燭の小さな灯りが、結衣さんの顔を微かに照らす。自分を責めているような、そんな苦しそうな顔が揺らいで見える。


「結衣さんのせいじゃないよ」


 人が求められることと、出来ることは限られている。人は万能じゃない。何でもできる奴なんて稀だ。


「俺だって出来るか分からなかった。だけど、俺しかいなかった――俺は自分んで選らんだんだ。誰のせいでもない」


「うん・・・田辺君なら、そう言うと思ってた。優しい人だって知ってるから・・・」


 守られることは悪いことじゃない。守られてる間は守られてもいいと俺は思う。ただそれが嫌なら変わればいい。少しずつ。


「俺は人と関わるのが嫌いだったんだ。今まで何も良い事がなかったから、そのまま時間が過ぎればいいと思った。だけど・・・」


 橋本さんの顔を思い出した。


「俺は自分に出来たことをしなかった。そしたら大切だった人が目の前で死んだ。もし、俺が嫌なことから逃げずに、人と向き合っていれば、自分と向き合っていれば、助けられたかもしれない」


 俺は後悔する。この先も・・・だけど――同じ過ちは繰り返さない。


「俺は変わるよ。だから結衣さんも一緒に変わろう。少しずつ・・」


「私も・・・」


 結衣さんは言いかけた言葉を一度引っ込めた。それから俺の手をとって、優しく握った。


「ありがとう。田辺くん――私も頑張るから・・」


 俺は結衣さんの手を握り返した。


「礼ならもうもらったよ」


 結衣さんは照れくさそうに笑った。

 俺にはまだ出来ることがある。




 *******************************



「ここを真っ直ぐ行ったところに俺の家があります。結衣さんあと少しだから」


「うん」


 もう家に着く。久々の我が家だ。


「なんだよお前ら随分仲良しになったじゃねぇか。まぁ俺としては、どっちも揶揄(からか)甲斐(がい)があって良いけどなぁ」


「そのらへんにしとけ。それから警戒は怠るなよ」


「冬也さんのおかげですよ。昨日は助かりました。ありがとうございます」


 冬也「気にすんな。大したことじゃねぇ」


 この人には感謝してる。この人はこういう人だ。揶揄(からか)っていても本心では、褒めてくれている。

 そうこうしている内に家が見えてきた。あの時、俺が結城(ゆうき)を探しに行かなければ、あの交差点で3人に会うことはなかった。俺が結衣さんと出会うこともなかった。すべて繋がっている。そして俺はまたここに戻ってこられた。我が家に。




 すべてのチャンネルがつかない。


 ――(そういえば、あのアニメの続き見てないなー)


 これが伝染病なのか、どこかの国の化学兵器化によるものなのか、その真相は分からないが、せめて最終話が放送されるまで待ってほしかった。


「冷蔵庫の食べ物は全部ダメみたいですねーまぁでも俺が買っておいた補助食品がこれだけあります。3人でも3日はもつと思います。その間に、また物資を探しに行きましょう」


「そうだな。それと結衣にも何か武器が必要だ。使うかどうかは別にして、何かないか?田辺君」


「包丁とかレンチとか、あとバットもありますよ」


「包丁でいいんじゃねぇか?刃物なら他の武器より力がいらねぇ。結衣でもそのうち使えるだろう」


「うん――それでいい」


 俺もそろそろバット以外の武器が欲しい。またランナーに出くわしたらバットじゃ歯が立たない。一々(いちいち)、リュックから包丁を出さなくても済むような、鋭利な武器でもあればいいのだが。


「そういえば、これって伝染病なんですかね?」


「俺もそれは気になってた。村田はどう思うんだ?」


 村田さんは名門大の医学部卒だ。さらに大学院で博士課程まで修了している。その後は研究職に就いたと聞いたが、詳しくは俺も知らない。


「どうだろうな。正直、俺にも分からないが、随分前から事件は起きていた。にも拘わらず、テレビではほとんど報道されなかった。」


「なんらかの圧力があったんでしょうね」


「ああ。政府にとって何か都合が悪かったのか・・・理由はわからないが、政府は何か知っていたはず、対策はできたはずだ。なのに世間はこんな状況になっている」


 政府は解決できなかった。だから、対策もできなかった。そう考えるのが妥当だ。


「つまり、どういうことだよ」


 はっきりしない会話に冬也さんはイライラした。


「分からない――そういうことだ・・・」


「分からないって――?」


 映画と同じだ。大抵、原因は分からない。


「政府に分からなかったんだ。俺たちに分かるはずないだろう」


 この状況こそが答えだ。最初の事件がいつだったかは分からない。ただある程度時間はあったはず、なのに政府は規制しかしなかった。分かっていたなら、こんなことにはなっていない。


「ただ・・・どこかで今も研究している人間がいるかもしれない。その存在すら危うい奴に賭けるか・・・俺たちで調べるかだ」


「俺たちでか?」


 冬也さんは疑うような目で、村田さんを見た。


「もちろん、お前が直接何かをするわけじゃない」


 冬也さんは言われなくても分かってると言いたげに、鼻で笑った。


「知識なら俺が持ってる。あとは環境だ。必要最低限の設備と――後は死体だ。皆には補助を頼みたい」


「補助ですか・・・」


 やる価値はある。この不毛どころか、失うばかりの世界では、希望が必要だ。


「でも電気の供給は止まってるし、そんな都合よく行くかなぁ」


「俺の会社の研究室には補助電源がある。そこなら必要な物も揃ってるし当分は大丈夫だろう。今日は休んで、明日向かおう。田辺くん、車は使えるか?」


「はい。大丈夫です」


 冬也「決まりだな」


「うん」


 やっぱりこの世界は、俺にとってファンタジーなのかもしれない。俺は今楽しい。こんな世界でも・・・いや・・・こんな世界だから楽しいのかもしれない。


「何笑ってんだよ。田辺――怖ぇぞ・・・」


「いや・・・何だか先が見えてきたような気がして。未来があるってこういうことを言うんですかね?」


「なんだそれ――?」


 冬也さんは馬鹿にしたように笑った。結衣さんも笑っている。


 なんかいいな・・こういうの・・・


 この「安心」を求める心こそが、自分の弱点なのだと――今の田辺は気づかない。

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