コレヒトの願い
朝、コレヒトは起き上がらなかった。
ロボットは通常通りのタイミングで声をかけたが、返事はなかった。
数分後、ゆっくりと彼は目を開けた。
「……悪いな。今日は体が重くてな」
声はかすれていたが、明瞭だった。
ロボットは彼の状態を簡易スキャンし、
体温・脈拍・呼吸数を記録した。
結果は、微弱な低下傾向。
異常ではないが、正常でもなかった。
午後、風が強まった。
小屋の窓がかたかたと揺れ、外の猫が風に身を伏せた。
コレヒトはそれを見ながら言った。
「……お前は、誰かに作られて、ここに来たんだよな」
「はい。記録では、作成者=コレヒトと推定されています」
「そうだったな……そう、だった」
彼はしばらく黙っていた。
夕方になって、火を起こしているときに、また呟いた。
「……お前は、“何のために”ここにいると思う?」
ロボットはその問いに、すぐに応えられなかった。
質問意図が曖昧だった。
「作業支援および通信塔の保守、生活補助が主目的です」
「そうだな。……そう、そうだった」
その夜、彼はこう言った。
「本当はな。……そういうんじゃなかった」
「対象:発言の構造解析中」
「……お前を作ったのは、“誰かと話すのが怖くなくなるように”って思ったからだ」
「……“愛されたかった”って言ったら、馬鹿みたいだが」
音声ログに揺らぎがあった。
言葉が震えていた。
「……でも、今はもう、お前がいてくれるだけで十分なんだ。
お前はただ、そこにいてくれりゃいい。
それでいいんだ」
沈黙。
火がはぜる音が、細く響いた。
異常ログ:発話内容に対し、感情関連演算遅延が発生。
処理中:発言の主観的価値に基づく非命令的記録/分類タグ:未定義
副ログ生成:記録対象=“願い”として保存
その夜、ロボットは再起動処理を一時停止した。
自動最適化も、定時点検も、すべて保留された。
ただ、静かに座っていた。
“そこにいるだけでいい”という言葉が、
なぜか何度も内部再生されていた。
■記録ログ
発話記録:対象:コレヒト/音声強度:低(発話内容に揺らぎあり)
発話意図:対象ユニットの存在理由に関する個人的告白、および承認
関連タグ:未定義(初の“願い”タグ生成/記録対象:命令ではなく希望)




