2.兄弟とお礼
「地獄。」
生徒会選挙が終わり、生徒会が決まると、暑い中外で生徒会のメンバーの意気込み的なそれを言うから聞けだ?地獄すぎて嫌になってくる。
「生徒会長になりました。3年1組の和花 睦月です。」
「...和花?」
「あ、俺の兄。」
後ろにいた如月がそう言うと、納得して彼を見る。和花の家は何度も離婚と再婚を繰り返したりしたせいか、皆完全に血が繋がってるわけじゃない12人兄弟で、髪色もバラバラ。彼だって地下で水色だ。短い髪を後ろで少しだけ結っている。毛先の方は白色になっている。目は黄色。外国人との間にでも生まれたのだろうか...。
「外国人の人がお父さんだったみたいだよ、」
本当に外国人だったようだ。話は結構長い。正直思う。
「...完全に血が繋がってるわけではないってのは分かるよ?けど、如月と違いすぎて怖い。」
「違いなんてないよ!!」
「じゃあなんでテスト赤点なの?」
「...。」
睦月さんは全教科満点らしい。凄いよね。
「あー、言い返したいけど夕星も全教科満点だから何も言えない!!」
この学校で2人だけの全教科満点が、睦月と夕星らしい。初めてそれを知った如月は顔を青白くしてた。
「...あれ、夕星も生徒会に推薦されてたよね。」
「されてたね。」
「なんで入らなかったの?」
「え、だって仕事増えたらあんたに勉強教えられなくなるかもじゃん。ウチ、あんたを赤点じゃなくすの目標にしてるから。」
「え、勉強まだ手伝ってくれるってこと!?もう捨てられたと思ってた!!」
ちなみにこの数日前にテストが帰ってきて、見事にまた赤点だったので、昨日まで口を聞かなかった。それでもう捨てられたと思ったのだろう。
「でさ、最後に少し良い?」
「何?」
「...弟語り始まったんだけど。」
睦月が弟語りを始めた。ちなみに名前を出していないところだけはしっかり配慮しているのだろう。
「もしやブラコン?」
「結構なブラコン。」
「納得したわ。」
やっと暑い外から解放されると、すぐに冷房の効いた教室でグダる。
「...夕星、次移動教室だから行かないと!!」
「そだねぇ。」
「走って競争する?」
「却下。」
「えぇ!?」
そう話しながら廊下に出ると、1人の男子生徒が近づいてくる。
「如月、仲良い人が出来たのですね。」
そこにいたのは睦月だった。
「むつ兄!どうしたの?」
「如月に友達が出来たのなら、少し挨拶をと思いまして。」
「いらないよそんなの!!」
そう話している2人を見て、これ去った方がいいかと思ったため、こっそりとその場を後にする。
「あ、あの!」
「ん?」
声の方を向くと、昨日の白髪の子がいた。
「君は昨日の...どうしたの?」
「その、お弁当箱を返しに来ました。」
「ありがとね。...美味しかった?」
「はい!」
「それならよかった。」
弁当は全て手作りだったので、そう言われて顔が少し緩む。
「夕星〜!!」
「夕星さ〜ん!!」
睦月と如月の声が聞こえてくると、無意識にげという声が漏れる。
「ウチはそろそろ行くかな。次は忘れないようにね〜。」
「はい!」
そして2人に追いつかれないように競歩でその場を後にする。
「わっ!?」
「きゃあ!」
角のところで人とぶつかる。ぶつかった子が倒れそうになっていたので、どうにか手を伸ばして腰を抱えて支える。
「セーフ...ごめんね、平気?」
「ぁ、その、ありがとうございます!!」
ベージュで腰くらいまであるふわふわの髪を靡かせながら、その子はお辞儀をしてくる。
「あの、お名前は...?」
「ウチ?夕星だけど...。」
「僕、葉月って言います!よろしくお願いします!夕星先輩!」
「葉月...?」
その名前を聞いた瞬間にとある2人が頭に浮かぶ。そして、追われていることを思い出す。
「ウチもう行かなきゃ。じゃあね!」
「はい!!」
走りながら思い出したが、名前が同じ人は世の中何人もいるだろう。だから、彼女はあの2人の家族ではないだろう。何せ、全員男だって言ってたから。
「やっと捕まえました。」
その声が聞こえると、誰かに後ろから抱かれる。そう、抱かれたのだ。そして聞こえるのは聞いたことある優しい声...。
「離してくれません?...睦月さん。」
「嫌です。そしたらまたお逃げになるでしょう?」
「逃げないから離してください。これは流石にまずいです。」
そう言うと、睦月は離してくれたので、向かい合わせになる。
「さて、改めまして...僕は如月達の兄である睦月です。」
「八瀬 夕星。」
「八瀬...あぁ、テスト満点の。いつも僕と一緒に並んで名前が書いてあるところを見て、誰なんだろうと思っていたんですよね。貴方だったとは。」
「そうですね...。」
早く終わらしたいと思っているのがバレたのだろうか。少し悲しそうな顔をしていた。
「...前までは、如月は休み時間も僕の元に来てくれたんです。去年までは、自分から話しに行っても、誰も反応してくれなかったようなんです。だから、今年は来なくて少し悲しくはありますが、如月は最近楽しそうなんです。...貴方がいてくれてよかった。」
睦月の顔はとても嬉しそうだった。
「如月のこと、大事にしているんですね。」
「僕は弟のことを好いていますので。」
「...いいですね、そういうの。ウチの姉にも見習ってほしい。ウチのことを自分の格を上げるための道具としか見てないあんな奴に...。すみません、今のは気にしないでください。」
夕星はそろそろ時間なので、とだけ言ってその場を後にした。
「あ、夕星!!」
「...如月。」
如月を見てると、少しドス黒い感情が湧いてきた。だが、その感情は無理矢理切り捨てて如月の隣に座る。
「...毎日、楽しそうだな。」
「だって夕星といれるからね!ねぇ夕星、今度俺の家来ない?」
「全力拒否。」
「いいじゃん!!」
くだらない会話をしたりしていると、気づくと時間は過ぎていったのだった。