表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

プロローグ後編

ズル、ズル……。

粘液の体が、地下の腐臭に満ちた土を這う。

腹は減っていない。けれど、心が飢えていた。

“誰か”だった記憶のかけらが、血肉を欲している。


《捕食対象発見──生体反応あり》

《個体:迷い子ラット・小型魔物/ランクF》

《戦闘推奨──捕食成功で進化ゲージ上昇:13%》


気づけば、体が動いていた。

反射でも、本能でもない。

「生き延びたい」という、渇きにも似た衝動だった。


 


そのときだった。

ラットがこちらに気づき、甲高い悲鳴を上げて飛びかかってきた。


(くる……!)


目はないはずなのに、動きが読めた。

ラットの動き、軌道、魔力の流れ――全部“視える”。


《スキル発動──魔力感知Lv1》

《スキル補助──情報解析Lv1》


(殺らなきゃ……殺される!)


恐怖と反射が混ざるように、粘液が衝撃で跳ね上がった。

跳ねた体がラットに直撃し、肉の隙間に自分を押し込む。


ズズ……ズリッ……。


骨を溶かす感覚。

叫びが、のたうち回るような振動が、自分の中を流れる。


(ごめん……)


再び謝った。

自分を守るためとはいえ、命を奪ったことに、どこか痛みがあった。

それでも、体はラットの肉を喰い尽くしていた。


《捕食成功──進化ゲージ:+13%》

《スキル取得──跳躍Lv1/超敏覚Lv1》

《総進化ゲージ:24%》


少しずつ、少しずつ、何かが変わっていく。

力が、自分の中に積み重なっていく。

それが嬉しいはずなのに、どこか、寂しい。


(進化って……何を犠牲にして、手に入れるんだろうな)


喰らえば喰らうほど、“人間だった頃の感覚”が薄れていく気がした。

涙はもう流せない。

でも――確かに、心はまだ泣けた。


 


《通知:特殊因子“竜核”との共鳴を検出》

《進化選択肢に“竜性進化ルート”が追加されました》

《推奨:捕食を続け、進化条件を満たしてください》


竜核――

それは、未知なる“力”の兆しだった。

だがそれが希望なのか、呪いなのか、今の彼には分からなかった。


 


──ただ一つ、確かなことがあった。


この世界に産み落とされた“忌まれたスライム”は、

まだ、心の奥で人間であることを望んでいた。


それだけは、喰らっても、進化しても、壊したくなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ