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桜並木

「以上をもって終了とさせて頂きます。出演して下さった部活動の方々、ありがとうございました」


 ステージ上で司会の先輩が最後の挨拶を行う。波瀾万丈であった集会も、これにて閉幕だ。


 一時はどうなるかと思ったが、無事に集会を終えられたことに俺は舞台袖で胸を撫で下ろしていた。

 

「あのっ、本当に申し訳ありませんでした!」


 静かな舞台袖に響いた声に目線を向けると、高梨先輩がましろ先輩に大きく頭を下げている。


「まあ、なんだかんだ成功で良かったじゃん! 正直冷や冷やしたけど」

「すいません……」


「あっはっは、そうだなっ! だが、結果オーライだ!」


「でもスピーチ良かったよ! 私、凄い引き込まれちゃった!」

「いやいや……全然大したことないです」


「謙遜するな少女よ! 自身の功績は素直に受け入れるべきだぞ!」


 そんな中、副会長が二人の間に入っていく。


「桜よかったぞ。生徒も皆聴き入っていた」

「……日菜ちゃんも色々と迷惑かけちゃってごめん」


「そういえば、副会長はどこへ行っていた? まあ、俺が言えたことではないか!」


「私は別に構わない。だが、広瀬にはしっかり謝罪をしろよ」

「広瀬くんか……うん。戻ってきたらちゃんと謝る」


「あっはっは、広瀬は怖いぞっ! 覚悟せねばなっ!」


 さっきから会長が会話に混ざろうとしているが、ガン無視されてる。あんな大男をいないもの扱いできる生徒会凄いな。

 それ以上に、あんだけスルーされて笑っていられる会長も凄いが。


 生徒達の退場誘導のアナウンスを終え、広瀬先輩がスタスタとこちらへ歩いてくる。

 上履きの色的に、高梨先輩や副会長と同じ二学年なのだろう。サラサラの黒髪が目元にかかるくらいに伸びていて、中性的ともいえる端正な顔立ちをしている。要するにイケメンだ。


 舞台袖にたどり着いた広瀬先輩に、高梨先輩が駆けていく。


「あ、あのっ! 色々と申し訳あり——」


「あのさ、自分がどんだけ迷惑かけたかわかってる?」


 いきなり圧が凄い。

 表情も変わらないし、怒鳴ってる訳でもない。ただ謎の圧が凄い。


「えっ、えっと……」


「そもそも出演者全員、何時間も前から待機してるわけ。それなのに出番ギリギリにぬけぬけ現れて。普通ならアウトだよ? どんだけ進行に支障きたしたと思ってるの?」


「す、すいませんでした……』


「次はないから」


 おっかねー。

 怒鳴り散らかすより、静かなトーンで詰めてくるタイプだな。同じタイプでも副会長はまだ諭そうとする優しさがあるが、この人は本気で潰しにくるやつだ。


「あと、そこの一年達。こっち来て」


「えっ……はい。おい、橋良行くぞ」


「……? なんだろーね」


 隣で気楽に首を傾げている橋良を連れ、広瀬先輩の元へ駆け足で移動する。

 なんだろ。中学の部活中、顧問に呼び出された時のこと思い出す。


「君達も、自分がしたことわかってる?」


「いや、そうっすよね……本当にすいませ——」


「まあ、桜先輩も来たし! 結果オーライですよ!」


 橋良、お前……死ぬ気か?

 へらへらしてる場合じゃないんだよ。空気読めないにも程があるだろ。


 広瀬先輩は鋭い目つきで橋良を睨みつけ、そのまま捲り立てる。


「何が結果オーライなの? 結果じゃなくて、過程の話をしてるんだよ。その過程で迷惑をかけていることに対して君はその態度なの?」


「え……えっと……」


「えっとじゃなくて。ちゃんと答えなよ。質問してるんだけど? 俺さ男女平等主義だから。女だから許されるとか思ってへらへらしてるんなら、容赦なく潰すよ?」


「ひっ!? ごっ……ごめんなさい……」


 顔を青ざめさせて、橋良はプルプルと震えている。

 この人には逆らっちゃダメだ。なんかこう、コンプライアンス的にダメな人だ。

 

「あっはっは! 相変わらず容赦ないな、広瀬! まあ、そんなに脅かしてやるな」


 フォローに入ってきた会長に、広瀬先輩はゴミを見るかのような目で一瞥する。


「会長、どこほっつき歩いてたんですか? 生徒会の仕事をなんだと思ってます?」


「いや、まあな……そんな気分の時もあるというか」


「そろそろ、ちゃんとしてもらえます? それとも、またあんな目にあいたいんですか?」


「す、すまない。わきまえるよ……」


 どんな目にあわされたというのか。

 この人なら、無表情で人間の爪とか剥がしていきそうだな。やっぱりコンプライアンス的にダメだ。


 とりあえず言えるのは、この人に波留を関わらせてはいけない。間違いなくビックバンが起きる。


 広瀬先輩は不機嫌そうに舌打ちすると、そのまま一人で早々と体育館を出て行った。やりとりを見ていた波瑠が、心配そうに橋良に声をかける。


「満開ちゃん、大丈夫? 震えてるよ」


「こ、怖かった!! あの人怖かった!!」


「せっかく大成功でいいムードだったのにねえ。よしっ、じゃあ放課後はお疲れ様パーティだ!!」


 パーティーという単語に、橋良の顔がパッと明るくなる。


「ほんとっ!? じゃあ、使わなかった花火あるから盛大に——」


「校内で花火は禁止だ。広瀬先輩に言いつけるぞ」


「ひっ!?」


 また子犬のように震えている。

 可哀想だが、少し面白い。


 橋良がどんどん扱いやすくなっていくな。

 魔法の言葉に、"広瀬先輩"が追加されたようだ。


 縮まって震えている橋良の頭を波瑠が撫でているのを眺めていると、チョンっと背中を指でつつかれる。


 振り返ると、高梨先輩が後ろに立っていた。


「先輩、どうしました?」


「常磐くん、ちょっといいですか?」


 先輩は手招きしている。

 場を移動したいということだろうか。


 歩き始めた先輩についていき、人気がない舞台袖の隅まで移動してきた。


 そこで、先輩は改めて頭を下げる。


「常磐くん。今回は本当に申し訳ありませんでした」


「いや、謝らなくて大丈夫ですよ。元気な先輩が見れただけで俺は充分です」


「……あの、重ねて申し訳ないのですが。最後のわがままを聞いてくれませんか?」


 先輩は顔をあげ、真剣な眼差しを向けてくる。こんな顔をされて断れる訳がない。

 というより、先輩の頼みは基本断らない。


「わがままですか? えっと、どういう……」


「昼休み、私と学校を抜け出してほしいんです」



◇◇◇◇



 電車に揺られている。

 隣の席には美人で巨乳な先輩。

 学校を抜け出して、二人きり。


 これは、なんというフラグなのだろう。

 間違いなく、何かのイベントが起きている。


「常磐くん、午後の授業間に合わなかったらごめんなさい。なるべく早く済ませるので」


「あはは……いや、まさか電車に乗るとは思いませんでした」


 抜け出すといっても、電車移動するほどの遠出をするとは思っていなかった。


 昼休みということで、橋良・波瑠コンビとの昼飯はどうする問題が生まれた訳だが、「放課後パーティーの飾りつけを波瑠とやってくれ。センスのある橋良にしか頼めない」と言っただけで、全て解決した。


 得意気に波瑠を連れて教室を飛び出し、真っ直ぐに部室へと向かっていった橋良。

 ここまで思い通りに動いてくれると逆に心配になってくる。



「ところで、何で俺が誘われたんですか?」


「うーん。常磐くんの恥ずかしいナース服姿を見たからですね」


「いや、ちょっと意味が……」


「フェアでいくべきかなと。私の恥ずかしい姿を見せるなら、常磐くんだと思いました」


 ダメだ、ますます意味がわからない。

 あの羞恥プレイを見てしまったから、自分の恥ずかしい姿も見せないとフェアじゃないということだろうか。


「じゃあ、どこに何しに行くんですか?」


「何もしませんし、常磐くんも何もしなくていいです。ただ、そこにいてくれれば構いません。目的地は……桜並木です」


「桜並木?」


 少しだけ先輩の顔が曇る。


「駅からすぐですよ。そんなに歩かないので大丈夫です」


「桜並木って……もう、桜散っちゃってますよ?」


「桜見に行く訳じゃないんです。ただ、その場所に行かなきゃ終わらないので」


 相変わらず意図がわからない。

 ただ、なんとなく先輩から違和感を感じた。


 落ち着いた話し方。

 ブレることのない視線。

 全てを受け入れているような空気感。


 これは何かを決意した人の佇まいだ。

 しかし、その胸の内から本当は溢れそうになっているモノを必死に抑えこんでいるようにも見える。


「あ、着きましたよ。降りましょう」


 俺より早く立ちあがり先輩は電車を降りていく。俺を気にかける余裕なんてないのだろう。

一人で足早にホームを進む先輩の後ろを俺はついていくが、改札の手前で先輩は急に立ち止まった。


 決意の中にある、躊躇。

 俺が感じた違和感はこれだ。


 先輩の足は小刻みに震えていた。

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