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革命の昼

「次、茶道部の方々。体育館の方へ移動をお願いします」


 これで、全ての部活の誘導が完了した。

 見渡す限り、残っているのはもう俺達相談部と、ましろ先輩だけだ。

 これは、いよいよタイムリミットが迫っていることを示している。


 それを察したかのように、ましろ先輩が口を開く。


「常磐くん、どうする?」


「どうするって……」


「部長さん、来てないよね。生徒会で仮入部の君達だけでの参加は認めないって決まってるから……」


 手伝ってもらった手前、酷なことを告げるのは気がひけたのだろうか。ましろ先輩は申し訳なさそうに目を伏せている。


 そんな中、波瑠が焦りながら間に入ってきた。


「待って、待って! 私は正部員なの!!」


「……えっと。そうなんだ」


「だから、私だけでも出して!!」


「いや、そういう話ではなくてね……あなた、名前は?」


「早乙女波瑠です!!」


 とても元気に自己紹介をした波瑠に反して、ましろ先輩の顔は曇っていく。

 そして、手に持っていたファイリングを開き、ペラペラと中の書類をめくり出した。


「うん、あのね。どっちにしても、早乙女さんは出れないかな」


「な、なんでっ!?」


「これ、相談部の申し込み書ね。参加部員の欄、見てみて」


 ましろ先輩は、ファイルの中から一枚紙を取り出して波瑠に差し出す。


「えっと。参加部員……常磐ツバメ、橋良満開、高梨桜。あれ? おかしいよ、これ。私の名前書いてない」


「うん。だから、どっちにしても早乙女さんは出れないの」


「なんで、私の名前書いてないの?」


「いや、私に聞かれても……」


 波瑠、完璧に混乱してるな。

 頭に?マークが10個くらい浮かんでいる。


「まあ、いっか。この申請用紙間違いなので、私も出して下さい」


「よくねえよ。あの時、先輩の名前だけ付け足して、自分の名前書き忘れたお前が悪い。諦めろ」


「……っ!? だ、だって……私、何言うか沢山考えて……セリフも練習して……うっうう……ちゃ、ちゃんと準備して……ううっ……うあああぁん!!」


 あーあ、泣いちゃった。

 コイツ、精神年齢的には大学生くらいのはずなのにこんなことでガチ泣きしちゃダメだろ。そもそも、高校生でもしちゃダメだ。


 ましろ先輩は、明らかにドン引いている。

 しかし、橋良は一緒になって目に涙を浮かべて波瑠を慰め始めた。


「そ、そうだよね。波瑠ちゃん、頑張ってセリフのイントネーションまでこだわってたのに……ううっ……可哀想……」


「私言いたかったっ……!! 革命起こす幕開けの夜だ!!って言いたかった……!!」


 昼だよ。外明るいの見えてねえのか。

 そもそも、さっきからセリフってなんだ。コイツら演劇でもやるつもりでいるのか。


 もういいや、放っておこう。

 これは変に触れてはいけないやつだ。


 俺はましろ先輩に向き直る。


「あの、高梨先輩が来なきゃ出れないっていうのは承知してます。でも、あの人は必ず来ます。ギリギリまで待ってもらえませんか?」


「……了解。じゃあ、体育館の方へ移動しておこうか。あの二人は?」


「放っておいても、勝手についてくるから大丈夫です」


「そっか。犬みたいだね」


 俺とましろ先輩は、体育館へ向かうため移動を始める。

 そんな俺達の姿を見て、二人は急いで自分達の鞄から手持ち花火を取り出して後をついてきた。


 花火こそ最強の演出なのだと本気の目で訴えてきたコイツらにガチ目で説教をしながら、つくづく思う。

 

 犬の方が、よっぽど賢い。


◇◇◇◇



「部長さん、来てないよね」


「そうっすね……」


 俺達は舞台袖にて、茶道部の出番を眺めている。茶具を使用した一通りの実演も終盤に入っていて、これが終わればもう最後の挨拶に入るのであろう。


 反対側の舞台袖にて、ましろ先輩からの指示を待っているのか、司会の先輩がこちらに目配せをしているのが見える。


「茶道部が終わった時点で部長さんがいなければ、私が広瀬くんにバッテンの合図を送るから。そしたら、そのまま集会はおしまい。いいね?」


「……わかりました」


 副会長が向かったとはいえ、一向に姿を見せる気配がないことに俺は半分諦めモードに入っていた。

 もう俺達の出番まで、一分もないだろう。これ以上生徒会の人達に迷惑もかけられない。ならば、早目に判断を——


「来るよ。桜先輩は、ちゃんと来てくれる」


 そんな俺の思考を見透かしたかのように、隣で橋良が呟く。


「……そうだな。ちゃんと、準備しておかなきゃな」


 必ず来る。そう言ったのは俺ではないか。

 最後の最後まで、俺は先輩を信じる。それが出来ないのなら、ここにいてはいけない。


 俺は大きく深呼吸して平常心を保つ。

 少し離れたところから、波瑠が恨めしそうな視線を送ってきているが気にしないでおこう。大丈夫だ、お前のセリフは死んでも言ったりはしない。あと、橋良にも言わせない。


"こんな感じで、放課後ほのぼのと活動しています! 興味がある方は、是非茶道部へ!!"


 まだらに全校生徒から拍手が起きる。

 いよいよ、茶道部の出番が終わってしまった。


 茶道部の部員達が反対側の舞台袖へとはけていく。それを見たましろ先輩は、大きくため息を一つ。

 そして、両腕を使って大きくバツのマークを——


「イッツ、ノー!!」


 ——作れなかった。

 ましろ先輩の振り上げた両腕を、急に現れた大男が掴んで制止した。何が起こったのかわからず、ここにいる人物全員の時が止まる。


 そんな中、波瑠が呟いた。


「あ、会長だ」


 この人が会長?

 身長は180を超えているだろうか。とにかくデカい。そして、謎に自信満々な表情を浮かべながら、ましろ先輩の腕をゆっくりと下ろしていく。


「何やってるんだ、ましろちゃん。まだ、この子達の出番が残ってるぞ」


「か、会長!? ちょっと手離して!!」


「ほらほら、君達。出番だ、行きなさい」


「ダメだって! 部長がいなきゃ出演させないって、この前の会議で決まったじゃん!!」


「そうか? 居眠りしてたから、多分聞いてないな」


 なるほど、この人は会長だ。

 発言からして、もうダメだもんな。間違いなく、会長だ。


 しかし、これはどうすればいいんだ?

 会長の許可は降りているものの、出ていいものなのか——


「いざっ、行こうっ! 同士よっ!!」


 俺が混乱している中、聴き慣れた声がマイクを通して響き渡った。


 俺は隣にいた橋良を…………いねえ。

 そして、急いで舞台を見ると橋良は既に壇上で鼻息を荒くさせながら立っていた。


 アイツ……やりやがった。

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