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夕焼けは君を照らす

「さて……なんて、送るか」


 生徒会での負け戦をなんとか凌ぎ、無事に自陣《部室》へと戻ってきた。だが、まだ戦に勝った訳ではない。


 この戦いは、先輩と説明会に出ることをもって勝ち星として終えることができる。

 結局は先輩が色々と乗り越え、前を向いて貰うことが勝利の絶対条件なのだが、その先輩とのファーストコンタクトに俺は悩んでいた。


「説明会への参加を認められたので、髪色等を直して当日参加をお願いします……これじゃ、センスのかけらもないよな」


 これで、"わかりました。じゃあ黒染めしてピアス外して参加しますねー"なんて、返ってくる訳がない。

 改めて考えてみると、だいぶシビアな問題だ。


「なあ、なんて送ればいいと思う?」


 俺は、頼りになる?仲間達に策を募る。

 波瑠は相変わらずマイペースに食べかけのポテチをつまんでいるし、橋良は今だに俯いて何かを呟いている。


 一応、クエスチョンマークつけといてよかった。全く頼りにならないかもしれない。


「んー。そもそも、何を悩んでるのさ?」


 波瑠がキノコ型のチョコ菓子に手を伸ばしながら、答える。

 ちなみに俺は、タコノコ推しだ。


「とりあえず、条件付きで参加を認められたことは先輩に伝えとかなきゃいけないだろ。なんてメッセージを送ろうかと思ってさ」


「……? 普通に送ればいいじゃん」


「普通って?」


「参加認められたから、格好ちゃんとして一緒に参加してねー、って」


 ダメだ。俺がセンスがないと却下した内容をそのまま言ってきやがった。


「それだけじゃ、逆に追い詰めちまうだろ」


「でも、それしかないじゃん。いい? 出来るか、出来ないかじゃな——」


「お前、それやめろ」


 気に入ったのかなんなのか知らんが、アホみたいに多用してくるな。事あるごとに言ってきそうだが、全部ぶった斬ってやる。


「なあ、橋良はどう思う?」


「ふぇっ!? あ……ああっ! 目玉焼きには、醤油だよねっ!」


「わかった。聞いた俺が悪かった」


 橋良も橋良で、混乱パート長いな。何をそんなにトランスしているんだ。


 橋良はチラチラと横目で俺のことを伺いながら、ポツリと声を発した。


「……ねえ、トッキーはなんとも思ってないの?」


「何が?」


「だ、だから。さっきのこと……」


「さっき?」


「少しは気にしてよっ!!!」


 なんか急に怒られた。

 なんだろう、目玉焼きの話題をもう少し広げた方がよかったのか。しかし、俺は塩コショウ派だから、ここで無駄な争いはしたくない。


「どうしたの、満開ちゃん。お腹すいた? ほら、お菓子食べる?」


「……波瑠ちゃんも、意外にトッキーと同類なんだね」


「……? 私達は確かにホモサピエンスとして分類はされてるけど?」


 そうだな、間違いなく俺達は人間だ。そして、紛れもなく橋良もそうだ。

 おかしな事を言うものだが、トランス状態だから仕方がないか。


 橋良は大きくため息をつくと、静かに椅子から立ち上がった。


「……ごめんね、今は先輩と相談部のことだよね。ちょっと頭冷やすから、私先帰る」


「あ、おいっ」


 俺の声に一瞬動きが止まるも、そのまま歩みを進め部室から出て行ってしまった。これは、オコなのか?

 巷の噂では、なんで怒ってるのかわからないのに謝ると女子は更に怒るらしい。でも、放っておいても怒るらしい。


 どちらにしても、怒られるのは確定しているが……


「悪い、波瑠。ちょっと橋良追いかけるから、先行くわ。今日は解散で」


 波瑠はこちらをジッと見つめながら、キノコ型チョコ菓子の柄の部分をポリポリと齧っている。

 少し間を空けた後、小さくコクンッと頷いた。


 了承を貰った俺は、支度を済ませそのまま部室を出ようとする。だが、か細い声が後ろから聞こえてきた。


「嫌だ」


「……え?」


 予想外の言葉に俺はすぐ様振り返る。

 だが、波瑠はなんでもないような顔をしてこちらを見つめていた。


「どうした?」


「えっ、何が?」


「いや、嫌だって言ったろ? 波瑠も一緒に来るか?」


「私、そんなこと言った?」


 ……聞き間違いか?

 でも、波瑠以外はこの場に誰もいない。かといって、波瑠がそんなことを言うとも思えない。


 首を傾げていると、波瑠は満面の笑顔を作り立ち上がる。そして、俺は両肩をつかまれ、クルリと身体を反転させられた。


「ほらっ、早く行かないと。走れ、走れっ!」


「お、おうっ」


 なんとなく違和感が残る。

 だが、あんまりのんびりしていると橋良に追いつけなくなってしまう。


 ポンっと背中を押された俺は、後ろで波瑠がどんな顔をしているのかを確認出来ないまま、部室を出て行った。





「……危なかった。気をつけないと」



◇◇◇◇


 靴を履き替え、急いで校庭へと出る。

 すると、正門あたりでトボトボと歩いている橋良の後ろ姿が見えた。意外にも、まだ近くにいたようだ。


 俺は走りながら、必死に声をあげる。


「橋良っ!!」


「……トッキー?」


 俺の声に気づいた橋良は、すぐに振り返り歩みを止めた。よかった、とりあえず無視はされなさそうだ。


 息を切らしながら、必死に橋良に追いついた。この程度でバテるなんて、思ったよりも体力落ちてるな。


「はぁ……はぁ……よく聞け、橋良……」


「えっ、な、何かな?」


 橋良は身構える。


「俺はなぜ橋良が怒っているのかわからない。でも、どうせ放っておいても怒られるなら、追いかけて怒られる方を選んだんだ」


「……私、そんなに面倒臭い女じゃないんだけど?」


 ダメだ、怒りのオーラを感じる。

 これは、恐らくまた何かを間違えた。


 だが、橋良は強張らせた表情をすぐに解き、少しだけ口角をあげた。


「あのね、トッキー。別に、怒ってた訳じゃないよ? 本当に頭冷やしたかっただけ」


「そうなのか?」


「いや、まあ怒ってたけど。怒ってないよ」


 難しいな。

 女の子って難しいとは聞いていたが、この矛盾を読み解く力を俺は持ち合わせていない。


「波瑠ちゃんは?」


「菓子食ってたから、とりあえず置いてきた。急がないと、橋良電車に乗っちまうだろ?」


「……そっか、私の方選んでくれたんだ」


 橋良はパッと笑顔を見せるが、何かに気づいたようにすぐに真顔に戻る。

 俯きながら何かを考え、ワントーン落とした声で呟いた。


「ねえ。私、凄い嫌な女かもしれない」


「……? 橋良は、いいヤツだよ。割と」


「割と、ってなにさ。……でも、遅く歩いててよかった」


「なんだって?」


「なんでもなーい。行こっ!」


 先に歩き始めた橋良を追いかけ、隣につく。

 なんか、こうやって二人きりでゆっくり外歩くの久しぶりな気がするな。

 なんとなく居心地の良さを感じていると、橋良がジッと俺の顔を見ていることに気づいた。


「どうした?」


「……ねえ、今さら聞くけどさ。トッキーって、彼女いたことある?」


「は? あー、彼女な。まあ、うん。どうだったかな」


「ないよね。知ってる」


 知っていたのか。

 あえてあやふやにすることで、実はモテ男アピールをする作戦だったのに。小狡いことを、してきやがる。


「じゃあ、告白されたことは? ほらっ、校舎裏とかに呼び出されてさっ!」


「ある訳ないだろ。……あー、まあ校舎裏に呼び出されたことはあったな」


「えっ、女子にっ!? 何て言われたの?」


「付き合って、って」


「はぁっ!?」


 すげえ顔してんな、橋良。

 なんか知らんが、ヒバリがいつも発してるオーラを感じるぞ。


「それでっ!?」


「いや。わかった、って答えた」


「はぁっ!?!?!?」


 怖い。

 橋良から、聞いたことがない声が出てる。


「じゃあ、彼女いたんじゃん!!」


「いや、待て待て。勘違いするな。その娘とは、割と仲よくてさ。いつも、買い物とか付き合わされてたから、そういうことだよ」


「……それ、その娘が言ってたの?」


「まあ……じゃあ、いつにする?とか、何買いたいんだ?とか聞いてたら、都合悪くなったのかどっか行っちゃったけどな」


 橋良が信じられないものを見るような目で、俺を見ている。

 ……というより、なんだろう。例えて言うなら、道端に捨てられている生ゴミを見るかのような。


「トッキー、それ本気で言ってる?」


「何が?」


「……私が思ってたより、ヤバい人なのかも」


 橋良はまたもや一人でブツブツ呟き出した。なんか、今日これ多いな。橋良もお年ごろだし、思春期でもこじらせてるのか?


 一通り何かを呟いた後、橋良は何かを諦めたようにふっと息を吐いた。


「まあ、いっか……ある意味安心だし。その程度で引き下がるなんて、本気じゃなかったのかもだし」


「どうした? 今日、本当にひとりごと多いぞ?」


 橋良は俺をジロリと一瞥した後、急に走り始めた。そして、俺より数十歩前あたりでピタリと止まり、くるりと俺に向き直る。

 遠目でもわかるほど橋良の胸が膨らみ、大きく息を吸っているのが見えた。


「私は、何があっても退く気はないからっ! 絶対、隣にいるからねっ!」


 また、急に何を言い出したのかと思った。

 だが、丁度沈み始めた夕焼けを背に屈託なく笑う橋良を見て、俺は身動きが取れなくなっていた。

 

 橋良は可愛い。でも、それはルックスだけの話をしているんじゃない。

 どこか危うげで、とても人間臭くて、それでも誰より純粋に笑ったり泣いたりする。

 

 この夕焼けのように人の心に触れる笑顔を魅せる橋良の可愛さに、俺はどうしようもなく包まれてしまった。



 そう。

 俺は紛れもなく、橋良に見惚れたのだ。

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