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それぞれの役目

 相談部の部室とは真逆に位置するかのように、生徒会室は2階の中央位置にあった。全校生徒や教員が行き来しやすいように配慮されているのだろう。


「ここが生徒会室ですか。なんか、異様なオーラが放たれてる気が」


「そうですね。多分、中にいるのは生徒会長じゃないです。副会長のほうでしょう」


「……なんで、わかるんですか?」


「生徒会長がいる場合は、こんなピリッとしていません。なんか笑点のテーマが聞こえてきそうなオーラが流れてきます」


 先輩がなんか変なこと言い出した。

 だが、めちゃくちゃ真顔だ。冗談を言っていようには見えない。

 なんか怖いから、この話はスルーしておこう。


「はぁ……まあ、私を呼び出すのは副会長の方だなんてわかってましたけど。参りましたね」


「結構まずい状況ですか?」


「何かしら詰められることは確かです。……常磐くん、やっぱり部室で待ってていいですよ? わざわざ、嫌な思いすることないです」


「そんなこと言われたら、尚更ついて行きます」


 ジーッっと先輩は俺を見つめてくるが、負けじと先輩の顔を見つめ返す。

 言う事を聞く気はないと悟ったのか、先輩は困ったように笑いながら生徒会室のドアへ向き直った。


「常磐くんの優しさに甘えてばかりで、申し訳ないです」


  "コンコン"と先輩は軽くノックし、「失礼します」と、生徒会室へ入って行く。その後ろにつくように中に入ると、室内の奥に大きな机が構えていた。


 その真ん中の椅子に、圧力に近い異様なオーラを放った女性が座っている。

 清潔感が漂う真っ直ぐな黒髪に知的なメガネ。制服にはシワ一つなく、着こなしに隙がない。真面目を体現したような姿格好をしている。


 その女性の目の前まで先輩は歩いて行き、思ったよりもフランクな口調で話しかけた。


「きたよ、日菜ちゃん。用事はなんでしょう」


 ジロリと、その女性は先輩を睨みつける。


「こういう場だ、高梨学生。その呼び方はやめろ」


「だって、日菜ちゃんは日菜ちゃんだし……」


「もう一度言うぞ。呼び方を正せ」


「……はーい。早川副会長、なんの用事でしょう」


 思ったよりも親密なのか?

 敬語じゃない先輩って、新鮮だな。下級生の俺達に対してさえも敬語なのに。


 ずっと敬語使ってる人が標準語使うと、なんか萌える。俺にも、たまに標準語で話してくれないかな。


「……本題の前に、私が呼び出したのは高梨学生だ。誰かを連れてこいなんて言っていない」


 今度はジロリと俺が睨みつけられている。

 先輩に萌えてる場合じゃなかったな。しかし、それに対しての答弁は用意してある。


「一年の常磐ツバメです。放送で、相談部の部長高梨と呼び出されていたので」


「だから、なんだ」


「自分も一応相談部の一員です。部活に関連する内容かと思い、ついてきました」


 早川副会長は、もう一度ジロリと俺を睨みつける。

 まあ、出てけと言われたら出て行く他ないが、副会長は仕方なさそうにため息をついた。


「そうか、君が……まあ、丁度いい。そのまま、要件に入ろう」


 副会長は机に置いてあった一枚の紙を手に取り、俺達に見せつけた。


「これは、なんだ?」


 先輩は、首をかしげる。


「何って……昨日出した部活説明会に出る部員の提出書だよ?」


「そんなことはわかっている。問題は参加部員の方だ。なぜ高梨の名前がない?」


「それは……私、出れないから」


「ここに書かれているのは、そこにいる常磐学生含めて、二人とも一年の仮入部部員の名前だ。昨日、入部したばかりのな」


 ……雲行きが怪しくなってきたな。

 本当に俺達が出ても平気なのかは懸念点ではあったが、こういうのはご都合主義でどうにかなるものかと思っていた。生徒会、恐るべし。


「でも、他の部活も一年の仮入部部員が出るって話し聞いたし……」


「それは、部活の上級生の手伝いとして一緒に参加をするから許可しただけだ。仮入部の部員だけで壇上に立つなんて話しとは違う」


「……」


「大体、昨日入ったばかりで何も活動なんてしていない人間が、何を紹介し説明するというんだ。こういうものは、その部活動を経験してきた部員が出なければ意味がない」


 全くの正論だ。

 正直、俺達は相談部の活動内容さえもしっかりと把握していない。部活の雰囲気も、魅力も、先輩伝いで作った台本の上でしか語ることが出来ない。


 ……俺自身も、だいぶ甘かった。これは、反論する言葉が思い浮かばない。


 それでも、苦し紛れに先輩は言い返す。


「で、でも。昨日、会長に提出した時は"オッケー!"って受理してくれたけど!」


「あの人はダメだ。私が全力で説教しておく」


 会長なのに、副会長に説教されるのか。

 力関係どうなってんだ。


 とりあえず、会長がダメな人っていうのはよくわかった。


「でも……」


 それでも退こうとしない先輩に対して、副会長は再度ため息をつき、頭をふった。


「そもそも、これは受理されたかどうかという問題ではない。もっと、根本的な問題であることがわからないか?」


「……」


「相談部の部長は君だろう? 部員を増やして部活を守りたいのは、君だろう? その足掛かりになる集会を仮入部の一年に任せるなんて恥ずかしくないのか?」


 先輩は俯き、何も発することが出来なくなってしまった。

 流石にこれはまずい。かといって、言い返せる言葉が見つからない。副会長が指摘しているのは、問題の芯となる部分だ。

 

 そして、俺にはどうすることもできない先輩自身の問題だ。


「結論を言おう。高梨学生が参加しない限り、相談部の集会への参加は認められない。これがどういうことか、わかるな?」


「……」


「部活を守りたいなら、その金髪とピアスをいい加減にやめろ。……桜、もう美琴さんはいないんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、先輩は目を見開き感情を剥き出しにした表情を副会長に向けた。


 それでも副会長は怯まずに、真っ直ぐに先輩を見据えている。先輩は目元に水滴を溜め、踵を返した。


「……常磐くん、ごめんなさい」


 そう呟いて、逃げるように先輩は生徒会室から勢いよく飛び出して行く。


「……先輩っ!?」


「追うな、常磐学生。これは、彼女自身の問題だ」


 すぐに先輩を追いかけようとしたが、副会長の言葉に足が止まる。

 言いたいことはわかるが、その冷静な言い振りに頭に血が登った。


「……美琴さんって、もしかして先輩のお母さんのことですか?」


「そうだ」


「なんで、そんな事言うんですかっ!? 先輩にも色々と事情が——」


「知っている」


 俺の言葉を、少し感情のこもった声が遮った。


「君なんかより、よっぽどな。美琴さんが亡くなった時も、その後桜が壊れてしまった時も、私はそばにいたんだよ」


「じゃあ、なんでっ……!!」


「いつかは、言わなきゃいけないことだからだ。私にしか、その役目は担えない」


 その言葉に、どれだけの重みと想いがのっかっていたのか。昨日出会ったばかりの俺が口出ししていいことではないのは、すぐにわかった。

 それでも——


「追いかけます」


「何も知らない君に何ができる?」


「……過去は知らないけど、未来は知ってるんですよ」


 確かに俺は先輩がどんな想いで、どんな日々を過ごしてきたかなんて知らない。

 でも、この先の世界で悲しむ先輩のことは知っている。単純に、そんな未来は見たくはなかった。


 先輩にかける言葉なんてまだ見つかっちゃいない。それでも、俺は生徒会室を飛び出した。

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