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鏡の中に

「やっぱり、インパクトが大事だと思うんだよね。部活紹介始める前に、打ち上げ花火とか」


「波瑠ちゃん、それ採用。となると、やっぱり服装もこだわりたいよね。みんなで、サンバの衣装でも着る?」


「何それっ、面白そうっ! 満開ちゃん、センスあるね!」


 なんか、とんでもない会話が繰り広げられてるな。あの二人、バカだとは思っていたが本物かもしれない。


「ううっ……花火……サンバの衣装……」


「あ、気がつきましたか先輩」


 波瑠の電撃入部が明らかになり、その新入部員を除霊しようとしばらく先輩は何かを唱えていた。

 どうしたものかと悩んでいる内に彼女のストレス指数は限界値を突破し、自分の心を守るために先輩はどこか別の世界へと旅立たれたのである。


 俺達は完璧にフリーズした先輩を連れて部室へと入り、こっちの世界へ帰還されるのをただ待つしかなかった。


「あの……彼女達は、一体何を話されているのですか?」


「部活紹介の構成を考えているみたいですよ」


「……なんか、打ち上げ花火やらサンバの衣装やら聞こえてきたんですが」


「ただの不毛な会話です。気にしないで下さい」


 加えて、バンド構成にして相談部のオリジナルソングを歌うとか話し出しているが、全却下だ。あと数日でやれるもんならやってみろ。


「あ、桜ちゃん! 気がついたんだねっ!」


「ひっ!? そ、そういえば何で波瑠さんがここにいるんですかっ!?」


「なんでって……さっき話したよー? 私、正式に相談部の——」


 ふむ、これはまずい。


「橋良!!」


「うわっ!! ……どしたのトッキー? 急におっきい声出して」


「俺達の仮入部パーティーだ。波瑠と一緒にお菓子とジュースを買ってきてくれないか?」


 この感じだと、先輩は波瑠が正部員になったことを記憶の彼方に忘却している。自己防衛の一種だろう。

 今、真実を伝えてもまた振り出しに戻るだけだ。


「そ、そうだよね!? 私も、必要だと思ってたんだ! あとパーティーグッズも買ってくる!」


「それは、いらん」


「クラッカー鳴らさなさいと、雰囲気出ないもんね!!」


「いらん」


 慌ただしく橋良は立ち上がり、波瑠に駆け寄って腕を掴んだ。


「いこっ、波瑠ちゃん! ヒゲメガネが私達を待ってる!」


「じゃあ私あれ欲しいっ! "本日の主役"って書いてあるタスキ!」


「なにそれっ、凄い!! 買っちゃおう!!」


 二人は今日一のテンションで、キャピキャピ騒ぎながら颯爽と部室を出ていった。


 ……あの二人あんなに仲良かったか? 

 バカ同士、何か通ずるものがあるのかもしれない。常人だったら、絶対あれにはついていけないぞ。


 嵐が去ったように静まりかえった部室で、おどおどしながら先輩がこちらに目線を向ける。


「あ、あの……」


「先輩。真実を知って傷つくくらいなら、知らないままのほうが幸せなのかもしれません」


「えっ、えっと……」


「つまりは、そういうことです」


 よし、完璧に誤魔化せた。

 我ながら、ナイスフォローだ。


 明らかに何かを勘繰っているようなジト目を向けられてはいるが、気にしないでおこう。


「それより、どうしましょうか。あの二人はあてにならないし、俺達で色々考えないと。金曜日が集会だから、準備期間はあと三日ですよね」


「そうですね……今さらですけど、本当に迷惑かけちゃってすいません。結局、常磐くんにばっかり負担かけちゃって……」


 まあ、その負担は相談部のことというより、あの二人の面倒を見なきゃいけない負担なんだが。先輩はたまに別の世界行くだけだから、勝手に帰ってくるし。


「迷惑だなんて思ってないですよ」


「本来だったら、私が出なきゃいけないのはわかってるんです。でも……本当にごめんなさい」


 そう言われて、先輩が集会に出ることができない理由に自然と目がいってしまう。

 綺麗な金髪。年季が入っていても、丁寧に手入れをされている赤いピアス。確かにこの見た目では、人前に出す訳にはいかないだろう。


 俺の視線に気づいたのか、申し訳なさそうに先輩は口を開く。


「そうですよね。この髪の毛とピアスをどうにかすればいい話ですもんね」


「あ、いや。それは別に……」


「気を遣わなくてもいいですよ。当然に生まれる疑問だと思います」


 少し思い詰めるような顔をして、先輩は下を向く。

 こんな表情を見れば、その裏に隠れている事情は軽いものではないのは察しがつく。少なくとも、ファッションに対してのこだわりなんてものではないのだろう。


 空気が重くなってしまった。

 ここは話題を変えよう。


「あ、そういえば部活紹介の構成についてなんですけど——」


「母の姿を真似ているんです」


 俺の言葉を遮った先輩は、顔をあげてどこか悲しそうに笑顔を作る。


「私の母は、凄い人でした。人を惹きつける才能というんでしょうか……明るくて、リーダーシップがあって、自信に満ち溢れていて。気づけば周りに人が沢山いて、誰からも好かれていました」


「……立派な人なんですね」


「はい、私の母ながら憧れの人でした。でも、私の性格は正反対で。暗いし、人前になんか立てないし、言いたいことも言えない。真逆なんですよ。でも、見た目だけは実は母と似ていて……この金色の髪と赤いピアスをしていると鏡の中に母が映るんです。大好きだった母が」


 ……なんとなく、言いたい事はわかった。

 先輩のこの姿は、その憧れの母親を自分自身に映し込んでいるのだろう。


 ただ、先輩の話し方に少し気になる点がある。


「あの。さっきから、過去形で話してるのは……」


「そういうことです。私が中学生の時に、亡くなりました」


 これ以上空気が重たくならないように配慮したのか。それとも、自分の気持ちを誤魔化そうとしているのか。

 先輩は無理矢理、笑顔を作り続ける。


「お恥ずかしい話しなのですが、私はこの姿をしていないと外にも出られません。母がそばにいてくれないと、私は何も出来ないんです」


 この独白は、上辺だけの言葉で反応していいものではない。

 俺は何と返答すればいいのか戸惑ってしまい、沈黙が流れてしまった。


 しかし、思いがけないものが呆気なくその沈黙を破る。


"生徒会より呼び出しを行います。相談部、部長。二学年の高梨桜さん。生徒会室までお願いします。繰り返します——"


 校内放送だ。

 助かったと言えば助かったが……生徒会から名指しでの呼び出し? 滅多にあることじゃないぞ。


「あの、先輩……」


「あはは、なんか呼び出されちゃいましたね。私行ってくるので、常磐くんは待ってて下さい」


 席を立ち、早々と部室を出ようとする先輩の姿に何か嫌な予感を感じ、慌てて席を立った。


「お、俺も行きます!!」

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