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悪霊


「母さん、その部長って人の話聞きたいんだけど」


「うーん、二つ上の先輩だったから私も詳しくはないけど……とにかく人気者だったわ。校則守らないから、いつも生徒指導受けてたらしいけど」


 人気者というワードさえ除けば、高梨先輩を連想するモノばかりだ。相談部の部長で、金髪ピアス。先生からは常時注意を受けている。

 それでも、おそらくその人もこだわりは曲げなかったのだろう。


 やはり、偶然にしては一致事項が多い。

 高梨先輩はその部長のことを知っていて、姿形を真似ているのだろうか。……もしくは、


「その部長さんって、女性?」


「そうね」


「その金髪って、ショート? 赤いピアスじゃなかった?」


「ショートだったわね。言われてみれば、ピアスも赤だったような……」


「割と身長もあって、スラッとしてる割に胸でかかった?」


「……胸? あんた、何言ってんの?」


 しまった。

 高梨先輩のルックスをそのまま言語化していたら、ちょっと変態チックな取り調べになってしまった。


「お兄ちゃんはおっぱいソムリエだから、お胸の大きさはきっと重要なんだよ」


「やめろ、ヒバリ。ややこしくなる」


 隣でもちゃもちゃ大人しくご飯を食べていたヒバリが、ここぞとばかりに話に入ってきやがった。


「おっぱいソムリエって……中学生の妹に何教えてんの」


「だからね、この前お兄ちゃんに私のおっぱいが大きくなるにはどうすればいいか相談したの! 揉むと大きくなるから、今度私の沢山揉んでくれるって!」


「あんたっ!?」


「落ち着け、母さん。俺は一言もそんなことは言っていない」


 母さんは、俺とヒバリの顔を交互に見比べて仕方なさそうにため息をついた。


「……ツバメ、弁明しなさい」


「確かにこの前そんな相談をされ、俺に胸を揉むように迫ってきたが、一蹴した」


 母さんは更にため息をつき、今度はヒバリに向き直る。

 

「お兄ちゃんこう言ってるけど?」


「あれー、そうだっけ?」


「ヒバリ、あんた気をつけなさい。その内、お兄ちゃん社会的に死ぬことになるわよ」


 ヒバリはいまいちピンときていないようで、「はーい」と空返事をして、マイペースに味噌汁をすすり始める。


 ヒバリの人間性に関しては母さんも充分に理解している。昔はヒバリが爆弾発言をする度に家族会議が開かれたものだが、今では俺の説明を聞きそれを信じた方が、より正確で無駄がないことを母さんは悟っている。


 この前、深刻な顔をして「私、あの娘の将来が本気で心配」 と打ち明けられた時には、俺はただ頷くことしか出来なかった。


「ツバメ、ご飯食べちゃいなさい」


「ああ……」


 結局何とも言えない重苦しい空気に包まれ、これ以上は何も聞けなくなってしまった。

 そんな中、ヒバリだけが鼻歌混じりにデザートのブドウを頬張っていた。



◇◇◇◇


「すいませんね、部室が結構遠くて……」


「大丈夫です! 私、歩くの得意です!」


 次の日の放課後。

 高梨先輩に連れられて、俺達は相談部の部室へと向かっていた。


 橋良と高梨先輩が楽しそうに話しながら歩く後ろにつき、改めて先輩を観察する。


 どれぐらいの頻度で染め直しているのか、一切黒毛がない綺麗に染まった金髪。少し年季の入った赤いピアス。


 そして、波瑠の言っていた言葉。


 "あれやめちゃったら、学校にも来れないんじゃないかな"



「さあ、着きましたよ。ここです!」


 あれこれ考えている内に、部室に辿り着いたようだ。確かに随分遠かった。

 ひたすら階段を昇り、最上階。そこから更に歩き、数ある教室の隅の隅。追いやられた感が凄い。


「わあ、凄い! ラスボスがいそう!」


「どんな感想だよ……」


「あはは、今鍵開けますねー」


 苦笑いしながら先輩は鍵を開けようとするが、「あれ?」と動きが止まる。


「どうしました?」


「いや……なぜか鍵開いてて。私、閉め忘れたのかな……?」


 先輩は不思議そうに首を傾げるが、俺は直感的にこの後の展開が読めてしまった。


 そう、アイツはそういう奴だ。


「先輩、覚悟を決めておいて下さい」


「えっ……えっと? 何がですか?」


 こういうものは時間をかけてはいけない。

 ただ迅速に起きてしまっている事実を、まずは把握してもらおう。


 俺は一思いに部室のドアを開く。

 そして案の定、そこにはソイツがいた。


「あ、きたきた! 遅いよー!」


 波瑠は当たり前のように部室の椅子に座り、笑顔で声をかけてきた。


「あ、波瑠ちゃんもうきてたんだ! 早いねっ!」


 何の疑念も持たずに、普通に返す橋良。

 やっぱりかと、ため息をつく俺。


 肝心の高梨先輩はというと、フリーズしている。しばらく間があった後、そのまま部室に入ろうとした橋良を手で止めて、ゆっくりと部室のドアを閉めた。


「……今日はいいお天気です。お外に行って、チョウチョでも探しに行きましょう」


「先輩、気を確かに」


「あら、常盤くんはチョウチョお嫌いですか? じゃあ、みんなで卵かけご飯でも作りに行きましょう」


「変な世界に行っちゃダメです。戻ってきて下さい」


 これは、やばい。目の焦点が合っていない。

 突発的な衝撃というものは、ここまで人を狂わせるのか。


 しかし、その原因の張本人はなんのお構いもなしにガラッとドアを開け姿を現した。


「もー、なにやってんの? 早く作戦会議始めよー!」


「い、いやああああぁぁ!! で、出たああああ!!!」


 ホラー映画並みに叫び声をあげ、先輩は俺の腕にしがみついてきた。というか、もう抱きついてきたという表現に近い。


 ふむ、胸の感触が腕から……


「トッキー」


 うん。そうだな、橋良。

 俺が悪かったから、振り上げた拳をおさめるんだ。最近、お前躊躇がないぞ。


「どうしたの、桜ちゃん? でっかい虫でもいた?」


「波瑠、とりあえず高梨先輩の気持ちを代弁してやる。なんで、お前が相談部の部室にいるんだ?」


「……? 部員だから」


「仮入部したってことか?」


「いや、普通に入部したよ? 本入部! 正式な部員なのだよ!」


「だそうです、先輩」


 高梨先輩は涙目になりながら、小さな声でひたすら呟き始めた。


「あ、悪霊退散……悪霊退散……悪霊退散……」


 どうやら、今年度初の新部員は悪霊認定されたようだ。

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