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時代を超えて

 何かを諦めるような目で高梨先輩は俺を見てくる。なんだか、とても親近感を感じる。


「……高梨先輩。梅屋先生が一番最後に部活に顔を出したのはいつですか?」


「いや、部活で姿見た事ないですね。私が一年生の時に、入部届を出した時以来でしょうか」


「なるほど」


 ふむ。大体もう理解した。


「先生、お忘れかもしれないですけど。あなた、相談部の顧問なんです」


「おお。なんかそう言われると、そんな気がしてきたな」


「また忘れそうだから、今度"私は相談部の顧問です"って書いた紙をラミネートしてデスクに貼ります。あと、これ仮入部届けなんで顧問の承認欄に認印して下さい」


「印鑑……どこやったかな」


「じゃあ、もうサインでいいです。はい、これボールペン」


 このデスクじゃ、筆記用具さえ見つけ出すのも苦労しそうだ。

 俺と橋良の分の仮入部届けを渡すと、先生は僅かな机のスペースを使って雑にサインをした。


「この入部届は最終的にどこに提出するんですか?」


「あー、コピーとって生徒会だったかな」


「じゃあ、部長の高梨先輩に代理で出してきてもらいます。それでいいですね?」


「あっはっは、常盤は股間はだらしがないのに仕事はキッチリしてるな! さすが、私の生徒だ!」


 ぶん殴りてえ。

 日頃から色んなストレスに耐えているが、こんなにも直接的に発散したいと思ったのは初めてだ。


「す、凄いです常盤くん! 私なんて、入部届けが正式に受理されるまで一ヶ月以上かかったのに!」


「先輩。無事に部の存続が決まったら、最初にやるべきことは顧問の変更です」


 高梨先輩は苦笑いしているが、俺は本気だ。

 このいい加減さが生徒に人気がある部分なのがもしれないが、ちょっと度が超えてるだろ。


「よし、用は済んだ。とりあえずコピーとって、生徒会室行きましょう」


 俺と先輩はその場を去ろうとするが、もう一人のイジケ娘はその場で俯いたまま先生のデスク前から動く気配がない。

 しかも、なんかプルプル震えてる。


「ほら、何してんだ。行くぞ?」


「……わ、私はっ! 初めてを三人でやるなんて嫌だから!!」


「やめろ、橋良。ここは職員室だ。フォローがきかないんだよ」


 変なところに食いつきやがった。

 一人の女を泣かせるくらいなら、二人とも抱けとか言ってた先生のイカれた発言に今更反応してやがる。


 それを聞いていた先生は、面白いおもちゃを見つけたかのようにニヤケだした。


「なんだ、橋良。お前が思っているより複数人は悪くないぞ。〇〇をしながら、××すると、××が〇〇になってな」


「な、何を言って……」


「その状態で、〇〇するとそれは天にも昇るような快楽と——」


「わ、わあああああぁ!!!」


 橋良は顔を真っ赤に染め上げ、喚きながら職員室をダッシュで出て行った。

 他の先生方がざわめく中、梅屋先生はそれをケタケタ笑っている。


 俺は大きくため息をつき、オロオロしている先輩に声をかける。


「とりあえず橋良追いかけるんで、後は任せてもいいですか?」


「あ、はい……あの、常盤くん」


「はい?」


「えっと、きっと何かいい事ありますよ!」


 よくわからない慰め方をされた。

 よくわからないけど、なんか涙出そう。



◇◇◇


「お兄ちゃんー、ご飯できたって! ……何、その顔? 疲れ果ててるじゃん」


「……大丈夫だよ。この程度で疲れてるようじゃ、兄ちゃんこの高校生活の三年間生き抜けないから」


「私、最近本気でお兄ちゃんの学校生活心配なんだけど」


 あの後、顔を真っ赤に染めてブツブツ何かを呟きながらトリップしている橋良をとっ捕まえ、お菓子で釣りながら上手く駅まで誘導し電車に乗せた。

 

 そして、逆方向なのに俺は橋良の降りる駅まで付いて行き、改札から出たところで「このまま真っ直ぐ家まで帰る」と橋良の耳元で10回呟いて暗示をかけた。

 ロボットのようにそれを復唱しながら歩き始めた橋良を見て、やっと俺は安心して見送ることができたのである。



 俺は一体何をやっていたのだろうと思いながら、ヒバリと階段を降りて一階の居間へと向かう。

 そこには、人数分の料理とそれを携えた母さんが待っていた。


「ごめん、母さん。疲れて、準備手伝えなかった」


「別にいいのよ。なんかあったの?」


「何かはあったんだけど、説明するのも疲れるから……」


「あんた、お人好しの父さんの血ガッツリ継いでるから。ほどほどにしなさいよ」


 なんとなく察してくれた母さんに感謝しつつ、自分の席に座る。

 母さんの味噌汁の匂いが、少しずつ俺の心を癒していく。ここはオアシスか。


「そういえば、あんた高校じゃ野球やんないんでしょ? なんか他の部活入るの?」


「うっ……」


 せっかく回復していたところに、だいぶタイムリーな話題を突き刺される。


「……入る気はないけど、色々あって。今日、相談部って部活に仮入部してきた」


「あらっ、相談部っ! 懐かしいわねっ!」


「相談部って、昔からあったのか?」


 母さんは俺の高校の卒業生だ。

 少し遠い目をしながら、色々と青春時代を思い返している。


「毎日のように誰かしら相談部の部室行ってたなあ。お悩み解決率99%の超強豪だったんだから!」


 相談部に強豪とかあるのかよ。

 ますます意味不明だな。


「へえ、今じゃ廃部寸前だけどな」


「あの時の部長はカリスマだったからねえ。金髪ピアスで破天荒だったけど、とにかく生徒人気が凄かったんだから」


「……金髪ピアス?」


 そのワードに、俺の頭の中である人物が一瞬で重なった。

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