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分岐点

 普通に考えれば、そうだろう。

 波瑠がいなければ高梨先輩は俺達とも出会うことなく、相談部は集会にも参加できずに終わる。


 内気な先輩がその後の勧誘を上手くできるとは到底思えない。新入部員は来る事なく、そのまま廃部という流れだろう。


「波瑠の力でどうにかならなかったのか?」


「私が桜ちゃんと仲良くなったのは、相談部が廃部になってから。今の頃は面識なかったし、そんな部活あったことさえ知らなかったよ」


「そうか……」


 必然的に気分が重たくなる。

 もう一つの世界があるとして、そこにいる知人の不幸を知るというのはあまり良いものではない。


 だが、そんな空気を吹き飛ばすように波瑠は笑った。


「そこで私の出番だった訳ですよ」


「どういうことだ?」


「未来は変えられる。満開ちゃんの件でも、それは証明済みじゃん。私が桜ちゃんを、無理矢理連れてきた意味を考えてみたまえ」


「……最初から、廃部を阻止するのが目的だったのか?」


 波瑠は得意気な顔で俺を見る。

 なんとも怪しいし、他にもやり方はあっただろうとツッコミたくなるが……


「桜ちゃんさ、私に泣きながら廃部になった時の話しをしてくれたんだ。自分が不甲斐ないないから、私のせいだって言ってた」


「……そうか。ただ、一つ気になるんだが」


「何?」


 ほぼ初対面の俺達にあんな頼み事するなんて、どうにかしたい気持ちというものは本当にあるんだろう。

 だからこそ、腑に落ちない点がある。


「あの、金髪とピアス。こだわりなのかもしれないが、一時的にでも黒染めするなりピアス外すなりすれば、集会にも出れるだろ」


「あー……」


 波瑠は困ったように笑いながら、少し何かを考え込む。

 そして、言葉を選ぶようにゆっくり話しだした。


「えっとね、あれは桜ちゃんにとって凄い大事なものっていうか……多分、あれやめちゃったら集会でなんて話せないと思う。それどころか、学校にも来れないんじゃないかな」


「……意味がわからないんだが」


「それは、もっと仲良くなって桜ちゃんから聞いた方がいいよ。私の口からは言っちゃいけない気がする」


 いつも空気読まず、バンバン発言するのに。それだけ複雑な内容なのだろうか。

 ただ、そこまで言われたらそれ以上の追求なんて出来やしない。


 あれこれ考えながらしばらく歩いていると、いつの間にか自分の教室の前に戻ってきていた。ハナから購買に行く気なんてなかったが、同じ階を一周してきたようだ。


 このまま教室に入ろうか悩む俺に、波瑠が意地悪い顔をして声をかけてきた。


「ふんぎりつかないの? なら、いいこと教えてあげる。私がタイムリープしてきたこと知ってるのは、ツバメだけだよ」


「……だから、なんだよ」


「だから、相談部の未来を知ってるのもツバメだけ。その上で行動を起こせるのもね」


「嫌な追い詰め方すんなよ」


 波瑠は、ふふっと笑う。


「どうせツバメが出す結論なんか決まってんだから。後押ししてるだけですが?」


「……随分、俺を信用してんだな」


「そりゃ、信用してますよ。何年親友やってきたと思ってんのさ」


 これだから、タイムリープ様は卑怯者だ。

 未来の俺は、どうやら随分なお人好しだったらしい。


 ……まあ、悪い気はしないけどな。



◇◇◇


「俺でよかったら、協力させてもらいます」


「本当ですか!?」


「集会出るって言っても、台本通り読むくらいしか出来ないですけど……」


「それで充分です! こういう部活があるってこと認知されるだけで、全然違いますから!」


 高梨先輩は、何とも嬉しそうにしている。

 それに反して、先輩と一緒に待っていた橋良は不満そうな顔を浮かべていた。


「……なんだよ?」


「なんだよじゃないよっ! お菓子とジュース買い足しに行ったのに、なんで手ぶらで帰ってくるの!? 絶対足りないじゃん!!」


「絶対足りるから、安心しろ」


 ジュースの本数、あと八本。

 波瑠が食い荒らしたポテチをひいても、机の上にはまだお菓子の山が広がっている。


 コイツは、ここにいる人間達がフードファイターか何かだと勘違いしているのだろうか。


「ねえ、桜ちゃん——」


「ひいっ!??」


 高梨先輩に話しかけるだけで、今だに波瑠は悲鳴をあげられている。

 なんとも世話が焼けるものだ。仕方ない。


「あの、先輩。波瑠は確かにちょっと強引だったかもしれないですけど、そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。基本はいい奴なんで」


「だって……やめて下さいって何度も叫んだのに。私のこと無理矢理……」


 なんかエロい。

 先輩のどこか幸薄い感じが相まって、そういう風にしか聞こえない。


「ごめんね桜ちゃん。でも、どうしても連れてきたくて……私、口下手だから」


 さすがに反省したのか、珍しく波瑠はしおらしく謝っている。

 そんな波瑠のことをビクビクしながら観察しつつ、高梨先輩は目を逸らしながら答えた。


「あの……でも、あなたが私を連れてきてくれなかったら常磐くん達にも会えなかったから。だから……そこは感謝してます」


「許してくれる?」


「許すというか……まあ、はい」


「桜ちゃん、大好きっ!!!」


 結局自分をコントロール出来ない波瑠は、そのまま高梨先輩に飛びついた。


「ぎゃああ、は、離れて下さい!! 怖い、怖い!?」


 ……ふむ。美少女二人が密着している絵というのは中々悪くない。何より、嫌がる先輩の豊満な胸が波瑠の密着により押しつぶされているのが、また——


「トッキー、鼻の下伸びてる」


 殺気を感じた。

 橋良、お前はいつの間にそんなオーラを放てるようになったんだ。


「……そうか?」


「なんか、目もイヤらしかった」


「よく俺のこと見てるんだな」


「……!?」 (パチンッ!!)


 橋良は顔を赤く染めて、俺の尻を思いっきりはたいた。


「痛っ!?」


「嫌いっ! バカっ!!」


 橋良に嫌われた。

 どうしよう、言質使おうかな。


 橋良はそのまま広がっていた菓子の山に手を出して、ムシャムシャと半分ヤケになりながら食べ始めた。

 人間甘い物食べれば落ち着くって言うし、とりあえずこのまま少し放っておこう。


 俺はまだしつこく抱きついている波瑠の襟元を掴んで引き離し、高梨先輩に話しかけた。


「集会までそんなに時間ないですよね。俺達がすればいいことってなんですか?」


「はぁ……はぁ……そ、そうですね……放課後に職員室前に来てもらっていいですか?」


 息があがっている。

 ほっといたら過呼吸になりかねなかったな。


「職員室前?」


「とりあえず、顧問の先生に仮入部届けを出しましょう。そうした方が、色々と動きやすくなるかと思います」


「なるほど。ちなみに、顧問の先生って誰ですか?」


「梅屋先生です。たぶん、このクラスの担任ですよね?」


 ……よりによって、あの先生かよ。

 先輩が顧問の先生はゆるゆるだって言っていた意味が、一瞬で理解できたわ。

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