桜の散り際、桜が咲く③
「竹井くん! この席借りるねー」
"おー、波瑠ちゃん。ほどほどになー"
このクラスもだいぶ波瑠の存在に慣れてしまったのだろう。
先輩が喚いていた時には少しざわめきがあったものの、今ではもう皆スルーしている。
「ささっ、座って。桜ちゃん」
「失礼します……」
波瑠に促され、席に座る。
先輩は座ると同時に、大人しく席で待っていた橋良にペコリと頭を下げた。
「初めまして、高梨桜です」
「初めまして橋良満開です! お菓子とジュース沢山あるんで、よかったらどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」
よしよし、ちゃんと普通に挨拶できたな。
挨拶できただけで褒められるような俺の愉快な仲間達のことは、深く考えてはいけない。今は慈愛の目を向けておこう。
「あの。橋良さんは、話が通じる方ですか? 会話できますか?」
「……? はい、私は会話ができます」
「よ、よかったぁ」
なんだよ、この英語の構文みたいなやり取り。俺の方が頭おかしくなってくる。
「あ、ねえねえ。桜ちゃ——」
「ひぃっ!?」
「やめろ、波瑠。お前が植え付けたトラウマは想像以上に根深いぞ」
「えー、……あんなに仲良かったのにな」
高梨先輩は、さっきから斜め向かいに座る波瑠とは視線さえも合わせられない。よっぽど怖かったのだろう。
納得いかないとばかりに波瑠はむくれているが、こればかりは自己責任だ。反省しろ。
さっきから先輩のことを上から下まで興味深そうに観察していた橋良が不意に口を開いた。
「桜先輩。その髪の毛とピアス凄いお似合いですけど、校則的にはアウトですよね?」
会ってすぐそこを突っ込めるあたり、さすが橋良としか言いようがないな。
しかし、確かに気になる。
いくらウチの高校が公立だとしても、見逃されるのはせいぜい軽い茶髪程度だ。ド金髪と、ピアス等のアクセ類はさすがに指導対象になるはずだが……
「あー、そうですね。アウトです」
「怒られないんですか?」
「怒られてますね」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないです」
「そっかー!」
納得するな、橋良。
もっとこう、あるだろ。もう少し攻め込んでくれ。
「桜ちゃんはさ、とっても内気でいい子なんだよ! でも、こういう見た目してるから誰も近寄らなくて、友達一人もいないんだ!」
「……常磐くん。この娘はなんで、私のことこんなに詳しいんですか?」
もう波瑠のことは、言葉が通じない珍獣のような扱いになっているのだろう。
いつの間にか俺が通訳の役割になっている。
「えっと。波瑠は少しストーキング気質があるというか。気に入った人のこと調べあげたりするんで」
「怖い……」
怖いよな。普通の感覚だ。
どんどん波瑠の株が下がっていく。
「桜先輩はお友達がいないんですか?」
先輩がプルプルと肩を震わせる中、橋良が眉毛をへの字に曲げながら話しに入ってきた。
「お恥ずかしながら、こんな風に学校で人と話すのも久しぶりで」
「そうなんだ……学校に友達いないってツラいですよね。か、可哀想……うっ、ううう……」
急に橋良の目が潤み始める。
友達いない話題が橋良の変なスイッチを押してしまったようだ。
「ううっ……朝起きた時点で、もう憂鬱なんですよね……教室入ると更に嫌で、意味もなくトイレに行ったり」
「わ、わかりますっ! トイレに座ってると居心地よくて、もういっそここでお昼食べた方がマシかなとか頭によぎって!!」
「でも、最後のプライドがそれを邪魔するんですよね。一日中誰とも話さないでいて、急に授業で指されたりすると声出なかったりしません?」
「きゃー! わかります! わかりますっ!」
こんな話題でテンションあげないでくれ。
反応に困る。
「先輩、私で良かったらお友達になりません? 一緒にお昼食べましょ?」
「い、いいんですかっ!?」
「トッキーもいいよね?」
「え、まあ。俺でよければ」
「一日にお友達が二人も……す、凄い!!」
波瑠が、「私は?」という目をしながらずっと見つめてきている。先輩が二人というワードを出していることから察しろ。
先輩はモジモジしながら、俺ら二人を交互に見て何か言いたそうにしている。
「どうしました?」
「いや、あの。お友達のお二人にご相談がありまして……」
「相談?」
「えっと……お二人ってもう部活とかって決めてますか?」




