Another Word 橋良満開
本が好き。
その一冊があれば、この世界から飛び立つことができるから。
最近はもう、一人で過ごすことに何も感じなくなってきた。
物語があれば、剣や魔法が飛び交うファンタジーの世界にも行ける。ちょっと切ない人情物語に胸を震わせることもできるし、恋愛の甘酸っぱさに心を締めつけさせることもできる。
だから、きっと私は大丈夫。
この先も、私は私の世界で生きていけばいいのだから。
"ドンッ!!!"
「いたっ!!」
一人で廊下を歩いていると、後ろから何かがぶつかってきた。急いで振り返ると、女の子が顔をおさえながらうずくまっている。
その子は上目遣いで私を見ると、慌てて立ち上がりおさえていた手を離すが、見事に鼻からは血が垂れていた。
「ご、こめんねっ!! ぶつかっちゃった! ケガとかない?」
「いや、私は大丈夫……それより、あなたのが大変じゃないかな」
「何が?」
「いや、鼻から血が……」
「うえっ!? ほんとだ。どうしよう……」
誰かと思ったけど、この子知ってる。
とんでもない美少女がいるって、凄い騒がれてた子だ。
確か名前は……
「おい、波瑠っ! だから、廊下は走るなって言ったろ!」
そう、波瑠。早乙女波瑠だ。
彼女に後ろから駆け寄り、心配そうに男子が声をかけた。この人も知っている。
一年生だった時、私の後ろの席だった男の子。だけど、ほとんど話したことはない。
「うー、ツバメぇ……ティッシュちょーだい……」
「ったく。ほら、手出せ」
自分のポケットから手際よくポケットティッシュを取り出し、彼女に渡す。
この二人はよく一緒にいるところを見る気がする。付き合ってるのかな?
なんか、彼氏彼女っていうより、子供と保護者って感じもするけど。
「ありがと……あっ!? それより、早くしないと購買のパン売り切れちゃう!!」
「わかったから、まずは鼻血止めろ」
彼女の訴えを流しつつ、私の方に目線を向ける。頭をポリポリ掻きながら、申し訳なさそうに声をかけてきた。
「ケガないか?」
「あっ……えっと、私は大丈夫なんで」
「ごめんな、とりあえずコイツ保健室連れてくから」
そう言いながら、「嫌だああ!!! 購買いぃぃ!!」と叫ぶ彼女を引きずるようにして、二人は保健室の方へ去っていった。
……仲良いな。
ああいうのを見ると、心の奥の方に隠しているものがひょっこりと顔を出してしまう。
その本心と向き合うのが怖くて、私は急いで自分の教室に戻って本を開いた。
私だけの世界はとても平和だ。
傷つけてくるものもないし、素敵なものが沢山頭の中に広がっていく。
……でも、とても寂しい。
どこまでいっても、ここには私だけしかいないから。
この生き方を選んだのは私だ。
だけど……もし、私をこんな世界から助けてくれるヒーローのような人が現れたら。私の隣にいてくれると言ってくれたら。
私は、私の全てを持ってその人に一生を捧げるのに。




