表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

新しいお守り


「何で謝るんだよ。どう考えても被害者は橋良だろ」


「……私さ、桃花ちゃんと友達だったんだよね」


 橋良は俺の手を握りながら横に立ち、空を見上げて話し出す。


「告白されたことあるって、前言ったじゃん? それ、桃花ちゃんがずっと好きだった男子からだったの」


「だからって、橋良が嫌がらせされていい理由にならないだろ」


「桃花ちゃんがその男子のこと好きだったのは、私よく知ってたんだ。何度も話聞いてたし」


 なぜ橋良があんなにも標的になっていたのか、あんな噂が流されたのか。

 気にはなっていたが、結局は色恋沙汰のもつれのようだ。


「でも、気を遣うとかって私出来なくてさ。結構、その男子と仲良くしちゃってたんだよね。距離感とかも近かったんだと思う。それで、気がついたら告白されてた」


「でも、橋良はちゃんと断ったんだろ?」


「うん。だけど、私が空気読めなかったのは事実だから。もうちょっと桃花ちゃんの気持ちを気にかけて行動してれば、そんなことにはならなかったかもしれない」


「……それでも、橋良は被害者だ。負い目を感じる必要はない」


 橋良は俺の横顔を見つめてくる。

 その視線に気づいてはいるが、今は橋良の方は向けない。普通に手繋いでるだけでバクバクなのに、目を合わせられる訳がない。


 なんで橋良は割と普通にしてるんだ?

 やっぱ、距離感バグってんのか?


「トッキーは優しいねえ。……私が謝りたかったのは、私のためだよ。自分が抱えてたモヤモヤをスッキリさせたかったの」


「……そのモヤモヤとは決着ついたのか?」


「うん。謝ったから、これで全部おしまい。だから、もう俯かない。私を大事にしてくれる人と、全力で笑顔でいようと思う」


 橋良は手を離し、俺の正面に立つ。

 そして俺の顔を覗きこむようにして、上目遣いで目を合わせてきた。


「ねえ、もう一回言って」


「……何をだよ」


「さっき言ってくれたやつ」


「いや、わからんって」


「クラス中から無視されようと、学年中から後ろ指刺されようと、って」


 ……そう言えば、そんな恥ずかしいこと言ったような気がする。

 あん時は謎にテンションあがり過ぎてたから言えたが、シラフの状態でやらされたら拷問みたいなもんだろ。絶対無理。


「そんなこと言ったか? 記憶にないな」


「……へー、嘘だったんだ。私のこと弄んだだけだったんだ」


「いや、待て待て」


「本気で信じてたのに。ひどいよっ、辱められた!! 私の純粋な心を辱められたっ!」


 面倒臭い感じで喚き出された。なんか、デジャブだな。

 これは言わないと永遠に続くやつであることを察した俺は、観念する。


「……はぁ。一回だけだぞ」


 騒いでいた橋良はしんっと静まる。

 そして、期待に満ちた目をこちらに向けてきた。


「この先どうなろうが、俺だけは橋良の味方でいる。橋良の隣にいてやる」


「ずっと?」


「……ずっとな」


"ピロンッ"


 俺が言い終えると同時に、聞き覚えのある音が聞こえてきた。

 ……こいつ、やりやがった。


 橋良は嬉しそうに携帯を取り出し、画面を見せつけてきた。そこには、「録音されました」と表示されている。


「言質とったから」


「お前……何も変わってねえな」


「言質とったからー」


 二回も言うんじゃねえよ。聞こえてんだよ。

 

「おい、消せ。今すぐ消せっ」


「やだよー、私のお守り消しちゃったから。新しいのが必要なんだもん」


「訳わかんねえこと言ってないで、早く消——」


「明日、駅前っ!! 13時!!」


 ……なんなんだ。本当に。

 会話が成立していない。波瑠は二人もいらないんだよ、勘弁してくれ。


「急になんだよ」


「明日学校お休みだからさ、丁度いいかなって思って。結構楽しみにしてたんでしょ?」


「何が?」


「私とカフェ行って、一緒に本読むの」


 橋良は人をおちょくるような笑みを浮かべながら、階段を駆け降りて行った。

 あいつ、言い逃げしやがった。


 そういえば、そんな恥ずかしいことも言ったような気がする。あんな状況で、よく覚えてるな。ボロボロ泣いてたくせに。

 ……まあ、何にせよこれで一件落着なのだろうか。もう桃花が変に絡んでくることはないだろう。



 なんとなくすぐに教室に戻る気にはならず、暫く散りかけている桜をボーっと眺めていた。


 散った花びらが戻ることはない。でも、また来年負けじと綺麗な花弁を咲かせる。そしてまた儚く散るのだろう。時の流れとはそういうものなのだ。


「ずっと……か」


 とんでもない言葉を録られたものだと思いながらも、気づくと自然に笑みがこぼれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ