決意
「……なんだって?」
「あ、いや。その、なんでもない……よ?」
「元々の、橋良が"平気で人の彼氏を奪う男好き"って噂。前の世界じゃ、波瑠は俺から聞いたのか?」
「えっと……」
波瑠はそのまま黙りこむ。
そこに対して問い詰める必要なんてない。この沈黙の答えは、YESということだ。
思い返せば、俺は自己紹介でやらかしていた橋良とは関わりを持とうとしていなかった。
あのまま波瑠が教室に突撃をしてこなかったら、俺はどうしていたのだろうか。
答えは簡単だ。今のクラスの奴らと同じで、距離を置いていたのだろう。
そして、孤立した橋良に対してどこからかクラスに噂がたち始める。
"アイツは人の彼氏を奪う、男好きだ"
それは自然とクラスでの当たり前になり、学年中へと流れていく。
会話の中での話題作り。繋がりのためにそれは自覚なく悪用されて、人を追い詰める。
悪気はないのだろう。でも、本当の橋良を知ってしまった俺は、その悪に気づいてしまった。
未来の自分に、そうなるはずだった自分自身に対して嫌悪感が溢れてくる。
「あっと……ツバメも面白がって言ってきた感じじゃなかったよ? なんか、ポロっとこぼしたみたいな」
フォローに入る波瑠の声も、まともに頭に入ってこなかった。
俺の頭の中に流れていたのは、橋良の言葉。
"私、そういうの本当嫌いなんだよね"
「あの、ツバメ。なんか色々とごめんね」
「……とんでもねえことしてくれたと思ってたけど。あの時波瑠が来てくれて良かったよ」
「え?」
「巻き込んでくれて感謝してる」
目を閉じて、大きく息を吸い込む。
そして、自分の弁当箱を勢いよく開き、アートされている白飯をかっこんだ。
「ど、どうしたの?」
「戦の準備」
「戦って……誰と?」
「くだらない噂と」
過去は変えることはできない。
でも、未来なら変えることができる。
俺が変えるべきは、橋良が俯いてこの先三年間過ごす未来だ。
「手伝おうか?」
波瑠は笑いながら俺の隣りで弁当箱を開ける。参戦するつもりなのだろうが……
「いや、俺一人で動く」
「ほほう。では、討ち取られた時のために後方で待機しておきます」
「……あんま嫌なこと言うなよ」
そのまま何も言わずに、波瑠は隣りで弁当を食べ始める。その無言の時間でも、不思議と居心地の良さを感じた。
まるで何年も親友をやっていたかのような。
◇◇◇
"コンコンコン"
その日の夜、またも律儀に俺の部屋にノックが3回なった。それと同時にヒバリがドアを開きひょっこりと顔を出す。
「どうした?」
「お兄ちゃん、ちょっと相談があるんだけど」
なんとも深刻な顔をしている。
俺は俺で色々と考えなければならないことがあるのだが、可愛い妹の相談というのなら話は別だ。全力で聞こうじゃないか。
「何か悩み事か? 俺のできることなら、何でもするぞ」
ヒバリはパッと笑みを浮かべ、部屋に入ってくる。そして、俺のベッドの上にちょこんと座り口を開いた。
「あのね。どうやったらおっぱいって大きくなるかな?」
「お兄ちゃん忙しいんだ。自分の部屋に帰りなさい」
さて、これはまともに相手してはいけない内容だ。本の続きでも読もう。
「お兄ちゃんなら知ってるかなって。おっきいおっぱい詳しいでしょ?」
「自分の部屋に帰りなさい」
「周りの友達と見比べてみたんだけど、やっぱりヒバリのちょっと小さいなって。それでね、なんか揉むとおっきくなるって聞いたから、お兄ちゃんに頼もうかとーー」
「帰りなさい」
半ば強引に、ヒバリの手をひき仕上げに背中を押して自分の部屋から無理やり追い出す。
「なっ!? 何でもするって言ったじゃん!! お兄ちゃんの嘘つきー!!」
ドアの向こう側から喚き散らしている。
確かに何でもするとは言ったが、出来ることならという文頭が抜けている。
それは実の兄として出来ないことだという認識が出来ないほど、俺の妹はイカれてしまったのだろうか。
まだ、ギャーギャー聞こえてくる喚き声にため息をつき、俺は小さく呟く。
「……明日は、橋良来るかな」




