お見合い
「あ、ツバメ! いらっしゃいっ!」
外階段への扉を開けると、いつもの如く波瑠は綺麗な黒髪を風に揺らしながら待っていた。
言動はさておき、一目見ただけでハッとする美しさがある。未来の俺が惚れるのも不思議ではない。
「悪かったな、急に呼び出して」
「んーん、全然。むしろ、ツバメの顔見れてなんかホッとしたよ」
全くの恥ずかしげもなく波瑠は言う。
「……そういうこと言ってるから、勘違いされるんだろ」
「だって、事実だし。私だって、色々追っついてないんだよ。状況整理したり、あれこれ考えてたらちょっと疲れちゃった」
波瑠は両手を組み背伸びをしながら、あくびをしている。寝不足なのか、よく見ると目元に薄くクマがあるようにも見える。
ひょうひょうとしているようで、思ったよりも現状に混乱しているのかもしれない。
「まあ、戸惑わないわけがないか」
「私も色々考えたけど……今ツバメが元気に私の前にいる。そんな奇跡が起きたことには感謝しかないよ」
「……そんなに、俺が大事か?」
「大事だよ」
真っ直ぐに波瑠は言う。その透き通った声には一切の淀みはなかった。
俺にとっては昨日初めて会ったばかりだが、この短時間の関わりでもわかったことが一つある。波瑠は恐らしい程純粋なのだ。
思ったことはそのまま言う。やりたいことは、すぐに行動する。
人は歳をとれば、自ずと色んな感情を知り、自分の立ち位置を気にして打算的になる。そんな薄暗いものを、波瑠は一切背負っていない。
不器用にまっすぐに進むことしか知らない彼女は、俺とは本当に正反対の人間なのだろう。
「それより、どうしたの? 話しってなに?」
「あ、ああ。ちょっと、ある人物のことを知りたいんだ」
「ほほう。女の子?」
「いや、まあ……」
波瑠は目を輝かせ、食いついてくる。
「うそっ!? 早速、彼女候補見つけたのっ!? 任せて、私の完璧なる情報で成就させてあげる!!」
「そんなんじゃねえって」
「照れないでいいから! この、タイムリーパー波瑠様に任せなさい!」
随分、得意気な顔をする。
どこからその自信がくるのか知らんが、波瑠の性質的に恋バナを解析して的確に攻略ルートを導き出すなんて出来やしないだろう。
まあ、そもそも恋バナですらないんだが。
「それで誰のこと、知りたいの?」
「えっと、橋良満開ってヤツ。知ってるか?」
「……!?」
わかりやすいほど、驚いた顔をする。
波瑠は少し間を空けたあと、頬をポリポリと掻き始めた。
「どうした?」
「いやー、なんていうか……だいぶ意外な娘の名前が出てきたなあって。ああ、今だとツバメと同じクラスか……」
「俺の前の席なんだよ。それより、なんだ? その反応」
「いや、いいと思うよ!? あの娘可愛いもんね!」
明らかに、何かを隠してる。
何でもズバズバ言う波瑠がここまで戸惑うのは、それなりの理由がありそうだ。
「歯切れ悪いな。言いにくいことでもあるのか?」
「いやー、まあ。……とりあえず言えるのは、私もあの娘のことはあんまり知らないかも」
「関わりがなかったと?」
「うん、同じクラスだったことないし。それに、ツバメもあの娘とは多分関わってなかったと思う。っていうか、ツバメに限らずというか……」
そのワードでなんとなく言わんとしていることが想像ついた。
波瑠が言いづらそうにしているのにも納得がいく。
「要するに、橋良は誰とも関わらず高校生活を過ごしていたってことか」
「誰かと一緒にいたりとか見たことないかも。だから、どんな子なのかは正直わからないんだ。……ただ、」
「……?」
「いや……うーん。でもなぁ……うーん」
腕を組みながら、一人で唸っている。
元々感情型で動いている娘だ。思考をするというキャパは少ないのか、頭から段々と湯気が出始めている。
このまま放っておくとリアルに爆発するかもしれない。
「そんな悩むなよ。関わりのない波瑠でも知っていることなら、どうせいずれ知ることになんだろ?」
「まあ……そうかも。あのね、真偽はわからないよ? わからないけど、凄い有名な噂は出回ってたんだよね」
「噂?」
「本当にただの噂だと思って聞いて。私だって、適当な情報でこんなこと言いたくないからさ」
波瑠は一つ呼吸を置いてから、後ろめたそうに口を開いた。
「人の彼氏を平気で奪う、めちゃくちゃ男好きだって……」




