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6話

 そんな圭子の身に一つの大きな問題が降りかかろうとしていた。


 圭子には2つ上の京子という姉がいた。京子は吉田という公務員と結婚して、同じ市内に住み、小学校に通う美沙と守という2人の子供がいた。

 

 圭子は何時かはこうなるとは思っていた。


 それは夕食を終えた、京子の家での夫婦のやり取りだった。


 京子は、苦々しい思いをぶつけるように、酒を飲み赤い顔をした主人の吉田に言った。


「圭子、結構いい男物にしたみたいよ。IT研究所のエンジニアですって。お母さんはあの子に任せればいいのよ。姉妹のなかであの子だけ上の学校に行かせてもらって、一番いい思いしているのだから当然よ」


「そうか。付き合いがないからどんな人か知らんが、うん、と言ってくれればいいけどな。なにしろ俺はその妹さん、顔さえしらんのだから。とにかく俺はおまえの母さんの面倒を見るなんてことはいやだぞ。美沙も守も今あの状態だ。それにガキをもう一人増やすような真似なんかとんでもないぞ」


 京子の主人は酒を一口あおり、睨みつけるように、赤い目で京子を見つめた。


「来週にでもあの子に会って、これ以上お母さんを一人にしておくのは、無理だということを話すわ。そしてお母さんは、あの子に面倒を見させるようにする。とにかく、私の家じゃ面倒をみられないことは、はっきりさせて来る」


 京子は、無慈悲な表情で吉田に向かって言った。主人の吉田はもう一口酒をあおると、満足そうに頷いた。


 釧路に一人で住んでいる母は、認知症が進み、そろそろ介護の必要な時期に来たのだった。


 どうやら、これ以上の一人暮らしは無理だと、医者から告げられたようだったのだ。

 

その週の休み、姉の京子から連絡を圭子は受けた。


 圭子は姉と一緒に、今後の母の問題に関してを、京子の家の近くの喫茶店で話しあうことにしていた。


 その日、圭子は待ち合わせの場所へ出かける準備をしていた。そこに行くには、いつもと違う路線のバスを使うしかない。


 雨だった。並木の桜が狂ったように舞い、雨粒は怒鳴りつけるように地面を叩きつけていた。


 圭子は赤のレインコート着て、傘を差し、部屋を出た。


 傘が揺れ、長い髪が雨に少し濡れた。


 道路は渋滞している。バスは来ない、かなり遅れている。何度も時計を見た。だからと言って時間が速く進むわけではない。遅れているバスが速く来るわけでもない。圭子は諦めた。地面に虫がいた。彼女はその虫を思いっきり踏んづけた。



                              つづく

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