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11話

 仕事が終わり部屋に帰ると、食事中に柴田は圭子に切り出した。

「仙台に転勤になった」

圭子はさほど驚いた様子もなく、箸も止めずに答えた。

「私はどうすればいいの。仕事は辞められないわよ」

「1年ということなんだ」

「そうね」彼女は味噌汁のお椀を手に考えた。

「単身赴任という手もある」彼が言った。


まるで彼は一人で行きたがっているような口ぶりだった。

「もう子供もできそうにないし、独身生活に戻れる最後のチャンスかもしれない。それに母さんのこともあるし・・・」

彼女は小皿のたくあんに箸を伸ばしながら思った。

 結局、二人は柴田が1年間仙台へ単身赴任をするということで、意見はあっさり一致した。


 1か月に1回は帰ってくるという条件付きだったが、彼女はそんな条件など、どうでもよかった。

 彼の転勤には部下の若い女子社員、初美も一緒だった。これは本部長の思いやりだという事だが、そんな事実は圭子は知らない。

 もう一人若い男がいたが、柴田はそれが誰なのか知らなかった。名前すら聞いたことがなかったのだ。

 そして4月の春に柴田は仙台にひとりで引っ越していった。荷物はそれほどなかった。赤帽1台で十分だった。


 仙台で働き始めたある日、柴田は会社で初美に声をかけた。

「どうだい、仙台にもそろそろなれただろう」柴田が初美に言った。

「でも、私、一人暮らしは初めてですから」初美は、はにかむ様に言った。

 彼女は新卒だった。ビキニの似合いそうな、スタイルのいい、洋画的な美人だった。

 柴田が笑いながら言った。

「君ならすぐにいい人が見つかるよ。会社にだって、若いのがいっぱいいるじゃないか」柴田が言った。

「結婚は、もう少し後かなと思ってます」少し照れたように初美は言った。

 そんな初美を、柴田は、かわいらしくも、美しくも感じていた。

 

 柴田と初美が仙台に転勤になって2か月目の出来事だった。

初美は二日酔いを感じながら、朝食をとっていた。昨日、初美は友人の同僚、幸子と飲みに出ていたのだ。

 朝、目を覚ました初美は少し濃い目の熱いコヒーを口にしながら、居酒屋でいった幸子の言葉を思い出していた。

「上司と関係持つのもいいものよ。初美、柴田課長に、声をかけてみたら?」初美に向かって幸子がそう言ったのだ。

 初美は思っていた。


「柴田課長に・・・。悪くないかもしれないな」


 数日後だった、事務所の中は、残業で残っていた初美と柴田の二人だけだった。

 それを見た初美は「今日だ・・・」そう思っていたのだ。

 「事務所にある段ボールあれを利用して課長と二人で地下の倉庫に入ろう。

そうすれば後は・・・。」初美は思っていた。

 

 初美は柴田に思い切って声をかけた。

「課長、すいません。事務所の段ボール運ぶの手伝ってくれませんか」

 初美は思いっきり切なげな声で言った。

「これから運ぶのかい?」柴田がちょっぴり面倒くさそうに聞いた。

「今日中にやる様に言われてるんです」初美がより切なげに言った。

 柴田はやれやれと思いながら、腰を上げた。

「何所へ運ぶんだい」

「地下の倉庫です」


 そして、段ボールを手分けして、二人で持ち、地下の倉庫へ向かった。

 柴田は、初美が何を企んでいるのか気づきもしなかった。

 そしてエレベータに乗った二人は地下へと向かっていった。

 

 初美が地下の倉庫の重たいカギをガチャリと開けると、壁の様な大きなドアを開け、二人は冷え切った倉庫の中に入っていった。

 さっそく二人で手分けして、段ボールを所定の場所に置いっていった。

作業はたいしたものではなかった。

「これで終わりかい」柴田が少々拍子抜けして聞いた。

すると初美が少し幼くも見えるかわいらしい顔でニコリと笑って答えた。

「いいえ、これからなんです、課長」

 

 そして初美は冷え切った倉庫の壁の様な大きなドアを閉め、重たい鍵を今度はガチャリと大きな音を立て閉めてしまった。

「何をするんだ」柴田は驚いて初美に言った。

「これからなんです、課長」初美はもう一度柴田に向かって言った。


 そうして初美はその大きなかわいらしい目でもって真直ぐに真剣に力強く柴田を見つめた。

 そのまなざしは柴田に静かに求めてくるようだった。

「お願い課長、私を抱いて」

 初美はしっかりとした口調で言った。その声は冷え切った倉庫の中でこだました。

 柴田は驚いて何も言えなかった。


「これが本部長の思いやりだったのだ」彼はおもった。

 その時の、彼の胸中にちょっぴり圭子の面影が写ったが、柴田は目をつむり、ゆっくりと彼女に近づき彼女をあたかく、優しく抱きしめた。

 柴田は言った。

「高田さん、二人だけの秘密だよ」そう言って、柴田は、更に彼女を力強く、抱きしめた。

 彼女は、圭子より柔らかかった。

 その柔らかさは柴田にとって懐かしく、新鮮な、柔らかさだった。

 二人は激しく口づけると、無造作に衣類を脱いだ。

 

 そして、二人は時々、外で会い、喜びを分かち合う中になった。


 柴田は5月、6月と毎月帰って来たが、それが2か月に1回となり、やがて3か月に1回、そして結局、帰って来なくなった。が、圭子はさほど気には止めなかった。気になった時は短いメールを1本入れた。するとしばらくたってから彼から短い返信が届くのだった。

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