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■76   / その時妖魔王は

3人がそれぞれの試練を乗り越え、遺跡の中心に再び集まったとき、空気には静かで張り詰めた緊張感が漂っていた。

魔石の輝きはそれぞれの手の中で鮮やかに光を放ち、遺跡全体が彼らの成長を祝福するかのように光に包まれていた。

しかし、その静けさの裏には、さらなる試練が待ち構えている予感があった。


「これで終わりではないようね…」麻美はかすかな不安を抱えながら、周囲を見渡した。彼女の心の奥には、次なる挑戦への覚悟が芽生え始めていた。


「そうだな、まだこの遺跡が何かを伝えようとしている。」守田は慎重に、壁に刻まれた古代文字に目を留めた。その文字はまるで彼らの運命を示唆するかのように、神秘的な光を放っていた。「この遺跡自体が生きているように感じる…」


零は、さらに強くなった魔石の力を手の中で確かめながら前を見据えた。「俺たちがここで試されたのは、ただ力を得るためだけじゃないはずだ。この先に待っている敵は、今までのどれよりも強大だろう。」彼の言葉には決意が宿り、心に燃えるような情熱が渦巻いていた。


その時、彼らの足元に刻まれた魔法陣が静かに輝き始めた。古代の文字が淡い光を放ち、遺跡全体が振動し始める。その振動は、彼らの心を揺さぶるような神秘的なエネルギーに満ちていた


「また何かが起こる…!」零が身構えた瞬間、地面が震え、大きな石の扉が再び音もなく開いた。扉の向こうには、深い闇が広がっていたが、その闇の中に微かな光が見えた。それは、異様に輝く巨大な魔石だった。彼らがこれまで見たことのないほどの圧倒的な魔力を放つ石だった。


「この魔石は…尋常じゃないわね。」麻美は一歩後ずさりしながら、その輝きに圧倒されていた。彼女の心には畏敬と共に恐れが入り混じり、その光景はまるで夢の中のようだった。「こんなに強い力を感じるのは初めて。」


「これはただの魔石じゃない。何かが封印されている…」守田は魔石を鋭い目で見つめ、そして気づいた。「この封印が解けたら…俺たちが対峙するのは、この遺跡を守る守護者だ。」


その言葉を受けて、零は決意を固めた表情で前へ進んだ。「どうやら、ここからが本当の試練だな。俺たちはここまで来た…なら、最後まで戦い抜こう。」彼の声は力強く、仲間たちの心に希望の火を灯した。


三人はゆっくりと闇の中に足を踏み入れ、巨大な魔石へと近づいていく。周囲の空気が重く、圧倒的な力に包まれながらも、彼らの決意は揺らがなかった。


守護者の出現


魔石の前に立った瞬間、遺跡全体が震動し、突然その中心から巨大な光が溢れ出した。光の中から現れたのは、かつて存在した「守護者」と呼ばれる存在だった。その姿は人の形をしていたが、身体は魔石のような硬い結晶で覆われており、まるで生きた石像のようだった。


「この遺跡の守護者か…」零が驚きと共に呟いた。彼の心には、期待と不安が入り混じっていた。


守護者は無言のまま、ゆっくりと手をかざし、その手の中に光の剣が現れた。彼の目には無限の知恵と力が宿っており、まるで三人の心の中を見透かすかのようにじっと見据えていた。その瞳は深淵のように深く、全てを知っているかのようだった。


「我を倒せば、汝らはさらなる力を得るであろう…だが、その覚悟があるのか?」守護者の声が遺跡の中に響き渡り、彼の手の中の光の剣が一層輝きを増していった。


零は魔石を握りしめ、決意の目で守護者を見据えた。「俺たちはここまで来た。もう後戻りはできない。」彼の言葉には、確固たる決意が宿り、仲間たちへの信頼が色濃く表れていた。


守護者が剣を振り上げた瞬間、遺跡全体が揺れ、激しい衝撃が三人に襲いかかった。彼の動きは驚くほど速く、一瞬で零に向かって剣が振り下ろされる。


「くっ…!」零は咄嗟に魔石の力を解放し、炎の防御を作り出して攻撃を防いだが、その衝撃は凄まじく、後ろに吹き飛ばされた。


「零君!」麻美が叫び、風の力で彼の体を支えながら、すぐに守護者へと向き直った。彼女もまた、風の刃を放ちながら守護者に攻撃を仕掛けたが、守護者はその攻撃を軽々と避け、次々と反撃を繰り出してきた。


守田は冷静に守護者の動きを見極めながら、空間を操作してその攻撃を遅らせようと試みた。「あいつの動きが読めない…だが、攻撃を捉えられれば…!」


守護者の力は圧倒的だった。三人は全力で戦っていたが、その速度と力は人知を超えていた。零が再び炎の攻撃を放とうとするが、守護者は瞬時に反応し、その炎を打ち消してしまった。


「どうすれば…この守護者を倒せるんだ…?」零は息を切らしながら、自分たちの力が及ばないことに焦りを感じ始めた。しかし、その時、彼の頭の中にレイラの言葉が響いた。


「光と闇の力が一つになった時、真の力が解放される…」


「光と闇の力…?」零は一瞬、考えを巡らせた。彼は自分の持つ炎の力と、麻美の風、そして守田の空間を操る力が、この遺跡の守護者に打ち勝つ鍵であると直感した。


「みんな、力を合わせるんだ!」零は叫び、麻美と守田に指示を飛ばした。「俺たちの持つ力を一つにすれば、この守護者に勝てるはずだ!」


麻美は風を操り、守田は空間を操作し、零の炎を中心にして三つの力を融合させた。その瞬間、強力な光の渦が生まれ、守護者に向かって一直線に放たれた。


「これで終わりだ…!」零が全力で叫びながら攻撃を放つと、その光の渦が守護者を包み込んだ。


守護者は一瞬動きを止め、その瞳にわずかな驚きの色が浮かんだ。「これが…汝らの力か…」


光の中で、守護者の身体が次第に崩れ始め、巨大な魔石がその中心から現れた。そして、その魔石は三人に向かって輝きを放ち、新たな力を授けようとしていた。





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暗黒の王座に深々と座り、妖魔王リヴォールは静かにワイングラスを掲げていた。

薄暗い照明の中、そのワインはまるで血のように濃厚で、鮮烈な赤色が艶やかに輝いている。王の口元がわずかにほころぶと、ワインの液面がその動きに呼応するかのように微かに揺れ、まるで生き物のように静かに彼を見つめ返していた。


リヴォールの指は長く、優雅でありながらも非情な冷たさを帯びている。その指先でワイングラスをかすかに傾けると、液体がグラスの中で螺旋を描き、光を放ちながら回転する。彼の視線は、赤い液体の奥にどこか遠い過去を映し出すかのように冷酷な光を宿し、眩いほどの力と貴族的な気高さを感じさせていた。


「これが…地上に生きる者たちの夢と苦悶の結晶か…」彼は低く抑えた声で呟き、その唇から発せられる言葉には、古の言語の響きが混じっていた。その声はまるで深い奈落から這い上がってきたかのような冷たさと残虐さを感じさせ、耳に届いた者は背筋が凍るような思いをするだろう。彼の手元のワインはただの液体ではない。それは、彼の長き支配と数えきれぬ犠牲の歴史を象徴する、死の結晶だった。


ゆっくりと、リヴォールはワイングラスを口元に運び、その紅い液体に口を付ける。口内に広がる味は甘美でありながらも鋭く、刺すような刺激が喉を滑り落ちていく。その感覚は彼にとって陶酔にも近い、まさに禁忌の悦楽だった。彼は瞳を閉じ、僅かに頬を緩め、息を吐き出すようにその香りと味わいをじっくりと堪能する。


「ふふ…」唇の端に浮かんだ笑みは、凍てつく闇夜のごとく冷酷な微笑だ。彼にとってこの一杯は、単なる飲み物ではない。人間たちの恐怖、絶望、死が凝縮された甘美なエッセンスなのだ。かつて神であったころ、彼には知る由もなかったこの快楽が、彼の堕天によって手に入れられた唯一の贅沢だった。


「いずれは…」リヴォールは低く、己に言い聞かせるように呟く。その声には静かでありながらも強烈な狂気が混ざり合い、まるで彼の魂が歪み、かつての栄光を渇望しているかのようだった。


ゆっくりと杯を置くと、彼の視線は遠く、虚空を見据えていた。その眼差しの奥には、果てしない孤独と野望が渦巻いている。目の前のワインすら、彼にとってはほんの一時の慰めに過ぎない。彼の思念は遥か先、地上に住む者たち、異世界にいる者たちへと向けられ、さらなる破滅と支配を計画していた。


その瞬間、暗い空間の中に何かが震えたかのように、微かな振動が走った。しかし、彼はそれを気にすることなく、再びグラスを口元に運ぶ。「この私に抗う者などいない…いや、いるはずもないのだ。」


ワインを飲み干すと、彼の唇は艶やかな赤に染まり、それはまるで彼自身の残忍さを映し出しているかのようだった。そして、その表情には、彼の内に渦巻く狂気と、破滅の未来に対する愉悦が刻まれていた。



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