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■63 溶けるような紫と燃えるような赤 /700年前 /妖魔王、ダイヤモンドの指輪にご満悦

夕暮れの空は、溶けるような紫と燃えるような赤が混じり合い、まるでこの世とあの世の境界がぼやけ始めたかのようだった。

光の余韻が街を包み、噴水の水面はその美しい残像を映し出していた。

零はその水音に耳を傾け、静かに佇んでいた。

戦いの緊張感がまだ彼の筋肉に染みついているが、心はすでに解き放たれている。

頬を撫でる風は柔らかく、冷たさの中にも心地よい温かさが混じっている。


「こうして、何も考えずにいられる時間も悪くない。」零はその一言を自分の心に響かせ、深く息を吸った。


「零君、ここにいたのね。」麻美の声が、そっと背後から聞こえてきた。彼女はふわりとした歩みで近づき、柔らかな笑みを零に向けた。

手に持っている果物が、夕陽の光に照らされて輝いている。

「市場で美味しそうな果物を見つけたの。少し一緒に食べない?」その言葉に含まれた優しさと暖かさは、彼の疲れた心にそっと染み込んでいく。

彼女の瞳はまるで夜空に瞬く星のようにきらめき、その光は零の内側にある暗い部分を一瞬で照らした。


零は静かに微笑み返し、「ありがとう」と応じて彼女の隣に腰を下ろした。

二人の間に流れる静寂は、戦場の騒音とは対照的で、どこか甘く、穏やかだった。遠くに響く鳥のさえずりすらも、二人の安らぎのひとときに寄り添うように感じられた。


「守さんはまだ戻ってきてないみたいだな。」零がふと周囲を見回すと、麻美は微笑みながら頷いた。「また装備を見直しているんじゃないかしら。いつも戦いの後は、自分を磨く時間を大切にするもの。」


その言葉に、零は小さく笑った。「守さんらしいな。」守田の真剣さと、どこか不器用な優しさが、頭に浮かんだ。彼の姿を思い描くと、不思議と心が温まる。


夕陽がゆっくりと沈み始め、二人は静かに果物を分け合っていた。麻美はふと零の顔を見つめる。彼の顔には戦いの疲れが薄く表れていたが、瞳の奥には安堵の色がわずかに差し込んでいた。


「零君、今日も本当に頑張ったわね。あのエンペラルオーク、強敵だったけど、あなたがいなかったら勝てなかったわ。」麻美が静かに口を開くと、零は果物を一口かじり、軽く頷いた。「簡単な相手じゃなかったな…けど、なんとか乗り越えた。」言葉の端々にまだ戦いの余韻が感じられる。


「それにしても、あの魔石…とんでもない力を持っているのね。私たち、もっと強くなれるかもしれない。」麻美の声には希望の光が差し込んでいたが、零はその視線を遠くに向け、静かに答えた。「ああ、だが力を得るたびに、何か大事なものを少しずつ失っている気がする。」


その言葉に、麻美は一瞬驚いたが、すぐに柔らかな微笑を浮かべた。「零君、その強さはきっと、何も失うことなく私たちを守るためにあるのよ。あなたは、いつだって仲間を大切にして戦っているから。」彼女の言葉は、まるで深い湖の水面が風に揺れるかのように静かでありながら、心の奥深くに響き渡った。


零はその言葉に一瞬困惑したが、やがて静かに頷いた。「ありがとう」その一言には、感謝と共に、どこか救われたような温もりが含まれていた。


その時、遠くから守田がゆっくりと歩いてくるのが見えた。彼の表情には、自信に満ちた笑みが浮かび、修復された装備は、夕陽に照らされて輝いていた。「待たせたな。」その声は、まるで長い戦いの後の安堵を感じさせるものだった。


零と麻美が立ち上がると、守田は軽く笑みを浮かべ、「装備はばっちりだ。これで次の戦いにも備えられる。」と、頼もしい言葉を口にした。


「次の戦い…か。」零はその言葉を反芻し、胸の中に重くのしかかるような感覚を覚えた。しかし、今はまだその時ではない。今はこの瞬間、この平和なひとときを、もっと噛み締めたいと思っていた。


三人は、ゆっくりと町の通りを歩き始めた。それぞれの胸の中には、次なる試練への静かな決意が宿っていたが、今だけは、その思いを静かに脇に置いていた。空には一つ、また一つと星が瞬き始め、夜の帳が町全体を包み込んでいく。


足音だけが響く静寂の中、三人は東京に帰る未来に思いを馳せながら歩き続けた。


--------------------------


700年前。


広大な草原が広がる地に、彼は静かに立っていた。澄み切った青空の下、遠くに見える山々が柔らかな陰影を描き出し、その向こうには小さな村が息づいていた。しかし、その村は今、暗い影に包まれようとしていた。まがまがしい闇の力が広がり、村人たちは恐怖に怯え、何もできずに立ち尽くしていた。


彼はその存在を知っていた。神としての彼は、常に人間と魔のバランスを見守る役割を果たしてきた。今日もまた、彼はその使命を胸に、穏やかにその場に立ち尽くしていた。彼の手には、神剣が光を放っている。鋭い刃は、まるで星々のように輝き、彼の意志を宿していた。


草原の風が彼の髪をなびかせ、その瞬間、彼の目は闇の中心に向けられた。闇は徐々に彼の周囲に迫り、村に不安をもたらす。しかし、彼の心には不安は存在しない。彼の使命は明確であり、彼はその使命を全うするためにここにいる。


彼は神剣を高く掲げ、周囲に集まる光を呼び寄せる。剣の先から放たれる光は、彼の意志に応え、光の波となって広がる。周囲の空気が震え、草原が微かに揺れ動く。彼はその瞬間、静かな決意を感じる。


目の前の闇は、彼の存在に気づき、その動きを止めた。恐れを知らぬ彼に対抗するかのように、闇が渦を巻き、無数の影が彼に向かって襲いかかる。しかし、彼の神剣はその影を切り裂くためにある。彼は剣を振るうことなく、ただその場で静かに待つ。


ダークの影が近づくと、彼は一瞬の間を置いて、神剣を前方に向ける。剣の刃が光を受け、眩い光が周囲を照らし出す。光は徐々に強まり、周囲の影を圧倒する。その瞬間、彼は剣を振り下ろす。闇を切り裂くかのような鋭い一閃が、周囲に響き渡る。


光の刃はダークを切り裂き、闇の中に裂け目を作る。そこから浄化の光が流れ出し、暗黒を追い払っていく。周囲の空気が一変し、温かい風が彼を包み込む。村人たちの目に映るその光景は、まるで神の恵みのように見えた。


彼は冷静に神剣を振るい、再び闇を切り裂く。剣が光を帯び、まるで生命を持つかのように躍動する。周囲のダークが次第に薄れ、彼の存在がその場を支配していく。村の未来を守るために、彼は冷静に力を発揮する。


魔の力が残る最後の影を彼は見据え、その動きに合わせて剣を一閃させる。光が走り、闇は再び消え去る。彼の心には、静かな満足感が広がる。人間と魔のバランスを保つために、自らの力を使ったその瞬間は、彼にとって何よりの安堵であった。


闇の力が完全に消え去ると、彼は神剣を静かに下ろす。周囲に満ちる光が、村人たちの恐れを取り除いていく。彼はその様子を静かに見守り、村が再び安らぎを取り戻すのを感じる。



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玉座の間は薄暗い闇に包まれ、そこに妖魔王リヴォールの冷ややかな眼差しが鋭く光っていた。彼はその手に握るダイヤモンドを見つめながら、静かに微笑みを浮かべている。地球から持ち帰ったこの宝石、ダイヤモンドは底知れぬ魔力を宿していた。リヴォールはそれを手に入れることで、これまでとは一線を画す力を得られると確信していたのだ。


「この宝石を指輪に加工し、私の指に収めれば…」彼は、つぶやくようにその願望を口にした。だが、ダイヤモンドの魔力は凄まじく、手にするだけで周囲の魔物たちはその力に触れるだけで疲労を感じ、身を震わせていた。彼に忠実な魔物でさえ、その輝きに引き寄せられながらもその場に崩れ落ち、うめき声を上げる始末だった。


「何たる軟弱なことだ!」リヴォールの声が玉座の間に響き渡り、怯える魔物たちの顔が青ざめた。「このような程度の輝きに怯むなど、情けない限りだ。」彼はその不満げな表情を隠そうともせず、鋭い視線で1000体の魔物たちに命じた。「これより、全員でこのダイヤを指輪に加工させるのだ。魔物海戦術をもって、全力で成し遂げよ!」


その言葉に、一瞬の沈黙が場を支配したかと思うと、次の瞬間、魔物たちは恐怖と使命感に駆られ、次々と玉座の間を飛び出していった。リヴォールの命令に応えるべく、各地から魔物が集まり始め、街道には集団で移動する魔物の影が続いていく。彼らは、その魔力の圧迫に苦しみながらも、一心不乱にダイヤモンドを指輪に加工するために奔走していた。


やがて、その輝きを保つために、大粒のダイヤモンドを磨き上げ、リング状に形成するための魔物たちの力が次々と尽きていった。しかし、リヴォールは容赦なく命令を繰り返し、最も忠実である者から順に、彼のために生命力を削りながら手を尽くすこととなった。


この工程には長い日々が費やされた。誰一人としてその魔力の前に屈しない者はいなかったが、ひとたび倒れても他の者がその場所に入り込み、命を繋いでいく。彼らの犠牲は、リヴォールの望みを遂げるための捧げ物でしかなかった。


そして、ついにその日が訪れた。1000体もの魔物の協力の果て、まるで凍てつくように冷たく、鋭い光を放つダイヤモンドの指輪がリヴォールの目の前に差し出された。彼はその輝きに満足げに微笑み、その手でゆっくりと指輪を指にはめた。光の粒が指に吸い込まれ、リヴォールの魔力が一瞬にして増幅されるのを感じた彼は、まるで新たな王座に君臨したかのような喜びに満たされていく。


「ついに手に入れたのだ…地球の宝石の真価を、この異世界で私のものとする。」彼の声は、今や驚嘆と歓喜に満ちていた。その圧倒的な魔力の波が彼の体から溢れ、彼の傍に倒れ込んでいた魔物たちは再び圧迫を受けて息を飲んだが、彼の喜びに酔いしれるように忠誠の姿勢を崩さなかった。


リヴォールの指に収まったそのダイヤモンドは、彼の支配欲を映し出すかのように煌めき、異世界の空間そのものにまで影響を及ぼしていった。


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