■56 影と雷 /妖魔王、配下に相談する
冷たい霧が地面を這い、黒い闇が空に渦巻いている。
その中心には、深淵の瞳を持つディオスが、まるで死神のように冷ややかに佇んでいた。
まるで全てを支配するような、その無機質な笑み。
夜の帳が彼の周りに巻きつき、空間が歪んでいるかのように感じられた。
零は剣を握りしめ、指の関節が白くなるほど力を込めていた。
張り詰めた空気が彼の皮膚を撫でるたびに、鼓動が一層早まり、世界が静止したかのような感覚が襲ってくる。
それでも、零の目は鋭く、ディオスを見据え、まるでその奥にある隠された何かを見つけようとするかのようだった。
「守さん、麻美、俺たちはまだ終わってない。奴がどれほど強かろうが、俺たちには引き返す道はないんだ。何か…何か突破口があるはずだ」零は静かにだが確信を持って言葉を吐き出す。彼の声には、絶望に抗う炎が宿っていた。
麻美はその言葉に小さく頷きつつも、眉をひそめて不安げに言った。「でも、零…魔法が効かないし、あなたの剣でさえもダメージを与えられない。どうすれば…?」
彼女の声は風のように揺らいでいた。彼女は風の気配を探っていたが、まるで世界が彼女の力を拒絶しているかのように、その風は無力だった。
「絶望的な状況でこそ、何かが見えてくるんだよ。あいつの防御が完璧に見えるとしても、どこかに突破口がある。今までの戦いだってそうだっただろ?」麻美は自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、再び前に進む決意を固めた。
「零、お前の剣には特別な力があるんだろ?あの剣で突破できないなら、他に方法なんてないはずだ。俺たちが奴の防御を崩す方法を見つけるまで、戦いは終わらない」守田は拳を固く握りしめ、その決意が瞳に燃え上がる炎のように映っていた。
その光景を冷静に見つめるディオスは、薄らと笑みを浮かべながら、彼らを嘲笑うかのように言った。「愚かな。お前たちの無力な足掻きがどこまで続くか、見物だな。しかし、その努力は何の意味も持たぬ。私の闇は絶対だ。この世界を支配する存在である私に、お前たちの力が届くとでも思うのか?」
零はその言葉に反応するように、ゆっくりと呼吸を整えた。剣の刃が光を反射し、まるでその光がディオスの闇を拒絶しているかのように感じられた。しかし、彼の心は冷静さを保ちつつも、どこかで葛藤していた。
「魔法が効かない…だが、剣だけが俺の武器じゃないはずだ。きっと、俺たちにはまだ隠された力があるんだ」零は妖刀の重みを感じつつ、ゆっくりと鞘に収めた。そして、深い思索に沈み込んでいた。「もし…剣と魔法を一つにすれば…?」
その考えが脳裏をよぎり、彼は再び剣を引き抜いた。その瞬間、彼の目に強い光が宿り、剣の柄をしっかりと握りしめた。
「俺の剣には、もっと深い力が眠っている。この状況だからこそ、その力を解き放つ時だ。影と雷、二つの力を同時に引き出すんだ。そうすれば、ディオスの闇に対抗できる」
麻美はその言葉に驚きながらも、期待を込めた目で零を見つめた。「影と雷…そんな力をどうやって引き出すの?」
守田も同じく、零の言葉に耳を傾けながら問いかけた。「零、本当にその力を引き出せるのか?どうすれば…?」
零は静かに目を閉じ、深く息を吸い込んだ。「まず、影の魔石の力を引き出し、それを剣に宿す。そして、雷の力を同時に発動させる。これができれば、剣の本当の力を解き放てるはずだ」
「やってみよう!私たちも全力でサポートする!」麻美は風の魔法を準備し、守田も防御態勢を整え、いつでも零を援護できるようにした。
ディオスは再び冷たい笑みを浮かべ、彼らの動きを嘲るように言った。「どれほど足掻こうとも、私の闇は破れるものではない。だが、その無駄な努力、見せてもらおう」
零は再び剣を構え、魔石の力を感じ取ろうと意識を集中させた。「影よ、我に力を与え、闇を打ち砕け…!」
その瞬間、黒い影が零の周囲に渦巻き始め、妖刀に宿っていった。
まるで生きているかのようなその影は、剣の刃を覆い尽くし、彼の全身に新たな力を注ぎ込んでいく。さらに、雷の力も呼び起こされ、剣先に青白い稲妻が走った。
「これが俺の全力だ!」零は叫び、ディオスに向かって突進した。影と雷の力を纏った剣が闇を切り裂き、ディオスの防御に一撃を叩き込んだ。
「な…何だ、この剣は…!?」ディオスの表情が驚愕に変わり、その冷静さが崩れた。剣が闇を貫き、防御が崩れ始めた。
「終わりだ!」零はさらに力を込め、ディオスの防御を完全に打ち破ろうとする。
だが――
ディオスは最後の力を振り絞り、再び闇の波動を放った。剣は確かに彼にダメージを与えていたが、彼の力は未だ完全には消えていなかった。
「くそっ…まだ奴の力は残っているのか!」零は息を切らしながらも、剣を再び構えた
「今度こそ…!」麻美が風を起こし、仲間たちに新たな力を吹き込んだ。
零は再びディオスに立ち向かう決意を固めた。
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リヴォールは、暗く広がる玉座の間に腰を下ろし、静かに配下たちを見回していた。その瞳には強大な意志が宿り、だが同時に、何かを考え込むような陰りも見えていた。
「地球から持ち帰ったパワーストーンをこちらで魔石に変えることで、強い魔物を生み出してきたが、これだけでは足りぬようだ…」と、リヴォールは低く言葉を吐き出した。「いずれ地球を侵略し、完全なる支配を成し遂げたいのだが、どうにも思うようにはいかぬ。」
彼の言葉に、側近である魔石に精通した老魔物がひっそりと頷いた。「確かに、妖魔王様。地球の軍事力はこの数年で飛躍的に向上しております。今の魔物たちだけでは、その強化された技術や武力に対抗するのは困難かもしれません。」
リヴォールは静かに玉座から身を乗り出し、配下の目をじっと見据えた。「では、どうすればよい?何か策はないのか?」
老魔物は一瞬の沈黙の後、慎重に口を開いた。「…妖魔王様、もし新たな魔石をさらに強化できる術があれば、あるいは…ただ、地球から持ち帰るだけでなく、その魔石に特別な精霊を封じ込め、独自の力を宿すことができれば、今の何倍もの力を生み出せるかと。」
リヴォールは眉をわずかにひそめ、考え込むようにその言葉を反芻した。「精霊を…封じ込める、か。つまり、魔石そのものをただの力の蓄えではなく、知性を持つ存在に作り変えようというわけか。」
老魔物はゆっくりと首を縦に振った。「はい、そうすれば、魔石に込められた知性が我々に更なる戦術をもたらすかもしれませんし、魔物たちの力も数段に高まることでしょう。そして、地球への侵攻も夢ではなくなるかと…。」
リヴォールは深く息をつき、何か決意を固めたかのように再び冷ややかに微笑んだ。「良いだろう。その方法を探れ。何としても、その強化された魔石を手に入れ、我が軍勢をさらに強大なものとするのだ。」
その場に集まる魔物たちは、静かな緊張感に包まれながら、妖魔王の命令に応じてそれぞれの役割を遂行し始めた。地球への野望はまだ遠い先にあるが、彼の瞳には既に新たな策略の火が宿り、やがて大地を震わせる日が来ることを、誰もが確信していた。