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■52 魔石を売る / 1987年、地球、日本

アンデッドを操る魔人との激闘を終え、零たちは肩で息をしながら、その場に散らばる瓦礫と亡骸の中で一つの不気味な輝きを放つ物を発見した。

それは、黒く輝き、まるで闇の深淵を映し出しているかのような魔石だった。

魔人が手にしていた杖の根元に埋め込まれていたそれは、彼のアンデッド軍勢を支配する力の源であることは明白だった。零がそっと手に取ると、その冷たさが彼の掌を通して伝わり、思わず息を呑んだ。


「これが…あの魔人が使っていた魔石か」零は手の中で転がすように魔石を見つめた。その漆黒の輝きは、どこか呪われたような力強さを持っているように感じられた。「まさに闇そのものだな…」


「この力、どう扱うかが鍵になるわね」麻美が零の隣に立ち、魔石を覗き込んだ。彼女の目には、興味と不安が交錯している。「ただ、何かが引っかかるわ。普通の魔石なら、これほど反応がないのはおかしい。魔人が使っていたものだから、我々には異なる方法が必要なのかもしれないわね」


「まあ、試してみるしかないな」零は腕に巻いたブレスレットに魔石を編み込み、力を集中させた。だが、どれだけ念を込めても、期待していた魔法陣が浮かび上がることはなかった。


「どうなってるんだ?これだけ強力な魔石なら、すぐにでも魔法陣が現れてもおかしくないはずだが…」零は眉間に皺を寄せながら呟いた。


「それなら、これは戦いの道具じゃないのかもな」守田が冷静に言った。「こういう特殊な魔石は、もっと専門的な知識が必要かもしれない。町の商人か研究者に見せてみるのがいいだろう」


その提案に、三人は頷き、近くの町を目指すことにした。



しばらく歩くと、廃墟の大地から一転して、活気に満ちた町が彼らの目の前に広がった。石畳の通りには商人たちが集まり、行き交う冒険者たちが賑やかに話し合い、露店の品々に目を奪われていた。


「この町なら、きっと魔石の価値を知っている者がいるはずだ」零は自信を持って言った。その視線は、町の中心にそびえる豪奢な宝飾店へと向かっていた。


市場の喧騒に包まれた中、三人は特に目を引く煌びやかな宝飾品や魔法具が並ぶ店に足を運んだ。店の入り口には、輝く宝石がいくつも飾られ、その中には珍しい魔石も含まれていた。零がその店の前で立ち止まり、腕のブレスレットを見つめた瞬間、店主が声をかけてきた。


「ようこそ、冒険者様!何かお探しですか?」年季の入った店主が笑顔で迎え入れてくれたが、その目は鋭く光り、ただの商人ではない風格を漂わせていた。


「実はこれを見てもらいたいんだ」零がブレスレットに編み込まれた黒い魔石を差し出すと、店主の表情が一変した。その目は驚愕と興奮が入り混じり、まるで宝物を見つけたかのように輝いた。


「こ、これは…素晴らしい魔石だ…!」店主はその魔石を丁寧に手に取り、細かく観察し始めた。「これほどの魔石…滅多にお目にかかれない…アンデッドを操る魔人のものとは!これは、かなり価値がありますぞ!」


「そんなに珍しいのか?」守田が興味をそそられた様子で問いかけた。


「ええ、この魔石は特別です。アンデッドの力を宿しているため、通常の魔法とは異なる用途に使えるかもしれません。ただ、普通の冒険者がそのまま使うのは非常に難しいでしょう。それに…この魔石は、コレクターや研究者には喉から手が出るほど欲しい代物ですよ」店主は嬉しそうに微笑みながら言った。


「いくらになるんだ?」零が慎重に問いかけた。


店主は魔石をじっと見つめ、しばらく考え込んだ後、ニヤリと笑った。「これなら…銀貨ではなく、金貨でのお支払いになりますね。かなりの額ですよ」


「確かに、魔石は価値が高いが…それほどまでとは」守田も呆然としていたが、店主は真剣な顔で頷いた。すぐに店の奥へ向かい、大きな袋を取り出してきた。


「これが貴方たちの報酬です」店主はその袋をテーブルの上に置き、ゆっくりと口を開いた。中から光り輝く金貨がこぼれ落ち、その音が静かに店内に響いた。金貨の輝きが零たちの目を一瞬で奪った。


「これだけあれば、当分は物資にも困らないわ」麻美も、ようやく緊張をほぐし、微笑みを浮かべた。


「これで次の冒険にも万全の準備ができるな」守田も袋を見ながら満足げに頷いた。


三人は、大量の金貨を袋に詰め終えた後、ゆっくりと店を後にした。それは、これまでの冒険の中で得た最も大きな成果だった。大陸を救ったという誇りと共に、彼らはさらなる試練に備えるための強力な武器を手にしたのだ。


「この金で、次の冒険の準備を万全にしよう。これでどんなことが起きても、対応できるだろう」零は力強く言い、三人は新たな決意を胸に、次なる冒険の舞台へと歩みを進めていった。


これから彼らが直面する困難も、この金貨と共に手に入れた知恵と覚悟で乗り越えていくことだろう。運命はまだ、彼らを試すつもりなのかもしれない。

しかし、今や彼らはただの冒険者ではない。戦いの中で得たものを糧に、さらなる高みへと進んでいく覚悟を固めた、真の戦士となったのだ。



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1987年、日本


経済がバブルの兆しを見せ、活気に満ちた時代が訪れていた。街中には新しいビルが次々と建設され、デパートのショーウィンドウには最新のファッションや電化製品が並び、人々の目を引きつけていた。日本の都市は、煌びやかなネオンの光で満ち、夜になるとそれがまるで星空のように輝いた。



山奥深くにある水晶の採掘場では、冷え込み始めた秋の空気の中、採掘者たちが日々の作業に追われていた。

山の斜面には色とりどりの紅葉が広がり、地面に散らばった枯れ葉が風に舞っている。作業場には古びた工具が並べられ、足元には掘り起こした土が盛り上がっていた。山間の静けさの中、時折聞こえるのは、ツルハシが石に当たる音と、遠くから響く鳥のさえずりだった。


「最近は、いい水晶が出にくくなってきたな…」年配の採掘者が、ツルハシを握りながら呟いた。彼の手は土にまみれ、粗い作業着の袖口もすり切れている。彼の顔には長年の労働が刻まれた深い皺があり、額には汗が滲んでいた。


「確かに、あまり大きなものは出ませんね。でも、掘り続ければそのうち…」若い採掘者が、少し笑いながら答えた。彼は土に覆われたスコップを手にし、軽く肩をすくめた。「今日はなんだか、空気が重い気がしますね。山全体が静かすぎるっていうか…」


「そうだな、変な感じだ。まあ、これも山の気まぐれだろう。」年配の男は、周囲の木々を見渡しながら言った。紅葉した葉が風に揺れる中、その静けさはいつもとどこか違っていた。彼の表情にはわずかな不安が漂っていたが、それを口にすることはなかった。


その時、空気が急に冷たくなり、山全体が一瞬で静寂に包まれた。風が止み、まるで森が息をひそめたかのようだった。何か異様な存在が近づいていることを誰も感じ取ることができず、ただ静かな緊張がその場を支配した。


妖魔王リヴォールが、姿を現すことなく山に降り立っていた。彼の存在は、影と風の狭間に溶け込み、地上の者には決して見えない。彼の目的は、この地に眠る水晶を手に入れることだった。その結晶には、彼が求める強大な力が秘められていた。


「この石は…良いな…これこそ、我が力を増幅させるものだ。」リヴォールの声は、風と共に静かに消えていった。彼の手が無言で宙にかざされると、地中に眠る水晶たちは微かに震え始めた。巨大な結晶が、まるで意思を持つかのようにゆっくりと浮かび上がり、リヴォールの手元へと引き寄せられた。


「おい、あの水晶、動いてないか?」ひとりの採掘者が、不安げに仲間に声をかけた。

「馬鹿な…そんなわけがあるか。ただの見間違いだろう。」年配の男が笑い飛ばそうとしたが、その声には確信がなかった。ふたりは不安にかられながらも作業を続けた。


リヴォールはその場に一切の痕跡を残すことなく、静かに水晶を奪い去っていった。彼の存在は地上の者には知られることなく、ただ水晶が消え去った事実だけが残された。


翌朝、採掘者たちは異変に気づいた。「ここにあったはずの水晶が…消えてる!」若い採掘者が驚愕の声を上げた。「まさか、こんなことが…」

「信じられん」年配の男も混乱しながら地面を掘り返したが、すべては跡形もなく消え去っていた。


彼らは気づくことはなかった。目の前の山に、かつて存在した水晶が何者かの手によって奪われたことを。

風が再び吹き始めたとき、山はただ静かに彼らを見守っていた。



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