表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/391

■48 ヘマタイト /呪縛のミミック /1979年、地球、ブラジル

「ヘマタイトについて聞いたことある?」零が不意に口を開いた。彼の声には、どこか引き込まれるような謎めいた響きが漂っていた。

「ヘマタイト?具体的にどういう石かは知らないわね。」その瞳には、彼女の興味が次第に深まっていくのがはっきりと映し出されていた。


零は静かに微笑みながら、少し声を低くして続けた。「実はね、ヘマタイトには面白い話があるんだ。昔、ある小さな村では、ヘマタイトが持つ不思議な力が信じられていた。特に戦士たちは、この石を身に着けることで精神を安定させ、体力を増強できると信じていたんだ。村では、この石を持つことが一種の誇りだった。」


その言葉に、麻美は息を飲んだ。「戦士たちがヘマタイトをどうやって使っていたの?ただの石なのに、どうしてそんな力を信じられていたの?」


「その村では、戦場に出る前に、戦士たちはヘマタイトを空に掲げて、精神を集中させる儀式を行ったんだ。」零の目が輝き、語る声には一層の熱がこもった。「村の長老が言っていたよ、『この石は大地の力そのものを象徴している。持つ者に冷静さと強さを与える』と。」


麻美はその場の情景を思い浮かべるように目を閉じ、「きっとその力で、戦士たちは勇敢に戦ったのね」と零に向けて呟いた。


「そうだ。そして、その村の中でも特に有名な戦士がいた。彼の名はカリオス。彼は幼い頃からヘマタイトを肌身離さず持ち歩いていた。数多くの戦いを乗り越えてきたカリオスの自信は、いつも揺るぎなかった。彼はこう言っていたんだ、『この石がある限り、俺には恐れるものなどない』と。」


零が語るカリオスの姿に、麻美の想像は一層広がりを見せた。「カリオス…その石を信じて戦い抜いた戦士。彼の強さは、その石にあったのね。」


「そう。そして、ある日、村に強大な敵が押し寄せたんだ。村中が恐怖に包まれる中、カリオスは仲間を集め、静かにヘマタイトを胸に当て、敵を見据えた。『俺たちはこの村を守る』そう叫んだ瞬間、何かが起こった。ヘマタイトが淡い光を放ち始めたんだ。」


麻美はその言葉に吸い込まれるように、「光…ヘマタイトが光ったの?それは一体何だったのかしら?」と身を乗り出した。


「そう、あの光はまるで彼の決意が形を成したかのように、静かにしかし確かに輝いていた。その光を浴びたカリオスは恐れを忘れ、冷静に、そして確信に満ちた声で仲間たちに呼びかけたんだ。『我々の力は、このヘマタイトに宿っている!』と。」


「それで、カリオスはその力を信じて戦い続けたのね?」麻美の目には、カリオスが戦う姿がありありと浮かんでいた。


零は頷き、さらに言葉に熱を込めて続けた。「その戦いは、まさに壮絶だった。敵は圧倒的な力を持っていたが、カリオスはヘマタイトの力で仲間たちを奮い立たせ、次々と敵を打ち倒していった。彼の声に応えるように、戦士たちの士気は高まり、ついには勝利を手にしたんだ。」


麻美はその勝利の瞬間を噛み締めるように、「その勝利は、ヘマタイトの力があったからこそだったのね。村を守り抜いた彼は、まさに伝説の戦士だわ」と感心した声で言った。


零は話の結末を静かに語り始めた。「戦いが終わった後、カリオスはその輝きを取り戻した村に立ち、胸にヘマタイトを抱えた。そしてこう言ったんだ。『この石が導いてくれた。我々の力は大地と共にある』と。以来、ヘマタイトはその村の守護石として称えられ、代々受け継がれていくことになった。」


話が終わると、麻美はその余韻に浸りながら静かに微笑んだ。「零くん、本当に素敵な話ね。ヘマタイトが持つ力は、単なる物質的なものじゃないのね。戦士たちの信念や決意が、この石に宿っていたのかもしれないわ。」


零もまた、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。「そうだ、石そのもの以上に、それを信じる心が力を引き出すんだよ。俺たちも、目の前の困難に立ち向かうとき、信じるものが必要だと思うんだ。」


その言葉は、彼らの胸に深く刻まれた。ヘマタイトの物語は、単なる伝説ではなく、信じる力がもたらす奇跡を象徴していた。そして、その教訓が、これからの彼らの旅にも生かされるだろう。


波が静かに打ち寄せる音が響き、海の向こうに広がる水平線が、次なる冒険の始まりを予感させていた。


----------------------------


呪縛のミミックは、通常の宝箱のように見えるが、内部には不吉な魔力を宿したヘマタイトの魔石が埋め込まれている。

この魔物は、ただ接触した者を攻撃するだけでなく、その拘束力には恐るべき陰謀が隠されている。


表面は古びた木と鉄の装飾で覆われ、長年放置されたかのように錆びついている。しかし、よく見ると、その細部には何か生物の筋肉に似た模様が微かに動いている。開閉する口は獰猛な牙を持ち、舌のように蠢く触手が内部に潜んでいる。これらは魔石によって黒光りし、接触すると磁力で敵を絡め取り、体を圧迫して自由を奪う。


呪縛のミミックは、接触した者を単に拘束するだけではなく、その体内に取り込むことで持っている金属武器や装備を奪い去り、自身の耐久力を高める。ヘマタイトの魔石は強力な磁場を生み出し、接近する敵を引き寄せるほか、戦闘中には敵の動きを鈍らせ、魔力を妨害する波動を放つこともできる。


さらに、呪縛のミミックは触れた者の体から徐々に生命力を吸収し、その力を自分の魔石に蓄積することができる。吸収した生命力は自らの傷を修復するのに使われ、戦闘が長引くほどに強靭な存在へと変貌していく。特に、魔力に頼る冒険者にとって、この吸収の影響は致命的だ。魔力が奪われ、呪縛されると、脱出のための魔法を使うことも難しくなる。



呪縛のミミックはただ単に待ち構えているわけではない。高度な知能を持ち、近づく者を挑発するために内部に黄金や宝石をちらつかせ、時には罠として人間の声を模して助けを求めることさえある。彼らはチームで行動する冒険者の動きを観察し、最も無防備な瞬間を見計らって突然の一撃を見舞う。


彼の攻撃を逃れるためには、まずヘマタイトの魔石が放つ磁力に対抗するか、それを無力化する手段を持つ必要がある。一般的な武器では歯が立たず、魔力による攻撃も吸収されてしまうため、特殊な反磁力の装備や古代の魔法による解除が求められる。

恐怖と伝説


深きダンジョンの探索者たちの間で、呪縛のミミックの存在は語り継がれる恐怖の対象だ。ある者は仲間を目の前で取り込まれ、逃げることすらできなかったと泣き崩れたとされ、またある者はその魔力を解明しようと挑んだが、二度と戻ることはなかったという。その地獄のような戦いを生き延びた者が僅かに語るのは、「呪縛のミミックの心臓部にある赤黒い光を打ち砕け」という言葉だけである。


これに挑む者は、単なる戦闘以上の試練と覚悟を要する。



-------------------------------


1979年、ブラジル。


南米大陸の広大な土地は、熱帯雨林や雄大な山々、そして豊かな文化に彩られた多様性に満ちていた。

この年、ブラジルは政治的混乱や経済的困難に直面しつつも、その中に潜む活気と希望が人々の心に息づいていた。特にアマゾンの大地は、広大な自然が広がり、地元の住民たちが豊かな資源に依存しながら生活を営んでいた。


広大な自然、アマゾンの森林地帯と、豊かな鉱物資源を抱えるこの国では、特に鉱山労働者たちがその経済の一翼を担っていた。

ブラジルの大地の深奥には、数えきれないほどの宝石が眠っており、その中でもオニキスは特別な輝きを放っていた。


ブラジルの中央部、赤土に囲まれたオニキス採掘場では、労働者たちが黙々と作業を続けていた。重いハンマーや古びたピッケルを手に、彼らは汗を流しながら大地の奥深くから宝石を掘り出す。太陽は容赦なく照りつけ、頭上には雲一つない空が広がっていた。

技術の進歩が進む中でも、鉱山労働は依然として過酷で、労働者たちの体力と根気を試すものだった。


「今日もオニキスが採れるといいんだがな」

「最近は少し産出量が減ってきた。だが、あの大きな結晶はきっともうすぐ見つかるだろう」


坑道の中では、労働者たちが土砂を掘り出し、オニキスを探し求めていた。ブラジルの鉱山ではオニキスが豊富に採掘され、その黒く光る美しい石は装飾品としてだけでなく、国内外で高い評価を得ていた。しかし、彼らが知らないのは、この大地に眠るオニキスが異世界の力にも目をつけられているということだった。


坑道の奥深く、巨大なオニキスの結晶が眠る場所があった。その結晶は他の石と比べ、異様な輝きを放っていた。だが、労働者たちはまだその存在に気づいていなかった。彼らが知らない間に、地面の奥で何かが動き出していた。静かな鉱山の中、空気がひんやりと変わり、微かな振動が大地を揺るがせた。


「おい、今の地震か?」

「わからないが、何か変だな」


労働者たちは不安そうに坑道の奥を見つめた。だが、その異変がどこから来るものかを知る者は誰もいなかった。

突然、坑道の最深部、オニキスの結晶が眠る場所に暗い裂け目が現れた。まるで空間そのものが裂けたかのように、そこから現れたのは妖魔王リヴォール――異世界からの闇の支配者だった。


リヴォールの姿は闇そのもので、坑道の中に差し込むわずかな光を一瞬にして飲み込んだ。彼の赤い瞳が、黒々と光るオニキスの結晶を鋭く捉えた。その結晶は、異世界で魔石として利用できる力を秘めていた。


「オニキス…これも利用価値があるな」


リヴォールの冷たい囁きは、坑道の中で響き渡ったが、労働者たちには聞こえることはなかった。彼の姿は、地球の存在とは別次元にあり、誰にもその姿を見られることなく、彼は静かにオニキスに手を伸ばした。


その瞬間、坑道全体が激しく揺れ出し、大地はまるでその力に抗うかのように強く震えた。岩肌が崩れ、地鳴りが轟音を上げて鳴り響く。坑道の中では落盤が起こりかけ、労働者たちは慌てて外へ逃げ出した。


作業員たちは混乱の中で出口を目指して走り出したが、誰もリヴォールの存在には気づかなかった。彼は、労働者たちの悲鳴や足音など意にも介さず、静かにオニキスの力を吸い取っていた。黒く輝く結晶が彼の手の中で脈動し、その力が異次元へと吸い込まれていく。


「この力、向こうで魔石として使える」


リヴォールは冷たい笑みを浮かべ、手の中でオニキスの結晶が粉々に砕けていくのを感じていた。大地の揺れが増し、さらに強い振動が坑道を襲う。だが、彼にとっては些細なことだった。彼の目の前に開かれた異次元の裂け目へと足を進めると、坑道の揺れは次第に収まり、静寂が戻った。


地表では、労働者たちが何とか無事に坑道から逃れ出ていた。皆、地震か落盤だと思い込んでいたが、鉱山の深奥で何が起こっていたのかは、誰も知ることがなかった。彼らにとって、今日の異変はただの自然災害に過ぎなかったのだ。


リヴォールはすでに姿を消していた。彼が手に入れたオニキスは、異世界で魔石として新たな力を発揮することになるだろう。しかし、それを知る者はこの地にはいない。坑道の奥に残されたのは、ただ静かに再び眠りについた鉱山だけだった。


ブラジルの大地は、再び日常の中に戻るが、今日起こった異変は確かに存在した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ