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■38 必要とされれば力を貸そう / 妖魔王、魔石を紛失するw

森での激しい戦いを終えた零たちが町に戻る頃、太陽は高く昇り、暖かな日差しが町全体を包んでいた。戦いの疲れが体に残るものの、魔物の脅威を一時的に取り除いたことで、彼らは安堵と達成感を感じていた。町に足を踏み入れると、待ちわびていたかのように人々が三人を迎えた。


「魔物を退治してくれて本当にありがとう!」若い女性が駆け寄り、涙ぐんだ目で感謝の言葉を述べた。


「あなた方のおかげで、町が救われました…本当に感謝いたします。」町の長老も深々と頭を下げ、感謝の意を伝えた。


町の広場には、人々が集まり、喜びと安堵の表情を浮かべていた。先ほどまでの恐怖に怯えた空気は一変し、暖かく柔らかな雰囲気が漂っていた。周囲には、魔石のブレスレットが輝きながら人々の心を温めているかのように、その美しさが印象的だった。


「これで少しは平和が戻ったかもしれないな。」零は微笑みながら、周囲の人々を見渡した。


「ええ、皆さんがこんなに喜んでくれるなんて、私たちも頑張ってよかったわ。」麻美が穏やかに答えた。彼女の瞳には、町の平和を取り戻した喜びが映っていた。


守田は大きく息を吐き、肩の力を抜いて、「まあ、これが俺たちの仕事だからな。だが、この町の人々の笑顔を見ると、戦いの疲れも吹き飛ぶってもんだ。」と笑みを浮かべた。


その時、広場の隅にいた一人の老人がゆっくりと近づいてきた。彼は杖をつきながら、少し震える手で守田たちに何かを差し出した。それは、小さな袋に入った金貨だった。


「これは、町の皆からの感謝のしるしです。どうか、受け取ってください…私たちにはこれくらいしかできませんが…」


守田はその袋を見つめ、優しく微笑んだ。「ありがとう。でも、俺たちはこれを求めて戦ったわけじゃない。平和を取り戻すことが、俺たちにとって何よりの報酬だ。」


老人はその言葉に深く感謝し、涙をこらえながら再び頭を下げた。「それでも、どうか受け取ってください。私たちの感謝の気持ちですから…」


零が守田に頷き、静かにその袋を受け取った。「ありがたく頂戴するよ。この町の平和を守るために、また何かあれば力を貸そう。」


その夜、零たちは町の酒場で静かに杯を交わしていた。酒場の中は、普段の活気に満ちており、町の人々が楽しげに談笑している。三人は戦いの疲れを癒しながらも、次の冒険への心構えを整え始めていた。


「これで一段落ついたな…でも、まだ終わりじゃないんだろうな。」零は、杯を軽く傾けながら遠くを見つめた。


麻美が頷きながら、「どこかでまた新たな脅威が待っているはず。でも私たちならきっと乗り越えられる。」と静かに言った。


守田は酒を一口飲み干し、満足げに微笑んだ。「その通りだ。俺たちはどんな敵が来ても倒してやる。今日みたいに、助けを必要としている人々のためにな。」


酒場の窓の外では、夜空に星々が輝き、穏やかな風が吹いていた。零たちはこの町に再び平和が戻ったことに安堵しながらも、次に待ち受ける冒険に向けて心を引き締めていた。


「俺たちはまだまだ旅を続ける。この世界のどこであっても必要とされれば力を貸そう。」零は静かに決意を固め、杯を高く掲げた。


「次の戦いに向けて、乾杯だ。」守田も同じく杯を掲げ、麻美も微笑みながらそれに続いた。


三人の杯が静かに触れ合い、その音が酒場の温かい空気に溶け込んでいった。夜は更け、彼らの冒険はまだまだ続くことを告げていたが、今この瞬間だけは、平和な夜を心から楽しむことができた。




魔石シンクロレベル

零 78

麻美 51

守田 48



----------------------------

深夜の大空は、黒い絹のように広がり、無数の星々が瞬く中、一点の曇りもないはずだった。だが、妖魔王リヴォールの胸の内には、異様な焦燥が広がり始めていた。彼の目は冷たい夜風に鋭く光り、重厚な黒のローブが風に揺れる。彼は孤高の存在だった。力を持ち、威厳を保ち続け、何者にも屈することはない。そのはずだった。


それなのに、今、その冷徹な表情がわずかに乱れた。


「まさか…」

リヴォールは低く囁いた。声は鋭利で、冷気を孕んでいた。目を細め、手のひらを自分の腰元に当てたが、そこにはあるべき物がなかった。漆黒の石——オニキス。地球から持ち帰った、特別な魔力を秘めた宝石。それが、今、どこにも見当たらないのだ。


脳裏をかすめるのは、あの瞬間。地球から奪取し、異世界に持ち帰る際、ほんの一瞬、力を使いすぎた感覚があった。だが、オニキスが失われたなどと考えることはなかった。今、その代償を払わされるのか。


「どうして…失くすはずがない…」

風が彼の呟きを運び去り、漆黒の夜に溶け込んでいく。だが、リヴォールの中で次第に焦りが膨れ上がるのを抑えられなかった。彼の全身に暗い闇がまとわりつくように、彼の魔力がざわつき始めた。


リヴォールはすぐに行動に移った。長い指が空に向けられると、その周囲に漆黒の魔法陣が浮かび上がる。探知魔法——オニキスを探し出すための術。彼の指先から放たれる魔力は、闇を裂くように広がり、辺り一帯を覆う。しかし、返ってくるのは虚無。暗黒の中、魔石の気配はどこにも感じられなかった。


「くっ…」

歯を食いしばりながら、リヴォールは再び魔力を集中させる。空気が軋むような音を立て、魔法の力が再び放たれる。彼の額には汗が滲み、眉間に深い皺が刻まれた。普段の冷静さは影を潜め、その瞳には焦燥と苛立ちが交錯する。


「逃げられるはずがない。オニキスよ、応えよ…!」

暗闇に向かって叫び声を上げたその瞬間、漆黒の魔力が再び強く輝き、周囲の風景が歪み始めた。木々の影はねじれ、月光はぼんやりとした光を放つ。魔力の波動が、次第に広がりを見せる中で、リヴォールはさらに深く集中した。全身の力を一つにまとめ、ただ一つの目標——オニキスを探し出すことだけに焦点を絞り込む。


その時、彼の視界の端で、かすかに光るものがあった。ほんの一瞬、見逃しそうになるほど微かな輝き。それでも、リヴォールはその気配を逃さなかった。


「そこか…」

彼は低く囁き、今度は静かに手を前に伸ばした。彼の手のひらから、再び魔法陣が広がり、探知の波が一層鋭く放たれる。すると、その輝きは徐々に明確になり、地面の遥か遠くでぼんやりと光る小さな影を映し出した。


オニキスだ——間違いない。


リヴォールの唇が薄く笑みを浮かべたが、その目には今なお緊張の色が消えない。失くしてしまった事実が彼の中で大きな屈辱となっていたのだ。あの輝きがどれほどの価値を持つか、彼には痛いほどわかっていた。それを、たとえ一瞬でも見失ったという事実が彼を苛立たせる。


「二度と、このような失態は…!」

声は低く、怒りと共に震えていた。彼は躊躇なくその場へ瞬間移動を使い、次の瞬間にはオニキスの目の前に立っていた。手を伸ばし、その冷たい黒い石を握りしめる。手の中に収まった瞬間、魔力が再び彼の体に流れ込んでくる感覚があった。


オニキスは冷たく、まるで彼の心を映し出すかのようだった。闇の底から這い上がってくるような力を感じながら、リヴォールは再び冷徹な表情を取り戻した。



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