宿命の光と影
宿命の光と影
その夜、戦場の余韻が静かに大地に染み渡る中、バルは一人、丘の上に立っていた。風が夜露を運び、彼の髪を優しく揺らす。周囲は月の光に照らされ、戦の喧騒はまるで夢だったかのように遠のいていた。だが、その静寂の中にこそ、彼の胸に深く根差した孤独と苦悩が潜んでいた。
バルは双剣を見下ろし、ローズクォーツが淡く輝く様子に目を凝らした。その石は戦の終焉をもたらす力を持っていたが、同時に持ち主の心をも映し出してしまう。バルはその光が、自分の中にあるものを知っていた。それは戦士としての誇りと後悔、そして心の奥底に眠る愛と赦しを求める切実な渇望だった。
「バル様…」背後から静かな声が響いた。振り向くと、見知らぬ若い兵士が立っていた。顔には疲労と共に畏敬の念が漂っている。彼は深々と頭を下げ、続けた。「今日の戦で、命を救われました。私たちはあなたに感謝しています。しかし、なぜそのような力を持ちながら、一人で戦うのでしょうか?」
その問いは、バルの胸に鋭く響いた。戦場に立ち続ける彼の姿を見た者は多いが、誰もその心に踏み込むことはなかった。ローズクォーツの光が揺らぎ、彼の心中を映し出すように輝きを増した。彼は短く息をつき、少しだけ目を細めて答えた。
「私は、この光を持つがゆえに戦を終わらせるためにここにいる。だが、その代わり、私はこの力に囚われているのかもしれない。人の心を浄化する光は、同時に私の心をも浄化し続ける。だがそれは、時に重荷となることもあるんだ。」
兵士はその言葉を聞き、理解したかのように目を伏せた。彼もまた、戦場で見た光景に心を動かされた一人であり、その場にいる理由を探していた。しかしバルの言葉には、それを超えた覚悟と孤独が刻まれていた。
風が再び吹き、二人の間に流れる沈黙を包み込む。月明かりがローズクォーツを照らし、その光がバルの顔に映り込むと、その目には一瞬だけ苦悩が影を落とした。