砂の影、静寂の訪れ
砂の影、静寂の訪れ
灼熱の太陽が天高く輝き、広大な砂漠は無限の金色の海と化していた。旅人たちが足を踏み入れると、その熱気が皮膚を焼き付け、まるで砂自体が息をしているかのように微細に動いた。砂漠は、生きている――その言葉を信じたくなるほどに。そして、そこに潜むものの気配を知る者は少なかった。
旅人のひとり、カリムは老練の冒険者で、砂漠の荒野を越える者としてその名を知られていた。彼は、まだ見ぬ遺跡を探し求めていたが、その道中、幾度も砂嵐に遭遇し、危険を乗り越えてきた。ある日、異常なほど静かな風が吹き始めた。まるで自然が何かを警告するかのように――砂の動きは一瞬にして止まり、無音の中に飲み込まれた。
「何だ…この不気味な沈黙は…」
カリムの声は、遠くの砂丘に反響しながら消えた。すると、地平線の彼方で砂が踊り始め、次第に大きな渦を描いていく。黄金の砂粒が舞い上がり、巻き上がる度に微かに緑の輝きが見え隠れした。その光は、旅人たちが恐れた影獣、ラジューラのものだった。
ラジューラの姿は風と砂が一体となり、形を定めることなく変幻自在に揺らめいた。その中心にはモルダバイトが核として浮かび、光を放ちながら魔力を吸い上げていた。その石が脈打つたび、砂漠はうねり、周囲の空気がひやりと冷たくなった。
「逃げるんだ!」カリムが叫び、旅人たちは散り散りに走り出した。だが、砂の中で逃げ道を見つけるのは容易ではない。ラジューラはただ砂嵐として存在し、近づくものすべてを飲み込みながら追い詰める。その動きには意志があり、古の知恵が込められているようにも見えた。
旅人の一人が足をとられ、砂の中に沈み込む。彼の目が絶望で見開かれたその瞬間、ラジューラの核から放たれた光が空を裂いた。旅人たちは見たこともない風景に包まれ、意識が闇に沈んでいった。