村人の一人が冷ややかな目で
フェルディナンドを見つめ、声を上げた。「この霧の森は私たちにとって聖なる場所だ。薬草に触れようとする者がいれば、ただでは済まさない」
その言葉にミブルが動揺し、フェルディナンドを見やったが、彼は冷静に村人たちに語りかけ続けた。「私たちはこの薬草の価値を理解している。そして、それを冒涜する気持ちはまったくない。むしろ、あなたたちの生活に役立つ形でこの薬草を共有できればと考えている」
村人たちの視線がわずかに緩んだが、それでも警戒の色を隠さない。フェルディナンドは続けた。「私たちの仲間には、こういった薬草をさらに有効に加工する技術を持つ者がいる。その知識をあなたたちにも共有し、薬草の効果をより高めて使えるようになるかもしれない。そうすれば、ここでの生活も少しは楽になるだろう」
その瞬間、村人の一人が低い声で呟いた。「私たちの生活が楽になるだと…?」
フェルディナンドはうなずき、「そのためには、まず私たちに少量だけこの薬草を分けてもらえないだろうか?」と続けた。彼の表情には誠意がこもっていたが、同時に確かな交渉の余地も感じさせるものだった。
長い沈黙が場を支配する中、村人たちの間でひそひそとした声が交わされ始めた。やがて、一人の年長者がゆっくりと前に出てきて、フェルディナンドをじっと見つめた。「お前たちが誠実であるなら、この薬草の価値を知っているはずだ。それをどう扱うか、我々にも示してもらいたい」
その言葉に、フェルディナンドはわずかに笑みを浮かべ、丁寧に礼をして応えた。「もちろんだ。私たちは、あなた方の信頼を裏切らないと約束する」
こうして彼らは、村人たちとの交渉を成立させ、少量の薬草を譲り受けることに成功した。村の人々の誇りを傷つけず、薬草の価値を尊重したフェルディナンドの交渉術が、彼らの信頼を勝ち得たのだ。
帰路に着くフェルディナンドの表情は安堵に満ちていたが、その裏には冷静な計算もあった。この薬草をどのように加工し、より高値で売り出すか──それは、また新たな戦略の始まりだった。