霧の森での交渉
霧が立ち込める深い森に、薄明かりがほのかに差し込む中、フェルディナンドたちは緊張した表情で歩みを進めていた。森の静けさの中で彼らの足音がやけに響き、どこからともなく鳥の声がかすかに聞こえる。そのとき、フェルディナンドの目が細まり、足を止めた。
「ここだ。霧の森の中でも、ここは特に希少な薬草が生える場所だと言われている」
彼の視線の先には、霧の中に隠れるようにしてわずかに緑色の葉が覗いていた。風に揺れるその小さな葉は、ひっそりと美しい光沢を放ち、他の草木とは一線を画していた。ミブルがその薬草に近づき、手を伸ばした瞬間、フェルディナンドが手を挙げて制した。
「待て、慎重にだ。ここではその薬草が村人たちの間で神聖視されているらしい。下手に手を出せば、命の保障はない」
彼の言葉に、ミブルは驚いた表情で手を引っ込めた。「そんなに貴重なものなのか?」
「貴重どころか、この薬草は治癒力が抜きん出ている。ここまでの治療効果を持つ植物は他に類を見ないらしい。だが、同時に彼らの生活に根ざしたものだ。だからこそ、手荒に扱うわけにはいかないんだ」
その時、不意に森の奥から複数の足音が近づいてきた。霧の中から姿を現したのは、この地に暮らす村人たちだった。彼らはフェルディナンドたちの周囲に立ちはだかり、その目には警戒と敵意が宿っていた。彼らは低い声で何かを呟き、まるでフェルディナンドたちが立ち去るのを待っているかのようだった。
フェルディナンドは一歩前に出て、穏やかな表情で村人たちに向き合った。「私たちはこの森を荒らしに来たわけではない。どうか話をさせてほしい」