ダリオの内側に冷たい波が
押し寄せる。「ブラックオニキス」を手にしてからというもの、石が放つ異様な力が彼の体を巡り始めていた。脈動する感覚はまるで生きたもののように、彼の中で息づいている。石は、彼の心臓の鼓動と共鳴し、体中を冷たくしびれさせていた。息を吸い込むたび、微かに胸の内が凍るような感覚がし、彼は自分が「変わりつつある」のを感じていた。
やがて、周囲の光景がぼんやりと霞み始めた。黒市の冷たい闇が一層深くなり、目に映るもの全てが重い霧に包まれたようにぼやけている。まるで石が放つ力が、彼の視界さえも支配し始めたかのようだった。彼の耳には、かすかに誰かの囁き声が聞こえてくる。それは不気味で、しかしどこか懐かしささえ感じさせる低い声で、彼の意識の奥底に語りかけていた。
「さあ、力を解放するのだ。お前が望んだものは手に入れたはずだろう?」
その声に、ダリオは無意識に頷きそうになる。だが同時に、自分が何かとてつもなく危険なものを手に入れてしまったという感覚が胸に広がる。それでも、彼の手は石を離すことを拒み、冷たく輝くその石を握りしめたまま立ち尽くしていた。体の内側から生まれる闇が、ゆっくりと彼の意識を飲み込もうとしている。
視界が完全に暗転し、静寂が訪れる。その中で、ダリオは微かに誰かの気配を感じた。それは、かつて裏切られた仲間の影や、自分が倒してきた数々の敵の面影だった。彼らが闇の中から浮かび上がり、彼の前に立ち現れたかのように感じられる。まるで全てが「ブラックオニキス」の中に封じられた魂が引き寄せられているかのようだった。