すると、不意に石の中から
微かな囁き声が聞こえた。それは彼の耳に直接届くものではなく、心の奥に語りかけるような静かな声で、彼を魅了し、同時に不安をかき立てた。声は淡々と、しかし力強く、彼に何かを問いかけている。
「お前は本当にこの力を望むのか?その代償を払う覚悟があるのか?」
ダリオはその問いに戸惑いを覚えた。彼はこの石を手に入れるために全てを賭けてきたが、いざその力を前にすると、胸の内にかすかな躊躇が芽生えていることに気づいた。彼の手に握られた「ブラックオニキス」が、まるで生きているかのように脈動し、その冷たさが次第に彼の心臓の鼓動に合わせて共鳴していく。
「…望んでいるさ。俺には、過去を清算する理由がある」ダリオは低く呟き、覚悟を決めるように石を強く握り締めた。その瞬間、石が激しく光を放ち、まるで彼の意思に応えるかのように燃え上がる。
しかし、その光の奥からは何か禍々しい気配が漂い出し、彼の意識が揺らぎ始めた。まるで深い闇の中に引き込まれるような感覚が押し寄せ、彼の視界は次第に霞んでいく。彼の脳裏には、これまでの過去の記憶や裏切り、復讐の念が次々と浮かび上がり、それらが全てこの石の冷たい光に呑まれ、消え去っていくかのように感じられた。
その時、彼の中で、何かが確実に変わった。手の中の石が生き物のように冷たく震え、彼の血の中に冷たい流れが流れ込んでくる感覚がある。彼はそれを受け入れるべきか、拒むべきかを迷ったが、その時には既に遅かった。石の力は彼の内に根を張り、彼の体と心を支配し始めていた。