お前が何を考えていようが関係ない。
ここにいる限り、全ては敵だ。それだけだ」彼の言葉には、過去の記憶を振り払うかのような冷淡さが含まれていた。かつての仲間、友情、そんなものはもう今の彼には無意味な言葉でしかない。黒市の暗い霧の中で、彼の存在そのものが冷たい闇と化していた。
ラウラはその言葉に、何かを悟ったかのようにわずかに眉を動かし、少しだけ苦笑を浮かべた。「そう…そうよね。ここは生き残るための場所だものね」彼女はその場に膝をつき、力なくダリオを見上げた。その眼差しには、かつての彼女が持っていた生き生きとした光がどこか残っているようだったが、今はそれも過去のものに過ぎない。
一瞬の沈黙が場を支配し、ダリオはその場を立ち去ろうと振り返った。しかし、その瞬間、遠くで再び「ブラックオニキス」を巡る冒険者たちの激しい争奪戦が目に入った。石を握りしめ、互いに喉をかき切ろうとする冒険者たちの姿は、まるで狂気の舞台のようだった。
ダリオはその光景を冷静に見つめ、彼らの中に自分を見ているような感覚に囚われた。あの石が持つ魅力が、人々の内にある欲望や憎悪、過去の苦しみを炙り出し、狂わせていく。彼自身もその一人であり、「ブラックオニキス」に全てを賭けた狂気の中にいることを理解していた。