その時、背後から鋭い声が聞こえた
「おい、ダリオ。油断するな。奴らはすぐにでも動き出すぞ」振り向いた先には、再び姿を現したレイラードの冷ややかな目が光っていた。彼は先ほどの戦いの傷を引きずりながらも、なおも「ブラックオニキス」への執着を隠そうとせず、その瞳には深い恨みと未練が宿っている。
「お前はまだ諦めていないのか、レイラード?」ダリオが問いかけると、レイラードは薄い笑みを浮かべながら首を横に振った。
「諦める?そんな選択肢が俺にあると思うか?俺はこの黒市で…何もかもを失った。だからこそ、この石を手に入れることだけが俺の救いなんだ」レイラードの声には冷徹な決意が宿っており、その言葉がダリオの胸に重く響いた。
ダリオは彼の言葉に一瞬心が揺れたが、すぐにその感情を押し殺し、冷静さを取り戻した。「分かったよ。だが、お前が石を手に入れられる保証はどこにもない。俺も命を懸けてここにいる。それを忘れるな」と返すと、二人は互いに短い頷きを交わし、再び闇の中へと姿を消した。
その時、黒市の中心部に、再び「ブラックオニキス」を掲げた「コブラの一派」の男が現れた。彼の手には黒い石が輝きを放ち、その眩さが一瞬、周囲の霧をも照らし出す。男はゆっくりと周囲を見渡し、冷たい声で言い放った。
「さあ、賭けの時間だ。命を賭けて、この石を奪い合う覚悟がある者だけがここに残れ。残れない者は今すぐに立ち去れ」その冷酷な言葉に、冒険者たちの目は一層鋭さを増し、誰一人として引き下がる様子はなかった。全員が命を賭け、この場に残る覚悟をしていたのだ。
ダリオもまた、男の言葉に背筋を伸ばし、冷たく固い地面に立ち尽くした。彼の目には、不退転の決意が浮かび、過去を乗り越えるためにこの一瞬の勝負に挑もうとしていた。彼にとってこの黒市での争奪戦は単なる取引ではなく、己の存在を証明するための戦いであり、そのためならば命すら惜しまない覚悟があった。