そして、ダリオは一瞬の隙を突いて
遂に「ブラックオニキス」を掲げる男の近くに接近することができた。しかし、まさに手を伸ばそうとしたその瞬間、彼の前に現れたのはレイラードだった。
「ここまで来たのは俺が先だ、ダリオ。残念だったな」レイラードは不敵な笑みを浮かべ、冷ややかな目でダリオを見下ろした。だがダリオも怯むことなく、彼に挑むように鋭い視線を返す。二人の間には火花が散るような緊迫感が漂い、誰もが息を飲んでその場面を見守っていた。
「裏切るつもりか、レイラード?」ダリオが静かに問いかけると、レイラードは一瞬だけ目を細めた。
「裏切り…それはお互い様だろう?」彼はそう答えると、次の瞬間、手にした刃をダリオに向けて突き出した。二人は互いの腕を絡め合い、取引の場を超えて個人的な戦いへと突入した。二人の動きは一瞬たりとも止まらず、まるで二匹の獣が死闘を繰り広げるかのように、命を懸けた激しい争奪戦が続いた。
やがて、ダリオはその戦いの中で気づいた。レイラードの目には、ただの欲望や冷血なまでの野心が宿っているのではなく、深い憎悪と孤独が染み付いていたのだ。彼もまた、何かを背負い、この黒市に挑んできたのだということが感じ取れた。しかし、そのことに気づいたとしても、この場で譲るわけにはいかない。
戦いの末、ダリオは一瞬の隙を見逃さず、レイラードの防御を崩し、彼の刃をはじき飛ばした。レイラードは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに微笑みを浮かべると、静かにその場から身を引いた。「お前には敵わなかったようだな、ダリオ。だが、これで終わったわけではない」
そう呟くと、レイラードは煙のように闇に紛れて姿を消した。その背中を見送るダリオは、再び「ブラックオニキス」を求めて取引の中心に目を向けた。だが、その石を手にするためにはまだ多くの障害が待ち受けていた。
黒市の争奪戦は、未だ終わらぬまま、闇の中で血と欲望が咲き乱れる。その場に響くのは、断末魔の叫びと、闇を引き裂く刃の音だけで、冷たく湿った霧が全てを包み込み、どこまでも深く、その光景を覆い隠していた。