表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/391

■19 焼き肉定食 / ホウセキ?パワスト?

零たちは静かに薄暗い路地裏に足を踏み入れた。

大通りの賑わいとは打って変わり、ここには静寂と古びた建物がひしめいている。時間が止まったかのように、ひっそりとした街角には歴史の重みを感じさせる店が並び、まるで過去の物語を語りかけているかのようだった。


その中でも目を引いたのは、くすんだ木製の看板に「味自慢」と赤字で書かれた一軒の飲食店。年季の入った外観や傾いた扉、薄汚れた窓越しに漏れる温かな光は、一見何の変哲もない場所に見えるが、漂ってくる香りには不思議な魅力があった。その香りは、まるで心の奥に眠っていた思い出を呼び起こすようだった。


「ここ、どうだ?」零が麻美と守田に問いかけながら、店の方を指差すと、麻美は少し戸惑いながらも微笑みを浮かべた。「見た目は古いけど、悪くない香りがするわね。試してみてもいいかも」と言い、守田も鼻を鳴らして「確かに、自信がありそうだな」と言いながら、期待を胸に足を進めた。


扉を開けると、思いのほか温かみのある空間が広がっていた。木製のテーブルが並び、壁には色褪せた絵画が飾られ、少し暗めの照明が店内を包み込んでいる。控えめな明かりが逆に落ち着いた雰囲気を作り出し、心がほっと安らぐ居心地の良さを感じた。


「いらっしゃい!」カウンターの向こうで年配の店主が元気に声を上げた。「好きな席に座ってくれ!すぐに準備するからな!」その声には、温かい人柄がにじみ出ており、どこか安心感を覚えさせるものがあった。


三人は店の奥の席に腰を下ろし、古びたメニューを手に取った。手書きの文字が滲んでいるが、それがこの店の歴史を感じさせ、懐かしさを覚える。「特製スープ」や「焼き肉定食」などシンプルなメニューが並んでいるが、その一つ一つには不思議な引力があった。


「やっぱり、『特製スープ』が気になるな」と零がメニューを見つめながら言うと、麻美はそのスープの香りに引かれた様子で「私もそれにしようかしら」と笑顔を見せた。守田はメニューをパッと見渡し、「俺は『焼き肉定食』にする。腹が減ってるからな」と、力強い決意で注文を決めた。


店主が注文を取りに来ると、「お前たち、最高の選択をしたな!」と笑いながら言い、手際よく調理に取り掛かった。その瞬間、料理を待つ期待感が店内を包み込み、三人の心も高鳴った。


調理が進むにつれ、肉が焼ける音やダシの香りが店内を満たし、食欲をさらに掻き立てていく。麻美はその香りに微笑み、守田は軽く鼻を鳴らして満足そうに頷いた。


やがて運ばれてきた料理は、期待を裏切らなかった。零の前に置かれた「特製スープ」は、大きな器にたっぷりと注がれ、豊かな香りが漂っていた。守田の「焼き肉定食」は、ジュージューと音を立て、見るからにジューシーで美味しそうな肉が目の前に広がっていた。


「これは…すごいな」と零はスプーンを手に取り、スープを一口飲むと、その深い味わいに驚き、体の芯まで温かさが広がるのを感じた。「なんだ、このスープ…めちゃくちゃ美味い!」彼は感嘆の声を上げ、麻美も驚いた表情で「本当に優しい味わいね。こんなに深みがあるとは思わなかった」と感動していた。


守田もまた、焼き肉を口に運び、「これは…ジューシーだ!こんな肉、久しぶりに食べた」と満足げに笑った。三人は、久々に心から満足できる食事を楽しみながら、それぞれの料理を堪能した。素朴でありながら、心に残る味わいが、彼らの疲れた体と心を癒していった。


「こういう食事って、本当にありがたいよな」と零は言いながら、最後のスープを飲み干した。麻美も「この温かさが、次の冒険へのエネルギーになるわね」と微笑み、心の底からその瞬間を楽しんでいるようだった。



-------------------------------


零は異世界の街を歩きながら、どこか違和感を覚えていた。


目に映る人々の装いはどこか素朴で、特に目を引いたのは誰も宝石のような装飾品を身に着けていないことだった。地球では当たり前のように見かける宝石やパワーストーンが、この世界にはまるで存在しないかのようだ。零はその不自然さに疑問を感じ、宿の主人に尋ねることにした。


「ねえ、この辺りじゃ、宝石とか、パワーストーンみたいなものは見かけないけど、そういうものってないのか?」


零がそう問いかけると、宿の主人は少し驚いたような顔をしてから答えた。


「ホウセキ?パワスト?そんなもの、見たことも聞いたこともないよ。採掘で出てくる鉱石もただの面白みのない石ばかりだし、輝きなんてまったくない。お前さんが言うような美しい石なんて存在しないさ。」


零はその答えに戸惑いを覚えた。地球では宝石がどれだけの価値を持ち、人々が装飾として身につけたり、パワーストーンとして特別な意味を込めて使っていたことを思い出す。この世界では、そのようなものが存在しないという事実が信じられなかった。


宿の主人は続けて話し始めた。

「魔石っていう特別な石はあるで。強い魔物が持っている石で、魔力を秘めていると言われてる。けど、それは普通の石じゃない。魔石を手に入れるには、強力な魔物を倒す必要があるんだ。弱い魔物からはそんなもの出てこない。」






読者への暗号→【め】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ