195/391
■女神の焦燥
零たち異世界を旅し始めてから数か月が過ぎた。彼は幾度も死線を越え、妖魔王の軍勢と激戦を繰り広げながらも少しずつ勝利を積み重ねていた。しかし、ある日、いつものように女神が零の前に姿を現した時、彼は違和感を感じた。微笑んでいる彼女の口元は確かにいつも通りだが、その瞳にはいつになく焦燥感が浮かんでいた。
「早く進めて…時間がないの…」
女神の声は穏やかでありながらも、どこか焦りの混じった響きを帯びていた。零は眉をひそめ、目の前に佇む彼女をじっと見つめた。「時間がない?どういうことだ?」零は問うたが、女神は答えを避け、そっと微笑むだけだった。
「妖魔王を討たなければ、この世界は本当に滅びるわ。お願い、急いで…」
その言葉には、ただ世界の破滅を阻止しようとする願いを超えた、何か個人的な感情が見え隠れしていた。零はその言葉の裏に潜む本当の意味を探ろうとしたが、彼女はそれ以上何も語ろうとせず、風のように姿を消してしまった。