■168
零たちは触手の包囲から逃れようと必死に動き回ったが、触手の動きは速く、彼らの逃げ道を次々と塞いでいった。麻美は風の魔法を使って触手を吹き飛ばそうと試みたが、触手はその強風にも抗うようにさらに絡みつき、彼女の体に近づいてきた。焦りと恐怖が彼女の胸を打ち、全身が震え始めた。
「どうすれば…」麻美は呟いたが、すぐに頭を振り、諦めの感情を振り払った。「私たちは負けるわけにはいかない…」彼女は再び手をかざし、風を呼び起こした。「風よ、私にさらなる力を…この絶望を打ち破れ!」
その叫びと共に、麻美の放った風の刃が一気に強力な渦となり、触手を切り裂こうとした。しかし、触手は一瞬怯んだだけで、再び彼女に向かって蠢き続けた。
「このままじゃ…まずい!」麻美は息を切らしながらも、必死で後退し続けた。
守田もまた、次々と迫り来る触手に対応するため、力を振り絞っていた。彼の拳は何度も触手に叩きつけられ、衝撃音が大地に響き渡るが、その強化された力ですら、触手は完全に制御することができなかった。次々と新たな触手が彼に向かって伸び、その鋭い動きが彼の体を追い詰めていた。
「くそっ…この触手、いくら叩き潰しても無限に出てくるのか…!」守田は苛立ちを隠せなかったが、それでもその拳に込める力を緩めることはなかった。「だが、絶対に諦めない…!」
その時、零は触手に絡まれそうな麻美を見て、心臓が凍りつくような感覚に襲われた。「麻美、危ない!」彼は彼女の元へ向かおうとしたが、すでに自分の周囲にも触手が絡みつこうとしていた。
「くそっ…!」零は焦りながらも、必死で炎の剣を振り回し、触手を燃やし尽くそうとした。しかし、その触手はまるで生き物のように絡みつき、炎が届く前に次々と逃げ回った。
その瞬間、零はあることに気づいた。巨神の動きが触手と連動していることに気づいたのだ。触手が蠢くたびに、巨神の胸部が微かに光を放っているのが見えた。その光はまるで脈動しているかのようで、そこが巨神の力の源になっていることを示していた。
「これだ…!」零は気づいた。「巨神の弱点は胸だ…!」
「守田、麻美!あいつの胸部を狙え!そこが奴の弱点だ!」零は全力で叫び、仲間たちに指示を送った。
守田はその言葉を聞くと、すぐに巨神の胸部に狙いを定めた。「よし…いけるかもしれない!」彼は拳を再び握りしめ、全身に力を集めた。「強化の力よ…俺に力を与え、奴の心臓を打ち砕け!」
守田の拳が再び大地を叩き、巨大な力が発せられた。その衝撃波が巨神の体を揺らし、触手が一瞬動きを止めた。
「今だ、麻美!」零が叫ぶと、麻美はすぐに手をかざし、風の力を全力で解き放った。「風よ、我にさらなる力を与え、この巨神の命を奪え!」
風の刃が放たれ、巨神の胸部に向かって一直線に飛んでいった。その瞬間、巨神の体が再び光を放ち、その光は一瞬にして消えた。触手が崩れ落ち、巨神の動きが鈍り始めた。
「効いてる…!」零はその変化に気づき、再び剣を握りしめた。「これで終わりだ…!」彼は全力で巨神に向かって突進し、剣を振り下ろした。「炎よ、我が意志に応え、この巨神を焼き尽くせ!」
零の剣が巨神の胸部に突き刺さり、激しい炎がその体を包み込んだ。巨神の体は激しく揺れ、その咆哮が谷全体に響き渡った。零は全身の力を込めて剣を押し込み、炎が巨神の体内に広がっていくのを感じた。
そして、巨神の体が徐々に崩れ落ち、ついにその巨大な姿が完全に消滅した。触手もまた、塵となって風に散り、谷全体が静寂に包まれた。
零、麻美、守田は、疲労困憊しながらも勝利の実感を味わっていた。彼らは互いに顔を見合わせ、確かに生き延びたことを確認し合った。
「やった…本当にやったんだ…」麻美は息を切らしながら呟いた。彼女の目には、涙が浮かんでいた。