■166
彼らの身体が光の中で揺らめくと、周囲の風景もまた変わり始めた。
巨人の破壊がもたらした衝撃は、ただ大地に傷跡を残しただけではなかった。
その瞬間、遠くの地平線の向こうから新たな脅威の存在が感じられた。
「終わった…と思っていたのに」零は額の汗を拭い、疲れた体を引きずるように立ち上がった。
「何かが…近づいてくる?」麻美が風の感覚を通じて、遠くから押し寄せる異様な力を察知した。
「今度は一体…何なんだ?」守田が拳を握りしめ、準備を整え始めた。
地平線の向こうからゆっくりと迫り来る地鳴りが、彼らの心臓にまで響くほど強烈な振動をもたらしていた。
零、麻美、守田は互いに目を合わせ、不安と緊張が交錯する中、次に待ち受ける脅威の正体を掴もうとしていた。
「何だ、これは…?」零が小さく呟きながら剣を握りしめ、足元の振動を感じ取った。
地響きはますます大きくなり、その振動はまるで大地そのものが生き物として脈打っているかのようだった。まさに大自然そのものが、怒り狂っているように感じられる。
突然、遥か彼方の暗闇の中から、不気味な光がちらりと見えた。
その光は、まるで炎が渦巻くように点滅し、瞬間的に爆発するかのごとく激しく輝いたかと思うと、再び闇に溶け込んだ。
次の瞬間、零たちの目の前の地面が大きく裂け、大地がまるで自らの意思を持ったかのように揺れ動き始めた。
「何が来るんだ…?」守田が拳を強く握りしめ、闇の向こうを睨みつけた。
その視線の先で、大地そのものが割れて崩壊し、まるで何か巨大な存在が地面から這い出ようとしているかのようだった。
石と岩が崩れ落ちる音が、空を震わせるほどの轟音となって響き渡る。
「零、気をつけて…何かが出てくる!」麻美が冷たい汗を感じながら、風の感覚で周囲の異常な変化を捉えていた。彼女の心は焦りと恐怖に満ちていたが、それでも仲間と共に立ち向かう覚悟を決めていた。
そしてついに、闇の中からその姿が現れた。
まず見えたのは、巨大な触手だった。
それはまるで地獄から伸びる異形の腕のようで、岩を砕きながらゆっくりと持ち上がっていった。その触手は無数に枝分かれし、まるで大地を覆い尽くすかのように広がっていく。
その動きはゆっくりと、しかし確実に、彼らを包囲しようとしていた。
「なんだ、あれは…?」零が驚愕の表情を浮かべながら後ずさりした。
次第にその全体像が明らかになるにつれ、彼の胸に冷たい恐怖が広がっていく。
触手に続いて、巨大な体躯が姿を現した。
その体は、まるで岩そのものが形を成しているかのように荒々しく、無数の鋭い棘と突起で覆われていた。体の表面には炎のような光が脈打ち、その巨大な目は、まるで灼熱のマグマが燃え盛っているかのように赤く輝いていた。
その目が零たちを捉えた瞬間、冷たい恐怖が彼らの背筋を駆け抜けた。
「こんなの、見たことない…まさか、大地そのものが…」麻美が言葉を失い、震える声で呟いた。その目の前で動いているのは、まるで大地そのものが意思を持ち、具現化したような存在だった。
まさに自然の力が怒りを具現化した魔物、その名を『大地の巨神』
「これが…地元の人たちがたまに言ってた大地の巨神か!」守田が驚愕の表情を浮かべながら叫んだ。「おとぎ話じゃなかったのかよ、こんな奴が本当に存在するなんて…!」
零はその巨大な魔物を睨みつけながら、剣を握り直した。「どれだけ強大な敵でも、俺たちには倒す義務がある…!」
だが、大地の巨神は彼らの決意を嘲笑うかのように動き始めた。
巨神の足が大地を踏みつけるたびに、地面が砕け、彼らの足元に亀裂が広がっていく。
触手はまるで生き物のように蠢き、空気を引き裂く音を立てながら襲いかかってきた。
「来るぞ!」零が叫び、剣を振り上げた。剣先が炎を纏い、その一撃で迫り来る触手を斬り裂いた。しかし、斬られた触手はすぐに再生し、再び彼らに向かって襲いかかってきた。
「何て奴だ…まるで無限に再生してるじゃないか!」麻美が必死に風の刃を放ちながらも、その攻撃が効果を発揮していないことに焦りを感じていた。「どうすればこんなのを止められるの…?」
「諦めるな!」零は力強く叫び、再び剣を振り上げた。「必ず弱点があるはずだ!」
守田も力を振り絞り、巨神の足元に強力な一撃を放った。「空間よ、裂けろ!」拳が大地に激しく叩きつけられ、巨大な衝撃波が広がった。
しかし、巨神はびくともせず、その体はさらに彼らに迫ってきた。
「時間がない…何とかしないと!」麻美が息を切らしながら叫んだ。彼らの力は次第に消耗し、巨神の圧倒的な存在感が彼らの心を追い詰めていく。
零は一瞬、焦りを感じたが、それでも目の前の敵に向かって前進した。