■163
零たちが大地に立ち尽くす中、崩れ落ちた敵の残骸が風に吹かれて砂のように舞い上がり、次第にその姿を完全に消し去った。
戦いの余韻が、静かな大地に残る。
しかし、その瞬間、零は何か違和感を感じた。
「ん…?」零は周囲を見渡しながら眉をひそめた。「何か…足りないような気がする…」
麻美が零の側に歩み寄り、彼をじっと見つめた。「何が足りないの?」
零は剣を鞘に収めながら、静かに言った。「奴が…魔石を残していないんだ。」
守田が驚いた顔を浮かべ、「えっ、魔石がない?」と声を上げた。「まさか、あんな強力な敵が魔石を残さないなんてあり得るのか?」
零は無言で首を振りながら、足元に視線を落とした。「いや…確かに強敵だった。でも、何かが…おかしいんだ。これまでの魔物たちは、強ければ強いほど強力な魔石を残していた。それが今回、なぜ…」
その時、零の脳裏に過去の戦いがフラッシュバックする。
巨大な敵との死闘、その中で自分たちが何を手にし、何を失ってきたか。
彼は改めて、何か大きな秘密がこの地に隠されていることを直感した。
零は急に何かに気づいたように顔を上げた。「これが罠だったらどうする?」
麻美は驚いて目を見開いた。「罠って…どういうこと?」
零は拳を強く握りしめ、歯を食いしばった。「この戦い自体が、俺たちを弱らせるための罠だったとしたら?本物の敵はまだ、別の場所にいるのかもしれない。今まで倒してきた奴らは、俺たちの力を測るための駒に過ぎなかったとしたら…?」
守田は口元を歪め、「それが本当なら…俺たち、やばくないか?もうこれ以上の戦力は…」と呟いた。
麻美もその可能性に気づき、風を感じながら「そういえば…この場所、何かが変だと思ってたの。風の流れが…自然じゃないのよ。まるで…何かに誘導されてるような気がするの」と続けた。
零は静かに目を閉じ、深呼吸をした。「もし、この戦いが俺たちを罠に引き込むためだったなら…次に現れる敵は、今までとは桁違いの強さでくるはずだ。だが、俺たちはまだ倒れるわけにはいかない。ここまで来たからには、俺たちの使命を果たすしかないんだ。」
その言葉に、麻美と守田は決意を新たにし、力強く頷いた。
「でも、どうする?次が本物の敵なら…俺たち、正直かなり消耗してるぜ?」守田は不安げな表情を浮かべたが、その目にはまだ闘志が燃えていた。
零は拳を強く握りしめ、再び剣を手にした。「だからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかない。俺たちの力は、ただの戦いじゃない。仲間がいる限り、何度でも立ち上がれるんだ。」
その瞬間、大地が再び震え始めた。地面から不気味な音が響き渡り、辺りの空気が急速に重くなった。空が暗く染まり、遠くから重々しい足音が迫ってくる。
「来る…!」麻美が風の流れを読み取って叫んだ。
零は目を鋭くし、次の敵の出現に備えた。「みんな、準備しろ。今度こそ、全力で行くぞ。」
そして、大地が再び裂けるように揺れた瞬間、闇の中から巨大な影が姿を現した。敵の真の姿がついに露わになった。
その姿は、今までのどの敵よりも恐ろしいものだった。
全身が鎧で覆われた巨人のような存在で、その手には暗黒の剣を握りしめている。その赤い瞳が零たちを鋭く見下ろし、低い唸り声を上げた。
「これが…本物の敵か…」零は剣を握りしめ、決意を込めて前に進んだ。
「でも、今度こそ終わらせるわよ」麻美も風を纏いながら、零の隣に立った。
「そうだな、これ以上後退するつもりはない」守田も拳を構え、その瞳に確固たる決意を宿した。