■160
零たちが静かな夜道を歩き出してから数分、張り詰めていた空気は薄れてきたかに見えた。
しかし、彼らの背後には未だに感じ取れる異質な気配が微かに残っていた。
それはまるで次元の裂け目が閉じきっていないような、不穏なものだった。
星々が瞬く夜空の下で、一見平穏に見えるこの世界の裏側には、まだ未知の脅威が潜んでいるのではないかという不安が、彼らの胸に静かに広がっていった。
「本当に…終わったのか?」零は肩で息をしながら自問した。その言葉は、自分自身への問いかけでもあり、仲間たちへの確認でもあった。
「わからないわ」麻美が風の魔法を使い、辺りの空気を探るように手をかざす。「でも、何かまだ…この世界の底に潜んでいる感覚が消えないの」
守田も静かに頷き、拳を握り直した。「今の戦いで全てが終わったとは思えない…次元の裂け目が完全に閉じたようには見えたが、あの存在の力があまりに強大すぎる」
零は剣を再び鞘に収め、夜空を見上げた。
彼の瞳には、再び嵐が巻き起こる予感が映し出されていた。静寂の中に潜む見えない脅威。いつ次なる試練が訪れるのか、その不安が零の心を引き締め続けていた。
突然、彼らの足元が再び震え始めた。
「何だ…!」零が剣を再び引き抜き、周囲を見渡す。
地面の下から何かが這い上がってくるかのように、大地が大きく揺れた。
そして、その震えは瞬く間に彼らの足元から離れ、まるで周囲全体を包み込むかのように広がっていった。
「くる…!」麻美が咄嗟に風の結界を展開し、周囲を守ろうとした。しかし、その力はあまりに強力で、彼女の魔法では防ぎきれないほどだった。大地がさらに大きく揺れ、突然、裂けるような音が響き渡った。
「この音…!」守田が驚愕の声を上げた。「裂け目がまた開く!」
彼らの視界の中で、まるで地獄の門が開かれるかのように次元の裂け目が再び姿を現した。
今度の裂け目は、先ほどのものよりもはるかに大きく、その中からは凄まじい力が溢れ出ていた。
黒い霧が吹き出し、その中から現れたのは、これまでの敵とは異なる、まるで世界そのものを飲み込むかのような巨大な存在だった。
その姿は、漆黒の鎧を纏い、全身から凄まじいオーラを放っていた。
まるで何者にも屈しない圧倒的な威圧感を放ち、零たちの前に立ちはだかった。
その赤い瞳は、まるで燃え上がる業火のように輝き、ただ視線を合わせるだけで心を凍らせるほどの恐怖を与えていた。
「なんだ…こいつは…」零は一歩も引かず、その存在を睨みつけた。彼の心には恐怖が渦巻きながらも、それ以上に強い決意が芽生えていた。「俺たちが…倒す」
守田も拳を構え、冷静に次の一手を考えていた。「今までの敵とは桁違いだ…だが、俺たちにはまだ力がある。全力でいくぞ」
麻美も風の魔法を強化し、守田と零を守るための結界を再び張った。「これ以上、私たちを脅かす存在は許さない」
その瞬間、巨大な影が再び動き出した。
その一歩一歩が大地を揺るがしまるで空間そのものを歪ませるかのような強力な衝撃波を放っていた。零たちはその力に圧倒されつつも、決して後退することはなかった。
「ここで立ち止まってはいけない…!」零は自分に言い聞かせるように呟き、剣を構えた。「行くぞ、守さん、麻美!」
零の合図と共に、三人は同時にその巨大な敵へと向かって突進した。
守田は拳に青白い光を宿し、全身の力を込めてその存在に突き刺すように一撃を放った。
麻美は風の魔法を駆使し、敵の動きを封じるために風の刃を幾重にも重ねて攻撃した。
「炎よ、我が剣に宿り、敵を滅せよ!」零は全身に炎を纏わせながら、その巨体に向かって突進した。
三人の攻撃が同時に炸裂する。しかし、その巨大な敵は揺るぎもせず、まるで彼らの攻撃を嘲笑うかのように立ち続けていた。
その鱗は何度剣を叩きつけても、微動だにしない硬さを誇っていた。
「くそ…何をしても効かない…!」零が焦りを隠せず、剣を振り下ろし続けたが、その刃は巨体に傷一つ付けることができなかった。
「守さん、零君、引いて!」麻美が叫びながら、一度防御を強化するために風の結界を再展開した。
その瞬間、巨大な敵の腕が動いた。
まるで大地を叩き割るかのような一撃が彼らに迫り、風の結界は音を立てて崩れ去った。
三人は弾き飛ばされ、大地に叩きつけられるように倒れ込んだ。
「くそ…」零は痛みに耐えながら立ち上がろうとするが、その目の前には再び迫る巨大な影があった。
「まだだ…まだ、俺たちは負けてない!」零は立ち上がり、剣を再び握りしめた。「守さん、麻美、もう一度!」
その言葉に、守田と麻美も立ち上がった。彼らの目には、絶望に屈することのない強い闘志が輝いていた。
「この試練を超えて…次へ進むんだ!」零の叫びが夜空に響き渡った。
その瞬間、彼らの体が再び炎と風、そして空間の力に包まれた。