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■157

空が激しく揺れ、異質な光が零たちを包み込む。

まるで世界そのものが崩れ去るかのように、次元の裂け目から異形の存在がゆっくりと姿を現した。

先ほどの生物とは比較にならないほどの威圧感。その闇のように黒い巨大な体躯は、まるで地獄の番人のように立ちはだかり、その全身を覆う鎧のような硬質な皮膚が、不気味に鈍い光を放っていた。

赤い瞳は鋭く彼らを見据え、まるで燃え盛る炎が瞳の奥で渦巻いているかのようだ。


「…次はこいつか。」零が低く呟いた。その声には、過去の戦いとは異なる緊張感が滲んでいた。


守田が拳を握りしめ、その目には鋭い光が宿っていた。「今までの敵とは違う…だが、俺たちは絶対に引かない!」


零、麻美、守田。三人の体に一瞬で緊張が走る。

今まで何度も命を懸けた戦いを乗り越えてきた彼らでさえ、今目の前に現れたこの異形の存在に対しては、圧倒されそうになる。

それでも、胸の中に宿る燃えるような闘志が、彼らを前進させていた。


「みんな、気をつけて!この裂け目が完全に開いてしまったら、もっと強力な敵が来るかもしれない!」麻美の声が鋭く響き、彼女は風の結界を強化しながら、周囲の動きを見極めていた。


零が剣を構え直し、力強く叫んだ。「その前に、こいつを倒す!」


その瞬間、異形の生物が大地を揺るがすように一歩を踏み出した。その一歩は、地鳴りを引き起こし、空間が震え、周囲の空気は一瞬で凍りつくような冷気に包まれた。まるで時間が止まったかのように感じられる中、次元の裂け目からはさらに暗黒の霧が噴き出し、三人を取り囲んでいた。


「くっ…!」麻美が歯を食いしばり、結界を維持するために全力を尽くしていた。だが、霧が彼女の風の結界を侵食し、その勢いは徐々に弱まっていく。麻美は焦りを感じつつも、何とか耐え抜こうと必死だった。


「私が何とかするから…守さん、零君、お願い…!」


麻美の緊張した声に応え、守田は一歩前に踏み出した。彼の拳には青白い光が宿り始め、その光は次元をも捻じ曲げる力を帯びていた。


「空間を捻じ曲げられるのは、お前だけじゃない…!」


守田が空間魔法を解放した瞬間、異形の生物を取り囲む空間が大きく歪み始めた。

その力は次元の裂け目にも干渉し、異次元の存在を抑え込むように空間を縛りつけた。


「今だ、零!」守田の声が空に響いた。


その声を聞いた瞬間、零は燃え上がる炎の如く前へと突進した。

全身を炎が包み込み、剣先からは燃え盛る火の渦が渦巻く。その炎はただの火ではない、零の魂そのものが宿っていた。


「炎よ、我が剣に宿り、全てを焼き尽くせ!」


零の叫びと共に、剣が異形の生物に突き刺さる。瞬間、爆発するように炎が広がり、巨大な影を包み込んだ。生物の苦しげな咆哮が大地を震わせ、全身が燃え上がりながら捻じ曲がった。


「…やったか?」零が息を切らしながらその場に立ち尽くす。だが、炎の中から再び立ち上がるその姿。まるで不死身のように、決して倒れることはなかった。


「まだだ…!終わってない!」零は再び剣を振り上げ、次なる一撃を放とうとしたその瞬間。


「零君!止めて!」麻美が鋭い声を上げた。


零が一瞬動きを止めると、麻美は風の力を解放し、竜巻のような風が異形の生物を取り囲んだ。

結界はさらに強化され、その風は次元の裂け目から生物を隔てるように防御壁を張った。


「これで…奴を次元に戻す!」麻美が両手を広げ、風の力を最大限に引き出していく。

その瞬間、次元の裂け目が大きく揺らぎ、生物の体が徐々に次元の狭間へと引き込まれていった。轟音と共に、影は再び裂け目の中へと吸い込まれていく。


「今だ、零君!」


麻美の声に促され、零は剣を握り直し、最後の一撃を振り下ろした。

剣先から放たれた炎が次元の裂け目に吸い込まれ、完全に閉じ込める力となった。次元が完全に閉じられると同時に、辺りには再び静寂が戻った。


「終わった…のか?」零が肩で息をしながら仲間たちを見渡した。麻美も守田も、無事だった。冷たい夜風が再び彼らの頬を撫で、静寂の中で次なる試練の気配はなかった。


「やったな…」守田が拳を開き、ほっとした表情を浮かべた。


「まだ…これからよ。」麻美が静かに答え、息を整える。「でも、今は…少しだけこの静寂を楽しみましょう。」


零は頷き、三人は再び夜の街を歩き出した。

星が輝き、風は静かに彼らを包み込み、次の試練を迎える前の短い平穏を与えていた。


それは、次元の裂け目を閉じた後の、一時的な安息だった。

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