■116
薄暗い森の中、零、麻美、守田の三人は魔物を討伐した後、一息つくために木陰に腰を下ろしていた。勝利の喜びが心の中に広がっていたが、同時に疲れも感じていた。
周囲の静けさに包まれながら、彼らは互いに気を使いながらリラックスすることにした。
「さて、これから何をする?」零が冗談めかして尋ねた。「次の魔物を探すか、それとも、休憩の後にカラオケでも行くか?」彼の目には、何か楽しげなアイディアが浮かんでいるようだった。
麻美は笑いながら答えた。「カラオケ?ここは異世界なんだよ!歌う場所なんてあるの?」
「大丈夫、俺たちの声があれば、どんな魔物も驚いて逃げていくはずだ!」守田が言うと、彼の表情は真剣さの中にもユーモアが漂っていた。
その瞬間、森の奥から不気味な音が響いた。「…もしかして、誰かが本気でカラオケをやろうとしてる?」零が目を丸くし、周囲を見渡した。すると、次の瞬間、突如として現れたのは巨大なゴブリンだった。大きな耳と目がキラキラと光り、こちらを見つめている。
「うわぁ、どうする?こいつ、まさかカラオケを邪魔しに来たのか?」麻美が笑いながら言った。
守田は苦笑しながらも構え、「まさか、俺たちの歌声に嫉妬してやってきたのかもしれないな。」
ゴブリンは彼らの様子を見て、さらに近づいてくる。零は突然の展開に焦りながらも、ひらめいた。「そうだ!みんなで歌を歌って、このゴブリンを驚かせよう!」
「え、マジで?」麻美は一瞬驚いたが、零の意気込みに触発され、笑いをこらえながら言った。「それなら、私も歌うよ!」
守田は微笑みながら頷く。「じゃあ、俺も参戦する。みんなで力を合わせよう!」
三人は一斉に歌い始めた。突如として森の中に響き渡る彼らの声は、周囲の静けさを破るものだった。異世界の魔物相手にカラオケとは、まるでギャグのような状況だったが、彼らは全力で歌った。
「♪君がいるから、僕は強くなれる!♪」と、零の歌声が響くと、守田が続けて「♪どんな困難も乗り越えて、夢を叶えるために♪」と歌い上げた。麻美も「♪心を一つにして、明日を迎えに行こう♪」と加入する。
その瞬間、ゴブリンは驚きの表情を浮かべ、彼らの歌声に圧倒されて立ち尽くした。周囲の魔物たちも次々とその様子を見て、思わず止まってしまう。
「やった!これで勝てるかも!」零が叫ぶと、歌い続けることに決めた。
歌声が高まり、感情がこもる中、ゴブリンはついに耳を押さえ、驚愕の表情で後退し始める。「グオオオオ!」と叫びながら、彼は森の奥へと逃げていった。まるで彼らの歌声が恐怖のあまり、逃げるように聞こえた。
「勝った!」麻美が手を叩き、笑顔を見せた。「これぞ、異世界でのカラオケ作戦!」
守田も大笑いしながら、「思ったよりも効果があったな。次回はカラオケ大会を開こうぜ!」と提案した。
零は楽しげに頷きながら言った。「それじゃあ、次の敵が来るまで、練習するか?」
三人は再び笑い合い、異世界の中で生まれた意外なカラオケの思い出を胸に、さらなる冒険に向かう準備を始めた。どんな困難が待っていようとも、彼らの絆は一層深まったのだった。