■105
宿屋の柔らかな灯りに包まれ、零、麻美、守田は女神の言葉に耳を傾けていた。女神の光は静かで穏やかだったが、その中には何か神聖で、そして挑戦を前にした高揚感を抑えられない緊張感が漂っていた。彼らの胸の内には、新たなる試練へと向かう決意が少しずつ強まっていく。
「さて、闇の剣士との戦いに挑む前に、あなたたちはまず彼の弟子である存在に向き合う必要があるの。」女神は静かに告げたが、その声は不思議な威厳に満ちていた。
「弟子…ですか？」麻美が少し眉をひそめて尋ねた。その声には、これまでに経験してきた戦いの強敵たちを思い返す緊張が滲んでいた。
女神は微笑みを絶やさずに続けた。「彼の名は『影の使者』。闇の剣士から直接、影の力を授かった者。彼の能力はあなたたちに試練を与え、あなたたちの真の力を引き出すものとなるでしょう。」
「影の使者…その名前からして、ただの敵ではないようですね。」守田は冷静な表情で言ったが、内心の張り詰めた気持ちが声に滲んでいた。
「その通りです。彼は影を纏い、姿を隠すことが得意な存在。力強い敵でありながら、彼に対抗するためには、影に潜むものの真実を見抜く力が必要となるでしょう。」女神の言葉は静かながら、彼らの覚悟を試すかのようだった。
「どうすれば、彼に出会えるのでしょうか？」零が真剣な表情で尋ねる。彼の中にはすでに戦いに挑む決意が固まっていた。
女神は指をかすかに上げ、町の外れを指し示した。「彼は森の中に潜んでいる。彼の影の力を使い、姿を隠し続けています。見つけるのは容易ではないでしょう。ですが、彼の影を捉える術は、あなたたちの力と知恵次第です。」
「見つけるのがまず最初の試練というわけね。」麻美が頷き、心の中で作戦を練り始める。
「影の使者との戦いは、ただの力比べではない。」守田が静かに付け加えた。「彼を倒すには、こちらから先手を打ち、彼の動きを封じる必要があるだろう。」
女神は穏やかな笑顔を見せながら頷いた。「そう、あなたたちの戦いはただの武力ではなく、心の強さと絆が試されるものです。彼の影の力に惑わされず、自分たちの道を信じて進むのです。」
「わかりました、女神。俺たちは必ず影の使者を討伐し、その力を自分たちのものにします。」零の声は強く、そして揺るぎない決意に満ちていた。彼の言葉に麻美と守田も深く頷き、彼らの心は一つになった。
女神はその決意を見届け、光を放ちながら彼らを励ました。「私は常にあなたたちを見守っています。恐れずに進み、信じた道を歩みなさい。影の使者に打ち勝てば、さらなる力とともに、次なる試練が待っているわ。」
零たちが感謝の意を示すと、女神の光が次第に薄れ、彼女の姿は静かに消えていった。だが、彼女の言葉は彼らの心に深く刻まれ、次の冒険へと駆り立てていた。
「さあ、行こうか。」零が勇気をみなぎらせ、仲間たちに向かって声をかけた。「影の使者に立ち向かう準備は整った。まずは森の中へ向かおう。」
彼らは宿を後にし、町の外れへと進んでいった。森へ近づくにつれ、木々の影が長く伸び、まるで闇が彼らを取り囲むかのように迫り来る。樹々が不気味に揺れ、薄暗い影がその隙間から這い出してくるかのようだった。
「気をつけて、いつ現れてもおかしくない。」麻美が低い声で警戒を促す。彼女の胸には、かすかな緊張感が波打っていた。
「冷静に進もう。影の使者は簡単には姿を現さないだろう。」守田は冷静な目で周囲を見張りつつ、進む足音を抑えた。
森に入ると、周囲はまるで時が止まったかのような静けさに包まれた。彼らの足音だけが微かに響き、その静寂は心に重くのしかかる。「この森の中に奴が潜んでいるなんて…」麻美が小さくつぶやいた。
「大丈夫、俺たちは一緒だ。どんな敵が相手でも、力を合わせれば乗り越えられる。」零の言葉は落ち着きと勇気に満ちていた。その言葉に、麻美と守田も再び強く心を引き締めた。
その時、かすかな風の音に紛れて、低いざわめきが聞こえた。「誰かが近づいている…」守田がすぐに気配を察し、周囲を警戒する。
「影の使者かもしれない。」麻美が緊張を抑えた声で言った。
次の瞬間、彼らの前に、まるで闇そのものから生まれたかのような存在が現れた。黒い霧のように薄暗いシルエットが揺れ動き、その姿は森の影に溶け込んでいた。
「ここで何をしている？」影の使者が低く冷たい声で問いかけた。その声は、まるで寒風が吹き抜けるように冷たく、周囲の温度が一瞬で下がったかのように感じられた。
「お前を討伐しに来た！」零はまっすぐに影の使者を見据え、その声には決意と炎のような力がこもっていた。
影の使者は冷たい笑みを浮かべ、「そうか、ならば試してみるがいい。ただし、俺は影そのもの。影を倒すつもりなら、覚悟することだな。」その言葉には不気味な力が宿り、森全体が暗闇に包まれたかのように感じられた。
緊張感が頂点に達し、零、麻美、守田はすぐに身構えた。彼らは一瞬の油断も許されない状況に、心を一つにし、影の使者との対峙に備えた。
