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商談は進むにつれ、商人の目は次第に彼らの手に輝く炎の石とそのブレスレットに引き寄せられていた。最初は魔物の素材に夢中だった彼の目も、いつしかその光り輝く宝石に釘付けとなり、顔に期待と興奮が色濃く浮かんでいた。
「君たち、これだけの貴重な素材を持っているんだ。もしかすると、他にも売れるものがあるかもしれないね?」商人はニヤリと笑い、目の前に並んだ魔物の素材を手で撫でながら言った。その声には、欲望が滲んでいた。
そして、商人の視線が零たちの腕に装着されたブレスレットに移り、その目は一瞬で貪欲な光を帯びた。「あのブレスレット…素晴らしい魔石でできているじゃないか。もし良ければ、私に譲ってくれないか?」商人の口元に浮かぶ微笑は狡猾で、まるで罠にかかった獲物を見つけたかのようだった。
その言葉に、零たちは一瞬驚き、互いの顔を見合わせた。まさか、こんな申し出をされるとは思ってもみなかった。しかし、商人の期待に満ちた目はさらに強い欲望を燃え上がらせ、手を擦り合わせながら迫ってくる。「そのブレスレット、実に魅力的だ。私の店で売れば、きっと驚くほどの高値がつくだろうよ!」
麻美は一瞬ブレスレットに目を落としたが、その瞬間、彼女の心には強い決意が固まった。彼女は穏やかながらも確かな口調で言った。「申し訳ありませんが、このブレスレットは私たちにとって大切なものです。手放すことはできません。」
零も麻美に続き、しっかりとした声で言った。「そうだ、これは俺たちの冒険の証なんだ。俺たちの力と決意の象徴だ。」
その言葉に、商人は少し驚いたように目を細めたが、諦める様子はなく、さらに執拗に迫ってきた。「だがな、このブレスレットにはもっと価値があるんだ。君たちがそれを私に譲ってくれれば、さらに良い取引ができる。私も君たちも、共に利益を得ることができるんだ!」彼の声は興奮でかすかに震え、熱意が増していく。「素材で得られる金額も相当なものだが、そのブレスレットはそれ以上の価値がある!考え直してみてはどうだ?」
その言葉に守田は一瞬だけ思案するように黙り込み、冷静な目で商人を見つめた。そして、ゆっくりと、しかし確固たる決意を込めて言った。「いいえ。私たちの決意は揺るがない。このブレスレットは、私たちが共に戦い抜いた証であり、何物にも代えられないものだ。」
商人の眉間には不安と苛立ちが浮かび、苦々しげに息をついた。「本当にそのブレスレットを手放さないのか?商売の世界は時に厳しいものだぞ…金があればどんな困難も乗り越えられる。」
「私たちの絆や決意は、金では測れません。」零の声には不屈の意志が込められていた。「このブレスレットは、俺たちが共に乗り越えた試練の象徴だ。どんなに高価なものでも、これを手放すことはできない。」
「そう、私たちの冒険はこれからも続くけれど、このブレスレットはその一部であり、仲間たちとの絆を繋ぐものなの。」麻美も静かに、しかし強く続けた。「力を得るために他人の手を借りることも、ブレスレットを売ることも考えられないわ。」
その言葉に、商人はしばらく黙り込んだが、彼らの決意が真剣であることを理解したのだろう。眉をひそめつつも、ゆっくりと息をつき、ついに降参するかのように肩をすくめた。「分かった。君たちの意志を尊重しよう。そう簡単には諦められないが…君たちの言葉に敬意を表するよ。」商人は少し残念そうな表情を浮かべつつ、静かに身を引いた。
彼らの決意に満ちた姿は、商人の目にも鮮やかに映り、次なる冒険への旅立ちを予感させるものだった。