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■9 拳に宿り、敵を砕け!  / 守田、東京にて  / 妖魔王リヴォールの大きな大きな勘違い

守田はジェネラルオークの魔石を手のひらでそっと握りしめ、その冷たさと重みを静かに感じ取っていた。

魔石を握った瞬間、守田の手のひらに心地よい脈動が広がった。

冷たさの中に微かな温もりが感じられ、それはまるで命が宿っているかのようだった。

その輝きは、時折きらめき、空間に緊張感をもたらす。

それを見つめていると、魔石がただの石ではなく、異次元の力を秘めた存在であることが直感的に伝わってくる。守田は、これが自分の力となり、仲間と共に試練を乗り越えるための鍵になることを強く感じた。

彼の表情には、期待と不安が交錯し、微かに汗が滲んでいた。「これで…俺もついに魔法が使えるかもしれないな…」とつぶやく声には、新たな力に対する興奮と未知の恐怖が混じっていた。彼の目には、何か新しい決意が静かに芽生えつつあった。


「守さん、試してみて。きっと、うまくいくわ」麻美の声は、穏やかでありながら、仲間としての深い信頼が込められていた。その微笑みは、まるで彼を包み込むように温かく、守田の中に眠る勇気を引き出すかのようだった。彼女の眼差しは、心強い仲間としての決意を伝える光となり、彼を前へと押し出していた。


守田は静かに息を吸い込み、魔石を数珠に組み込む準備を始めた。指先は緊張で震えていたが、その背中には揺るぎない覚悟が感じられた。

自衛隊での訓練では、肉体的な限界を超えることが求められてきたが、今彼が直面しているのはそれとは違う、未知の力を制御するという挑戦だった。

心の奥に小さな不安が芽生えたが、それを抑え込み、代わりに仲間と共に勝利を掴むための決意が胸に燃え上がった。魔石が数珠に組み込まれると、淡い光が彼の体を包み、光が魔法陣を描くように輝き始めた。そして、その瞬間、守田の体に新たな力が流れ込んでくるのを感じた。全身に力が漲り、心臓の鼓動が全身を支配するように響いた。まるで森そのものが彼の内なる力を目覚めさせ、強さを与えているかのような感覚だった。


「拳に宿り、敵を砕け!パワーストライク!」守田の声が静寂を破り、その言葉とともに彼の拳が圧倒的な力で輝き始めた。拳はまるで自然のエネルギーが凝縮されているかのようで、周囲の空気が震えるほどの力がそこに宿っていた。森の静寂に響くその力強い声は、彼の決意を物語り、森全体がその力を認めるかのようだった。


守田は一歩前へと進み出し、その拳を大岩に叩き込んだ。轟音が響き渡り、岩は粉々に砕け、大地にその破片が散り広がった。その光景は、まるで彼の力を祝福するかのようだった。「これが…強化系魔法か…」守田は呟きながら、自らの拳に残る震えを感じた。彼の拳には、これまでとは異なる確かな力が宿っていた。それは、単なる筋力以上のもの――彼自身が手に入れた新たな力の象徴であった。


「すごい!守さん、本当に魔法が使えるようになったのね!」麻美の声は、驚きと喜びに満ち溢れていた。彼女の目は輝き、その期待感が彼女の表情に溢れ出ていた。


守田は少し照れたように微笑んだが、その目には新たな自信が宿っていた。「まだ慣れてないが…確かに、この力を感じる。」その言葉は控えめでありながら、力強い確信を含んでいた。


「これで俺たち全員が、魔石の力を使えるんだ」零が守田の肩を軽く叩き、満足そうに微笑んだ。

零は守田のブレスレットを見つめ、思わず手に取ろうとした。「これが…魔石の力か。こんなに強力なものがあるなんて思わなかったよ」彼の声には驚きと興奮が入り混じっていた。「このブレスレットがあれば、俺たちは何でも乗り越えられるかもしれないな」零の指先がブレスレットの輝く魔石に触れた瞬間、温かな力が手に伝わり、彼の心に不思議な安堵感をもたらした。

「この力を使いこなせれば、次にどんな敵が現れてもきっと大丈夫だろう」


だが、麻美は一瞬顔を曇らせた。「でも、次に待ち受けているのは、ただのモンスターじゃないかもしれないわ…アリスが言ってたように、もっと強大な敵が現れるかもしれない」その言葉には不安がにじんでいたが、彼女の瞳には変わらぬ強さが宿っていた。


その瞬間、アリスの軽やかな声が彼らの意識に響いた。「その通りよ~。これから先、もっと強力な魔物が待ってるかもね~。でも、心配しなくて大丈夫よ。アナタたちには魔石があるし、私もサポートするから安心して~」


零はアリスの言葉を受けて、再び決意を固めた。「簡単にはいかないだろうけど、俺たちは魔石を手に入れた。どんな試練が来ても、負けるわけにはいかない」


守田は静かに頷き、短く「やってやるさ」と応じた。その言葉には、これまでの経験と仲間への信頼がこもっており、彼の瞳には次の戦いに向けた強い意志が宿っていた。


「次の場所へ向かおう」零が言うと、彼らは新たな冒険の一歩を踏み出した。


霧の立ち込める荒野を越え、遠くにそびえる巨大な山々へと足を進める。

霧が彼らの足元を覆い、まるで大地が生きているかのようにうねりながら広がっていた。遠くにそびえる山々は、神々が住む世界へと続く門のように彼らを見下ろし、何かしらの試練を予感させていた。彼らは一歩ずつ足を進めるごとに、大地が低く震えるのを感じ、次に待ち受ける未知の脅威に胸が高鳴った。


彼らの行く先に何が待ち受けているのかは分からなかったが、魔石の力を手にした今、彼らの心には揺るぎない覚悟があった。

どんな試練が待ち受けていようと、彼らはそれを乗り越えることを確信していた。


遠くの空に、一筋の閃光が走り、すぐに消え去った。

それは、彼らを未来へと導く道標のように見えた。

守田はその閃光をじっと見つめ、自分の選んだ道が正しかったことを改めて感じた。




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守田、東京にて



守田は、まだ暗い早朝の都会の空気を吸い込みながら、ため息をひとつついた。かつては日々の訓練が彼にとっての「日常」だったが、今ではそれも過去の話。現在は毎朝決まった時間に起き、スーツを身にまとい、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に乗り込む。電車の中での立ち位置を確保するだけで一苦労だ。かつての自衛官時代に鍛えた忍耐力が試される瞬間である。だが、そこに自衛官時代の緊張感や誇りはもうない。あるのは、ただ周囲の疲れた顔に混じって、自分もまた無表情で立ち尽くすだけだ。


会社に着くと、冷たい蛍光灯の光が無機質なオフィスを照らしている。守田は無言で自分のデスクに向かい、パソコンの画面に目を落とす。デスクの上には山積みになった書類、未読のメールの数々。資料作成、顧客対応、数字のチェック――今日もまた、ひたすらパソコンの画面と睨み合う一日が始まる。以前は身体を張って人を守ることに自分の価値を見出していたが、今ではただ、終わりの見えない業務に追われるだけだ。心の中で、ただ「これが本当に俺のやりたいことだったのか?」という疑念がちらつく。


彼が特に苦手とするのは、上司とのミーティングだ。無駄に長く、終わりの見えない議論が続く中で、守田の頭には過去の任務がふとよぎる。かつては、緊急時には即決が必要とされ、何かあればすぐに動くのが当たり前だった。しかし、ここでは些細な事でも上層部の承認が必要であり、そのために何度も報告書を作り直す羽目になる。何もかもが「慎重に」そして「丁寧に」進められなければならない。まるで、現場の意見や実際の状況は二の次で、ただ形式だけが重視されているかのようだ。そのたびに、守田は心の中で「こんなことに意味があるのか?」と自問するが、口には出せない。


昼休みが来ると、社員食堂に行く気にもなれず、デスクでカップラーメンを啜ることが多い。自衛官時代は、皆で汗を流して駆け抜けた後に食べる食事が唯一の楽しみだった。が、今はただ、無味乾燥なカップ麺を口に運びながら、午後に控えた仕事のことを考えずにはいられない。


午後もまた、電話対応と会議の連続だ。顧客からのクレームや、上司からの無理な要求が次々と舞い込む。守田は、電話口で表情を崩さず対応するが、その内心では怒りが少しずつ募っていくのを感じる。彼はかつて人を守るために戦ってきたが、今では、誰かの理不尽な要求をただ黙って受け入れなければならない。「俺がここにいる理由は何だ?」そんな疑問が、胸の奥底にいつも渦巻いている。かつての誇り高き自分は、どこへ消えてしまったのだろうか。


夕方になると、疲れ切った体を引きずるようにしてオフィスを後にする。夜の空気を吸い込みながら、守田はふと、かつての仲間たちの顔を思い出す。共に過ごした日々、笑い合い、励まし合った仲間たち。今の職場には、そんな絆を感じる相手は誰一人としていない。帰り道に通りかかるコンビニの明かりが、彼に無機質な現実を突きつけるようだった。


家に帰ると、薄暗い部屋の静寂が彼を迎える。守田は靴を脱ぎ、ソファに腰を下ろし、深いため息をついた。この日常が続く限り、彼はただ「生きている」だけの存在になってしまうのかもしれない。心のどこかで、再び自分が誇りを持って生きられる場所を探しているが、それが今の生活で見つかるとは思えなかった。


こうして、今日もまた、かつての自分を懐かしむだけの夜が静かに過ぎていく。


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妖魔王リヴォールの大きな勘違い



暗闇の奥深く、妖魔王は冷ややかな思考に沈んでいた。


自らが何者であるのか、そしてなぜここにいるのか――その答えは明確で、疑問の余地など一切なかった。


「-ダーク-のためにすべてを捧げる」。ただそれだけが彼の存在理由であり、そこに一片の迷いも存在しなかった。



彼の中には、圧倒的な使命感が根を下ろしていた。「この世に生まれたのは、-ダーク-の指示のもと、数多の世界を征服し、その地を暗黒で染め上げるため」。その信念が彼の意識を支配していた。周囲にはひざまずく従者たちの影が群れをなし、彼の一言で動き出し、世界を侵略する準備が整っていた。彼らにとって、妖魔王は恐怖と支配の象徴であり、彼もまた、その役割に疑いを挟むことなく、誇りを感じていた。


ただ、遠く、心の奥底には一筋のわだかまりがあることに気づく瞬間があった。

だが、それが何であるかも彼には理解できなかった。

断片のような感覚がふと湧き上がるたび、彼の意識はそれを押しやり、再び「征服者」としての自らの意志に集中した。

彼に与えられた命令は絶対であり、疑問を持つこと自体が許されない。彼は自らを、「-ダーク-が生み出した最強の従者」として強く認識していたのだ。



ある日、彼はふと、かすかな記憶の欠片に触れるような感覚を覚えた。

静寂に包まれた黒き城の中で、彼はただ一人、暗闇に身を委ねていた。深い闇の奥にうごめく感情が、かすかに蘇る。「私は…本当に、この役割を与えられたのか?」そんな疑念が微かに胸に湧いた瞬間、それを吹き飛ばすように強烈な使命感が蘇った。彼は冷笑を浮かべ、暗闇の中で呟いた。「俺は-ダーク-のために存在する。それ以上の意義など必要ない…」


彼の記憶の奥には、決して触れることのできない部分が封印されていた。

-ダーク-によって巧妙に施された


「意識の根源から消し去る至極の封印呪」


が、彼の記憶から一切の神聖さを消し去り、かつて自らが神であったことを忘れさせていたのだ。

その魔法は、彼の精神を徹底的に改変し、「妖魔王リヴォール」という存在をただの道具として作り上げるためのものだった。記憶の欠片がたまに浮かび上がることがあっても、それは薄霧のように儚く、次の瞬間には掴みどころもなく消えてしまう。


彼が目にするのは、無数の征服された世界の残骸であり、-ダーク-の望む「闇に包まれた世界」へと変貌する光景だ。その風景に何の疑問も持たない自分に気づくたび、心が微かに震えるような感覚に襲われることがある。しかし、その感情もまた忘却の魔法に絡め取られ、彼の意識の表層には達しない。


征服という使命に身を投じる彼は、目の前の闇の軍勢を見渡し、冷たい声で命令を下す。

「行け。我が主のために、この世界を闇で満たせ。」従者たちは一斉に頭を垂れ、彼の指示に従い進軍を開始した。その姿に一片の疑念も抱かない。なぜなら彼の存在は、その瞬間のためだけにあるのだから。


妖魔王は、自らの記憶が闇の中に沈むことが唯一の安息であると信じていた。






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