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【ChapterⅠ】Section:7 魔術

 視点を物理学的な高次元空間へと押し上げる。自分の認識範囲の三次元空間だけに限定しても、高次元を経由してまで完全に認識しなければ魔術は使用することができないのだが、通常なら想像すらできないようなことを魔術師は始めにマスターしなければならない。それを習得してようやく魔術を学ぶ権利を得ることができる。位階の中央付近になると、物理学的な次元のすべてを完全に認識する必要性が出てくる。三次元でより強力な魔術を展開するには高次元でも問題なく魔術を認識しなければならない。とはいっても、人間の中でも希少な才能を持つはずのほとんどの魔術師は、中級者になることすらできずに人生を終える。理論物理学上では六や二十二の余剰次元が考えられており、カルツァ=クライン理論の利用によってプランクスケールを用いる程度の大きさとされているが、もしかしたら形而上学的的に圧縮されているだけで三次元空間などと同様に下位の次元に対して無限より大きく存在するかもしれない。つまるところ、ステラは特に苦労することもなく魔術を学び始めることができた。高次元空間のようなものを簡単に認識できるステラからすれば、高次元の理解というものの難しさについて、知識こそあるものの理解することはできなかった。

 では何故高次元の視点を得なければいけないのか、それは魔法という言葉の第一印象とは全くかけ離れた実体である、完全に学問的である魔法の性質が原因だった。例として、一般的に家庭用ゲーム機で遊べるファンタジー要素を持つロールプレイングゲームにおける魔術のような現象を起こすには、その現象を出現させる座標を取得する必要が出てくる。例えば三次元空間で空中からペンを取り出すには、元々のペンがあった座標、そしてペンを出現させる座標を取得する必要があるが、対称次元の座標は当該次元内では何をしても取得することができないのだ。その為高次元、この場合では最低でも四次元空間に登ることで三次元空間の座標を取得する事ができるようになる。

 より論理的思考能力が優れた魔術師になると、より強力な、より精密な魔術を行使することができる。ある意味では場がデジタルから高次元に変化したプログラミング技術とも例えられ、そのようなものに精通している人物は自然と優れた魔術を行使できるようになるはずである。高次元を理解できるかはまた別なので、シリコンバレーの最も優れたプログラマーが優れた魔術師になれるかどうかは話は異なるが。あるいは、電脳空間の正体は二次元空間で、魔術師が魔術を通して四次元空間から三次元空間を改変するように、コンピュータを用いて三次元空間から二次元空間を改変しているのかも知らない。


 ステラは始めて魔術を行使するにあたって三次元空間と一次元時間の時空連続体を越え、四次元空間へと意識を移動させた。そこからは魔術のセオリー通りに空間次元内の座標を確認した。その後に現在属している時間次元に自身だけが認識できるマーカーを付け、時間の概念自体を越えることでより精密な魔術の行使を可能にして──通常のカリキュラムであれば時間次元については特に触れないが、ステラは通常よりも難度の高いものをアートマンに受けさせられていた──から、その位置に物理的な物体を生成した。その代償としてステラの肉体を構成する魔素(Dynam)──形而超学的歪曲点とも──が同等の価値の分だけ”閉じた”。生成された水はそのまま重力に従って落下し、花壇の軽く土が盛り上がった場所に落下し、それを湿らせた。

 現在は魔法と魔術について勉強しつつ、情緒を育むために用意されたローズマリーを育て始めていた。ローズマリーは魔法に欠かせない植物であり、特に女性の魔術師なら栽培を経験したことのない者は誰一人としていないと断言できるほどである。ローズマリーは金などと並んでマナ(Pata Score)を多く含有しており、論理的思考や推論が特に重要である魔法にとって多量のマナによって増幅された信仰は非常に優れた魔術触媒として機能するのだ。ステラもその例に倣うのと同時に生命に対して責任を持つことで倫理観等を育てるのを同時に行なうことで、効率的にステラの教育を進める目論見があった。アートマンはそのためだけに帰宅前の一日だけでタスクを既に十年分終わらせており、必要な教育をすべて終えるには十分すぎる時間を確保していた。


「──こんなものかな?」


 魔術で水やりを終えたステラは、元々使うつもりで持ってきた──魔術の練習になるとして使用を禁止されたが──じょうろの位置を魔術で倉庫内の元々じょうろが置いてあった座標に書き換えると、じょうろはステラの手から消えて倉庫に再び納まった。本来ならば初心者のうちは魔術を使った際の対価として発生する魔素の消費により倦怠感や喪失感を多かれ少なかれ感じるはずなのだが、原子を埋め尽くすほどの品質の魔素を大量に保有しているおかげなのか、そのようなものは特に感じずに最初から魔術を使うことができた。不気味な光を放つ魔術の触媒として人為的に作られた神秘的な植物が吐き出した清純な空気が漂う植物園を抜けて扉を開けて、第一倉庫に戻る。通路としても使えるように整備されたスチールラックの海を通り抜けると、通常通りの屋敷の廊下と繋げる扉が現れる。扉を開けると廊下と、左にもう一つ扉があった。それも開くと、そこは第二倉庫であり、魔法に関連する物品が保管されている部屋だった。その中になんとなく自分で持ってきた触媒となる花を、植物園で採集する前にあったのと同じ格好でケースの中に追加した。


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