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【ChapterⅠ】Section:6 日没

「──とまぁ、これが我が家の歴史だ。どうだったかな?」

「正直、考えていたものよりずっと長かったし、結構な割合がドイツ史……なのかな?」

「ま、そうだろう。正直ドイツ自体と明確に癒着、そして魔術側の支配者として君臨しているからドイツ史との結びつきは強いし、便宜上アーノルトと記載しているだけで実際は昔の家名何かも別だし、歴史上にその名前が出ていても僕らと結びつけるのは案外難しいのさ」

「実際歴史というものは許されるかどうかは別として、誰でも歪める権利を持つのです。間違った歴史はすべての場合において自然淘汰されますが」

「ふーん……今でもツォレルン──ホーエンツォレルン家との残ってるの?」

「あると言えばあるし、ないと言えばないよ」

「……?」


 ステラは曖昧な解答に頭の上に疑問符を浮かべるが、あえて曖昧な解答をしたのだと露骨に示しているために大人しく続きを待った。


「ホーエンツォレルン家本家の繋がりは消滅したと断言できるほどに薄くなっている。まぁ、表に政治家なり何なりとして出てきたときに関わりを持ったりはしたけど、ほとんど王家にありがちな神話としてだけ残ってる形だね。神がその王に権利を与えたっていうありがちな神話。ホーエンツォレルン家の場合ではその神がアーノルト家に当たるね」

「本家、ってことは分家とは繋がってるの?」

「ラエティア王国の半ばくらいに純粋にアーノルト家の家臣としての家と、召使いとしての家に分かれてね。統治権を譲ったのは家臣としての家だ」

「ってことは、その召使いの方の家は残ってるし、今も関係を持ってるんだ」

「というより、一応エレンがそうなんだけどね」


 エレンがホーエンツォレルン──正確にはツォレルン家といった方が良いのだろうか、その分家の末裔であることに驚きつつも、納得した。そもそもがアーノルト家に召使いとして仕える為だけに存続してきた家系であるのならば、若いながらも少なくともこれまで見えた範囲では完璧に業務をこなす人材を排出できるのも当然なのだろう。ところで……


「ちょうど年齢的な引退が重なってね。修練を終えて居るのはエレンだけなんだよ。まぁ、あと少しすれば他の子も参加するから、家臣の数は一から増えるね」


 もはやアートマンに思考を読まれることに慣れてきたステラは思ったより当然な理由であることに驚いた。だが、それを生業としている家系は年齢層が富んでいる印象があるのだが、それにしてもエレン一人というのは納得がいかなかった。


「一応エレンよりも年上で、問題なく活動できるくらい若い世代はいるにはいるんだけどね。エレンの父親は早くに事故で亡くなってるし、母親も病気で寝込んでいる。他は召使いになるのを嫌って表の世界に出て行ったり、単純に修練に耐えられなくて死んでしまってね。その結果アーノルト家に来られるのがエレンだけになったという単純な話さ」

「修練って、そんなに過酷なの?」

「そんなに厳しかった記憶はありませんが……」

「まぁ、ぶっちゃけると普通に命を落とす感じだよ。肉体改造の疲労に耐え切れずに死亡したり、学習のときに精神を病んで自殺したり、まぁ一般人なら絶対に耐えられないような内容ではあるね」

「それ、色々と大丈夫なの?」

「問題ありません。我が家も一般社会とは距離を置いているし、そもそも修練を終えるまで戸籍が登録されません」

「問題しかないように聞こえるんだけど」

「今まで問題がなかったから大丈夫なのです。それに、数千年かけて”品種改良”を行なっているので、肉体的には耐えられます。ほとんどの死因が精神病に罹っての自殺です」

「この子は記録に残ってる中で最も優秀な子だ。一人でこの屋敷のすべての掃除も含めて、なんでもこなせる。この子だけがアーノルト家に来ているのもそれが理由の一つだね」


 遥かに壮絶なツォレルン分家の業を多少恐れたが、少なくともアーノルト家に直接仕えたものたちは間違いなくアーノルト家に忠誠を誓っていたのだろう。それこそ、二千年以上前から。それに、案外裏を見渡せばどこにもこのような家はあるのかもしれないと思案するが、それにしてもここまで狂気的に召使いを続けているのは控えめにいっても脳味噌が破損しているのではないかとも思うが、自身にとって有利に働いているようではあるので文句を言えなかったし、言ったとしても変える気はないだろうし、そもそもここまで一般的な感情だと思わしきもののシミュレートこそしたが、実際にはステラはこれに対して無感動的であった。家臣でさえそれだけ狂っているのに、アーノルト家がこれ以上に狂っていない理由はないだろうし、自身も、あるいは存在自体さえ狂っていないと断言できる自信がなかった。




 色々あったが、ひとまず勉強を止め、子供らしく遊ぶ時間が来た。心理学的あるいは生物学的に子供を何か遊ばせるとメリットがあるのだろうとこの場には明らかに不要な考えを持ちながら中庭──とはいっても雨水を防ぐためなのかガラスか何かで天井が覆われているので室内というべきかもしれないが──に配置された新品の遊具で遊んでいた。このような年頃だと親と一緒にこのような構造物で遊ぶものなのだろう、おそらく心身を育てるための。遊具で遊ぶために、もしくは遊ぶ中で動き回っていれば自然とある程度身体も鍛えられるだろうし、薄暗い部屋にいるよりかは明るい場所にいたほうが精神的にも良いのだろう。もっとも、ステラという名前の影響なのか、薄暗いところが好きな身としては不適合な環境に疲れているようにも見えるが。アートマンは早々にそれに気が付いたようで、アンジェリカにそれを簡単に伝えた後に太陽光を遮断し人口の照明だけで中庭を照らした。


「さて、午後は魔法についての勉強をするわけだが、その前に魔法について学ぶ上で大切な思考方法を教えよう」

「思考方法?」

「魔法を学ぶとき、魔法を扱うときは、この世界を物理的なものとして見るのは絶対にやってはいけないことだ」

「魔法だと唯物論的に見ちゃいけないなら、どういう風に見ればいいの?」

「純粋な情報として見るんだよ、世界を」


 情報、あるいは概念とは基本的に三つの要素によって構成されている。一つ目は、”原型”。その情報の起源となる事象あるいは概念自体であり、例えばヒンドゥー教におけるトリニティ、三位一体の概念は真の現実であるブラフマンが原型となっている。二つ目は、”意味”。概念を瓶として考えると、瓶は中身が何かしら存在しないと瓶として存在できない。そして最後は、その名の通り”概念”。何かしらの起源によって集合した意味全体を統括するのがそれであり、概念化しなければただ意味もなく高エントロピーの領域を作り出す事になるのだ。


「魔法とは、極端に言えば数式の形態の一種であり、世界を構成している情報を操作することで間接的に世界を書き換える方法なんだよ。そして、魔法の理論に基づいて世界を書き換える行為を魔術と呼び、魔術を行使するもの、世界を書き換える存在を魔術師と呼ぶんだ」

 魔術を行使する場であり、複素空間すべてに事象を投影する情報の領域には、数式と情報、そしてそれらの純粋な形態である概念だけが存在している。一つの概念から無限の情報が創造され、真の神である宇宙意識は情報を使って数式を組み立てる。その無限の数式と情報の影が複素空間であり、すべての論理なのだ。

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